第43話 元の世界でクズだった奴は、やっぱり異世界でもクズ

 部屋を出ると、セトロベイーナ軍の兵士達の断末魔が更にハッキリと聞こえるようになった。

 恐らく女王様がいた客間は防音加工をしていたのだろう。

 客間のドアを閉めた途端、大声で話す騎士達の話し合いが客間の外には全く漏れていないし。

 ……いくら防音加工をしていたとしても、爆発音までは遮音出来なかったみたいだけどな。


 それにしても、ヤバいぞ。


 宮殿の外に急いで出る為に走っているけど、色んな人の断末魔が聞こえる。

 あの野郎、ゲーム感覚で人を殺してんのか?

 兵士達の断末魔も近くなってきているし。

 

 もちろん、俺が外に向かっているからというのもあるが、明らかに宮殿の近くで兵士が死んでいる。

 勇者パーティー勢揃いで来たって、言っていたよな?

 近距離タイプだけじゃなく、遠距離攻撃も出来る奴も連れてきたのか。

 ボルチオールにもいたな弓兵とか。

 あくまで俺の予想だけど。


 色々考えていると、宮殿の出入り場所に着く。

 準備は万端だ。

 ここから先は、国の為に戦うという事を仕事にするという覚悟を持っていた兵士達が断末魔を上げる地獄。


 油断はするな。

 迷ったら殺せ。

 扉の向こう側にいるアルラギア帝国の勇者パーティーは平気で人を殺している。


 そして、何よりアルラギア帝国の勇者は女神の剣イーリス・ブレイドを持っている岸田。

 更に騎士達の話からすると、岸田の仲間も恐らくだが実力者であり、なおかつ女神の加護を与えられた元クラスメイトの連中である可能性が高い。

 というか、そう思っていた方が良い。


 「フー……」


 息を吐いた。

 この扉を開くという事は、死ぬ覚悟をしなくてはいけない。

 流石に軽々しく開けらんねえ。

 何より、元クラスメイト。

 知っている人間に殺されるかもしれねえんだ。

 

 ……いや、違うか。

 知っているからこそ、平気で人を殺せる人間だと思っちまうのか。

 岸田はそういう奴だと。

 そういう人間だと。


 そして、それは岸田の周りにいる奴らも。


 元の世界じゃ、岸田や岸田の取り巻きには喧嘩で負けた事は無いし、頭も運動能力も勝ってるから戦闘面では問題無い。

 ……問題無いんだが。

 帝国の勇者パーティーってのが引っ掛かる。

 俺が岸田を殺したせいで、アルラギア帝国が怒って、セトロベイーナに攻めて来た! ってならないと良いんだが。


 ……いや、そうなったらそれでも良いか。

 俺がセトロベイーナの人間も守りゃ良い。


 覚悟は決まった。

 女神の黒イーリス・ブラックを引き抜き、宮殿の扉を開ける。


 扉を開けた瞬間だった。

 攻撃魔法を纏った矢がこちらに向かって一直線に飛んで来ている事に気付く。


 もちろん、この速くて殺傷能力もある矢に射抜かれれば死ぬ。

 だが、いくら速かろうがかなり遠くから放たれているから準備が出来ない訳じゃない。


 挨拶代わりだ。

 ぶった斬ろうと思ったが、魔法を纏っているわけだしな。

 打ち返して、この矢を放った弓矢使いアーチャーにお返ししてやるよ。


 コンパクトに。

 センター返しのイメージで。

 刃は向けず、剣の面を矢にタイミング良く合わせて剣を振り……矢を打ち返す!


 ブォン。ギュイン。


 一瞬だった。

 飛んできた矢は、女神の黒の力により、放った弓矢使いの元へと向きを変えて飛んで行った。

 あ、もちろんですけど威力と速度はマシマシでお返ししました。


 ……カッコ付けて言いましたけど。

 打ち返すって言ったけど、女神の黒の力で跳ね返しただけなんですけどね。

 それにしても飛んだなー。

 野球の球だったら場外だよ、場外。


 ……本当に良く飛んだよ。

 気持ち良く敵にお返し出来て、しかも場外ホームラン級の当たりを飛ばせたのに、俺は全く嬉しく無かった。


 今ので確信したよ。

 岸田が現在引き連れている仲間は、元クラスメイトの連中だ。

 そして矢を飛ばし、攻撃して来た弓矢使いも女神の加護持ち。


 ……全く、なんて悲しいことだよ。

 岸田だけじゃなかったのか、平気で人を殺していやがったクズは。


 矢を打ち返す(跳ね返す)ことに集中していたから気付かなかったが、砂と血に塗れた歩道を見ると頭や心臓といった人間の急所を矢で射抜かれて死んでいるセトロベイーナ軍の兵士の死体が、数人程転がっていた。


 ……女神の加護としか言いようがねえだろ。

 矢に攻撃魔法を纏わせる、歴戦の弓矢使いかのように人間の急所に全発必中させる。

 しかも、かなり離れた場所で。

 まあ、一番の理由は女神の黒の性能が最大限に発動したって事だけどな。


 女神の黒は、女神の剣と女神の加護を持った人間に対抗出来る為にイーリスがわざわざ作った物だ。

 普通の魔法を跳ね返すよりも、女神の加護が加わった魔法を跳ね返す方が飛ぶし、威力も増す。


 周囲に敵がいない事を確認し、追撃の矢が飛んで来ない事も確認した俺は、殺されたセトロベイーナ軍の兵士達に黙祷し、謝りながら歩道を進んで、庭園の方へと向かう。


 当たり前だ。

 俺達がいた世界のクズがやった事だ。

 同じ世界にいた人間として、クラスメイトだった人間として、謝らずにはいられない。

 必ず、こんな事をした連中には相応の報いを与えてやる。

 ……変わらねえんだな。

 異世界に転移してもよ。


 元の世界でクズだった奴は、やっぱり異世界でもクズなんだよ。

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