第44話 帝国の勇者の腰巾着

 セトロベイーナ王国宮殿付近の庭園は、ボルチオール王国の城付近にあった庭園に比べればお世辞にもキレイとは言えないものだった。

 雑草は生え放題で、人数不足の為世話が行き届いていないのか枯れそうな花に、虫の死骸だらけと、最早庭園と呼んで良いのか? これを庭園と言ってしまうのは普通の庭園に失礼に値するレベルの庭園だったが、人間が本気を出せばあれ以上酷くなるんだな。


 土や花、草が吹っ飛んでいるし、兵士達の死体……。

 ……いや、死体だったらマシか。


 そこら辺に兵士達の体の様々な部位が転がっている。

 

 凄い爆発音だったからな。

 恐らく、岸田きしだ女神の剣イーリス・ブレイドの能力によって起こった爆発に巻き込まれた為、岸田達を止めようとした兵士達はこんな無残な姿になってしまったのだろう。


 だけど、意外と死んだ兵士の数は少ないな。

 大爆発が一回と、その後二回爆発があった割にここで死んだ兵士は十人もいないんじゃないか?

 弓矢使いアーチャーに殺された兵士は六人だったし。


 ……ああ、なるほど。

 宮殿内で兵士にあまり会わない訳が分かった。

 ここには、兵士が十数人程しかいなかったのか。

 どんだけフィスフェレム討伐に兵士を始めとした軍の人間を割いているんだよ。

 それで、フィスフェレム討伐失敗したんじゃ人員不足にもなるわな。


 ……騎士と門番を含めても女王様を守る人間が三十人以下しかいないってセトロベイーナの宮殿ヤベーわ。

 ボルチオール王国の城なんか腐るほど人がいたのに。


 まあ、それよりもっとヤベーのは俺の元クラスメイト、即ち女神に選ばれた勇者パーティーがこんな事をやったという事実なんだがな。

 そんで、これから俺はそんな連中と戦うんだが。


 女神の加護を持っている弓矢使いを最大限警戒しながら、岸田達を探す。

 流石に攻撃魔法を纏って威力が上がった矢で脳天や心臓をブチ抜かれればいくら様々な女神の加護を手に入れた俺でも流石に死ぬ。


 イーリスが忠告していたからな。

女神の加護持ちを殺せるのは、女神の加護持ちと魔王軍幹部だけだから、君達はこっちの世界でなら無双出来るけど、裏を返すと女神の加護持ちが邪魔になったら自分達の手で殺さなきゃいけないデメリットがあるって。


 今まで俺が、恐怖する事なく戦えていたのも、死なないと分かっていたから。

 だが、今回の相手は違う。

 女神の加護持ちで、なおかつ人を殺せる奴らだ。

 最大限の警戒をそりゃするさ。


 だが、一向にアルラギア帝国の勇者パーティーとやらは見つからない。

 そろそろ、城門の辺りも見えて来たぞ……って城門の辺りが一番悲惨な事になってんな。

 という事は、門番達も既に死んでいるはず……なのだが、生きている人間が二人程いるようだ。


 「門番……では無さそうだな」


 瓦礫と化した、城門付近で普通に立っている人間を見て、覚悟を決める。

 あれが岸田とその仲間かもしれない。


 こんな隠れる場所が何も無い所で、コソコソ隠れて行っても無駄だ。

 弓矢使いに注意しつつ堂々と行こう。


 「だ、誰!?」

 「ウェーイ! 敵さんのお出まし? マジ殺るしか無いっしょ!」


 逃げも隠れもせずに堂々と城門付近に立っていた二人の元へと向かっていたので、当然気付かれる。

 ……は? ちょっと待て?


 岸田じゃねえだと?


 それじゃ、岸田はどこに?

 それと、奴らの足元でくたばってる女は誰だ?

 ……!? 矢が刺さっている!?

 もしかして、弓矢使いか?


 「だ、大丈夫!? 勝てるの!?」

 「余裕っしょ! つーかユースケ君がビビり過ぎなんだって! この世界の人間とかマジ弱過ぎだし! ワンパンでイケるって、ワンパンで! さっさと殺っちゃって、ユースケ君達と合流しよーぜ? サツキちゃん?」

 「で、でも……」

 「マユミが死んだ事気にしてんの? しゃーないって! 矢が戻って来ちゃったんだもん! あんなん始めて! 百発百中のリカちゃんの矢がまさか戻って来るなんてね! ま、たまにはリカちゃんやアヤノっちにも失敗ぐらいあるっしょ!」


 勝てるか不安そうにしている女と、口調からして軽薄そうで頭が悪そうで、俺をこの世界の人間と思っているのか余裕で勝てるとかイキっている男は戸惑っている俺など構わずやり取りをしている。


 といってもある程度距離が離れている為、本来ならそんなやり取り聞こえないはずなのだが……これも女神の加護か?

 死んだ連中の中に五感強化の女神の加護を持っていた奴がいたのかもしれん。

 本来なら、この距離では人の顔なんて見れないはず……って、マジかよ。


 やり取りで出てきた、ユースケ君ってのは恐らく岸田。

 そして、リカちゃんとアヤノっちって呼ばれていた女は、元の世界で岸田と付き合っていた女とその仲間と同じ名前。

 これは偶然か?

 いや、偶然じゃねえ。


 更に、男は隣にいる女をサツキちゃんと呼んでいる。

 そして足元でくたばってる女の事をマユミと呼んでいた。

 サツキもマユミも元の世界で、俺と同じクラスに同じ名前の女子生徒がいた。


 ……ああ、もう偶然じゃねえ。


 最終確認で軽薄そうな男の顔を見たからな。


 長髪の金髪に、それなりに整った顔。

 ああ、テメーかよ。


 「亜形圭あがたけい……」


 俺が口にした名は、元の世界で岸田の腰巾着だっ……いや、今も岸田の腰巾着をしている男の名だった。

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