第64話 大関の葬儀
魔王軍七幹部のフィスフェレムを俺が討伐して、既に二週間が経過しようとしていた。
フィスフェレムを討伐した後、セトロベイーナ軍とジェノニアの住民を救出し、十日ほどジェノニアに滞在した後、王都のチェンツオーネにリベッネ達と共に戻った。
回復魔法を使う事の出来ない俺が、ジェノニアにいる意味は無いので、女王様にさっさとフィスフェレムの討伐を報告しにチェンツオーネへと戻っても良かったが、
だが、一向に伊東は姿を現さなかった。
もちろん、いつ現れるか分からないので、ずっと待っているつもりだったのだが……。
チェンツオーネに大急ぎで戻らなければいけなくなってしまったのだ。
それは何故か。
俺の元クラスメイトであり、セトロベイーナ王国の勇者だった
俺がフィスフェレムを討伐した一週間後に容態が急変し、そのまま帰らぬ人となってしまった。
そうなると一気にチェンツオーネや宮殿内の守りが薄くなってしまう。
もともと、チェンツオーネ、そして宮殿内にいる女神の加護持ちは、瀕死状態の大関と情報を吐かせる為に捕らえた
二人の内の一人である大関が死んだら、女神の加護持ちが寺原だけになってしまう。
これでは心許ない。
それに、サンドラさんとメリサさんを宮殿の警護と寺原の監視役としていつまでもセトロベイーナ王国にいてもらう訳にはいかない。
二人はボルチオール王国の人間なんだから。
なので、セトロベイーナの女王からのボルチオール国王への親書の返答、そしてフィスフェレムの討伐、魔王の剣の存在、女神の加護持ちと魔王軍が組んでいる可能性がある事などの報告をする為に二人にはボルチオール王国へ帰ってもらった。
もちろん、国王へ俺からの伝言を伝えてもらうためでもあるが。
俺は、金輪際ボルチオール王国のためには何もしない。
ヴェルディア討伐だけはしてやるが、ボルチオール王国が他国から侵略されたり、他国と戦争が起きた場合、俺は一切関わらないと。
当たり前だ。
騙していたのだから。
そこまで俺はお人好しではない。
当然、俺の言葉に二人は微妙な顔をしていたが、納得はしてボルチオール王国へと帰った。
悪いのは、ボルチオール国王だと。
……とまあ、色々な理由があってチェンツオーネへと戻らざるを得なかった訳だが、もう一つだけ理由がある。
セトロベイーナ王国の勇者だった大関の葬儀が今日、行われるからだ。
セトロベイーナ王国の人間とはほとんど関係は無いが、大関に関しては元クラスメイト。
流石に葬儀に出ないというのは薄情だろう。
大関のお陰で、フィスフェレムを討伐する事が出来た訳でもあるし。
これが、俺の嫌いな人間の葬儀だったら絶対に出なかったが。
俺は渡された礼服を着て、会場へと向かった。
◇
大関の葬儀は、セトロベイーナ宮殿の庭園で行われている。
最初、大関の葬儀を庭園でやると聞いた時は、雑草は生え放題だし、枯れそうな花だらけだし、虫の死骸まで転がっているような庭園でやっていいのか? と思った。
だが、見違えるほど庭園はキレイに整備され、葬儀の会場として相応しくなっていた。
庭園には王都に住んでいる人間だけでなく、セトロベイーナの様々な街から駆けつけた領主や貴族。
そして大関に感謝の言葉を伝えたいという国民達が集まっていた。
……よほど大関は、セトロベイーナ王国の人達に尊敬されていたのだろう。
多くの人間が、涙を流して大関の死を悲しんでいた。
……一応、同じ勇者パーティだった
全くと言っていいほど、誰も佐藤の名前を挙げない辺り、佐藤の死に関しては何とも思っていなさそうだ。
まあ、裏切り者だしね。
「ジン様。こんな所へいたのですか? フィスフェレム討伐をした勇者が目立たない所にいてはいけません。さあ、わたくしと共に行きましょう」
話し掛けてきたのは、女王様だった。
当然周りには護衛の騎士もいる。
あまりにも参列者が多過ぎるので、もう少し人が少なくなってから大関の元へと行こうと思っていたのだが、見つかったか。
だが、俺に話し掛けてきたのは、女王様だけではなかった。
「やあ、
何故だ……。
何故、コイツがここにいる。
裏切り者が何故。
今更何をしに出て来たと言うんだ。
セトロベイーナ軍や国民に文句を言われるのが気に食わずに、フィスフェレムの甘い言葉に乗り、セトロベイーナ王国を裏切り、魔王軍の手先となったこの男が。
いや、それよりもこの男は何故。
自分の手で殺した大関の葬儀に参列出来ているんだ?
剣士イトーこと、伊東くんはさあ?
しかも、大関の葬儀だってのに、礼服すら着てない。
着ているのは、恐らくイーリスの手で作られた防具だろう。
しかも、血に染まった。
「あれ? やっぱり全然歓迎されてないよ。 一応僕だって、大関さんの仲間だったんだよ? 葬儀にくらい参加させてくれよ? あんまりにも歓迎されないからさ? ムカついて、数十人くらい殺しちゃったよ?」
そう言って、伊東はヘラヘラと笑うのだった。
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