第62話 複数起動
「ああ……その黒い剣……欲しい……欲しくてたまらんのじゃ!」
「……一体何が来る?」
フィスフェレムは何かの魔法を使った。
今の所、俺の目で確認した奴の魔法は誘惑だけ。
だが、これは誘惑ではない。
だとすれば、セトロベイーナ軍の人間から聞いていた魔法か?
序盤は精力(体力・気力・魔力)を奪う妨害の魔法、魔法を跳ね返す防御の魔法を使ってきたと言っていたし、その二つのどちらかかあるいは両方といった所だろう。
……だが、俺の予想は外れる。
フィスフェレムが突然、分身したのだ。
おい、聞いてねえぞ……こんな魔法を使ってくるなんて。
分身の魔法? いやそれとも幻覚や幻惑辺りの魔法で分身している様に見せられている?
何はともあれ、これはマズい。
一対一だったからこそ、防げていた誘惑が当たってしまう危険が跳ね上がった。
「ふふふ……誇って良いのじゃ。わらわがこの魔法を使うという事は、認めたということじゃ。一対一では、わらわの駒とする事が出来ないと」
「そうじゃそうじゃ。その通りなのじゃ」
「しかし、敗北を認めたと同時に決まった事が二つあるのじゃ」
「一つは、是が非でもわらわがお主をわらわの駒としたいということなのじゃ。この魔法は魔力の消費が激しくてのう……じゃから、あまり使わないのじゃよ」
「現に、セトロベイーナ軍とあの女勇者はわらわにこの魔法を使わせる事が出来なかったのじゃ」
「じゃが、もう一つはお主の敗北が決まったということなのじゃ。お主はわらわを本気にさせた……それが、敗因じゃ!」
勝利宣言をし、高笑いするフィスフェレム。
マジかよ……! 只でさえ本物と偽物の区別がつかねえのに偽物も普通に喋れるのかよ!
……いや、落ち着け。
増えたとはいえ、フィスフェレム本体が増えた訳じゃない。
だが、本物に斬りかかってしまった場合だ。
流石に至近距離からの誘惑は女神の黒じゃ防げねえ。
なら、最初から女神の藍を……ダメだ。
これでは、決め手に欠けて長期戦になってしまい、
……仕方ねえ。
俺も使うしかねえか。
複数の
色々とリスクがあるが……魔王軍幹部のフィスフェレムですらリスクを負っているのに、リスクを負わずに勝つ方が難しいだろ。
「
「ふふふ……一体何をするというのじゃ? お主はわらわに勝てんのじゃ。大人しくわらわの駒となって欲しいのじゃ」
「うるせぇ。勝つために俺もリスクを負うんだよ」
「ふふふ……勝つため……あまり笑わせないで欲しいのじゃ……のじゃ? のじゃ!? な、何なのじゃそれは!」
俺の女神の剣の変化に気付いたフィスフェレムは焦りだす。
フィスフェレムのあの余裕は、恐らくネグレリア辺りと情報共有していて、俺の女神の剣の能力や効果を知ったから。
現に、ネグレリアと組んで、女神の藍対策を打っていたのがその証拠だ。
だが、複数起動は同時に二つ以上の女神の剣の能力と効果を使える女神の黒の特有魔法。
これにより、今の俺は女神の黒と女神の藍の力を同時に使う事が出来る。
二本以上という事は、
それに、今の俺じゃまだ三本同時の起動はキツい。
せめて、ケント以外の六人の勇者の内、一人でも良いから死んで貰って、その死んだ勇者の女神の加護が俺に付与されれば大分楽になるんだろうけど。
「ふふふ……良い! 良いのう! 最高じゃのう! 流石は女神の加護を持つ者……いや、勇者じゃ! こうでなくては面白く無いのじゃ!」
「さて、今度はこっちの番だ。偽物も本物も全て俺が斬る」
「「「やれるものなら、やってみるのじゃ!」」」
恐らくこれは分身の……偽物のフィスフェレムだろう。
まず三体のフィスフェレムが俺に襲い掛かってきた。
二体は、攻撃魔法……残りの一体は妨害魔法といった所か……。
「食らうのじゃ! ブラックフレイム!」
「こっちはブラックサンダーじゃ!」
「避けられぬように、お主の動きを鈍らせて貰うのじゃ!」
流石だな、フィスフェレム。
遠くから攻撃魔法を放てば、女神の黒に斬られてしまうだけでなく、威力を増幅して跳ね返される危険がある。
だが、至近距離で攻撃魔法を放てば、跳ね返す事は出来ても、威力を増幅して相手に向けて跳ね返す余裕は流石に無い。
跳ね返した魔法が、味方の方へ行かないとも限らないというのが、女神の黒の弱点。
だからこそ、使える場面は限られている。
持ち主は守るが、持ち主の仲間までは守らないのが女神の黒。
そういや、イーリスもそんな事を言ってたな。
だからこそ、あまり使って来なかった訳だが、それだけで対策を打ってくるとは恐れいるぜ。
だけどな。
「全部、斬る」
所詮は、魔法によって作られた偽物。
斬れない訳が無いんだよ。
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