第33話 女兵士リベッネ
「……んぅ? え? あ、あれ?」
俺は馬車の中で座りながら寝ていたはずだった。
だが、目覚めると目の前には……というか俺の目の前に広がっているのがもの凄い大きい二つの山なんですよ。
ええ、それはとても。
いつの間にか膝枕をしてもらっていたのもビックリだが、何より目の前に広がる二つの山が大きすぎて誰に膝枕をされているのか分からないという衝撃の初体験。
膝枕なら元の世界で、過去に付き合っていた女の子達に数え切れない程してもらった事がある。
だが、その時は顔が見えたんだ。
膝枕をしている人間の顔が見えたんだ。
今は、見えない……!
俺の目の前に広がっているのは、二つの山だけ。
そうか、これが巨乳ってやつか。
今まで俺が付き合っていた子は、みんな貧乳だったんだね。
……なんて、バカな事を考えている場合じゃなかったんだった。
「あ、あのー?」
「あ! お目覚めですか、勇者様! おはようございます! もう少しで日の出ですよ! それに、セトロベイーナ王国の王都、チェンツオーネにも到着します!」
俺を膝枕していたのは、リベッネと呼ばれていた右隣のヤベー女兵士だった。
凄いな。
デカいとは思っていたが、下から見ると大迫力だな。
って、しまった。
この馬車の中にはサンドラさんやメリサさん。
そしてセトロベイーナ王国の女兵士がこのヤベー女兵士以外にも二人いる。
まずいと思った俺は、膝枕されながら周りを見渡す。
すると、ある事に気付いた。
「あ……膝枕もだけど、足も伸ばせるように座席の上に乗せてくれたのか。あらら、床でなんて寝る必要無いのに」
「フフッ、良いんですよ勇者様? 勇者様の疲れを癒してあげようと、魔法を掛けて勇者様達を眠らせたのはアタシ達なんですから。お仲間のお二人もぐっすりです」
膝枕をされたまま、向かい側の席を見ると確かに気持ち良さそうにサンドラさんとメリサさんが眠っていた。
ん? ということは、このヤベー女兵士一人で監視とかもしつつ俺達の護衛もしていたのか?
「……無警戒過ぎるだろ。一人以外全員爆睡って」
「アハハ、確かにそうですよね。でも、その点に関しては、心配無いですよ? これでもアタシ強いので。勇者様程ではありませんが」
ヘラヘラと笑いながら、俺の頭を撫でて心配ないと言ってくるヤベー女兵士。
本当かよ。
全く信用ならないぞ。
「んー、でも流石ですね。やっぱり勇者様がいるからなのかは分かりませんけど、魔物やフィスフェレムの部下達が潜んでいるのを覚悟で近道を通って来たのに、一匹たりとも出て来ないんです」
「フィスフェレムの部下?」
「あれ? 知らないんですか? フィスフェレムの部下はサキュバスやインキュバスなんですよ」
初めて聞いたよ。
まあ、セトロベイーナ王国にフィスフェレムがいることすら聞かされて無かったんですけどね?
ボルチオール王国の王様は、報連相が全く出来てないんですわ。
「ヴェルディアとは違うのか……。いや、サタンはヴェルディアの直属の部下が使役していた魔物か」
「あ! サタンなら、関所近くの国境付近の村にも出たって大騒ぎになってました! ボルチオール王国の街の方でもサタンが出たんですか?」
「……ええ、まあ」
おいおいマジかよ。
ファウンテンにサタンが大量発生した時、洞窟の先にあったあの村にもサタンが出ていたのか。
それで、村人達が誰一人いなかったのか。
その割にはあんまり、村が被害に遭ったようには見えなかったが。
「街の方はどうだったんですか? 村の方には数十匹程しか出てこなかったので、アタシ一人で対処させられましたけど」
「え? それ本当ですか?」
「嘘だと思うなら確認して貰って良いですよ? でも、勇者様が一番分かっているはずですよね? サタンが大した事無いって」
「か、数がね……? 街の方は大分サタンの数も多かったし、ヴェルディアの直属の部下もいたし」
「なるほど……」
言えない。
流石に言えないよ。
ボルチオール王国の兵士達は、サタン一匹に対して数人がかりで何とか倒していたなんて。
多分、ボルチオール王国の兵士達が弱すぎるだけだな。
俺は軽く三桁ははるかに超えるくらいサタンを殺してるし。
……それにしても、このリベッネって女兵士。
意外と強いのか?
それともボルチオール王国の兵士達がやっぱり弱すぎるだけか?
「……うーん、少し良いですか?」
マズイ。
やっぱりバレたか?
あからさまに不思議そうにしている。
もう良いや。
聞かれたら素直にバラそう。
恥をかくのは俺じゃないしね。
「ヴェルディアの直属の部下って……? ヴェルディアが魔王軍七幹部なのは知っていますが、そんなに詳しく無いんですよ」
「あーそっちね。ヴェブナックの事ね」
「ヴェブナック……?」
良かった。
うわっ……ボルチオール王国の兵士、弱過ぎ……? とかの疑問じゃなくて。
「知能はあるし、人の言葉を話せる。サタン達を一瞬にしてパワーアップさせるって離れ業も。何より、私はヴェルディア様の右腕だって自分で言うくらいですから弱くは無いんでしょうね。パッと見は人のような魔族でしたよ」
「そんなのもいるんですか……知らなかった。女王ちゃんに報告してあげないと」
「女王……ちゃん?」
「ん? 何か変な事言いました? アタシ?」
……この女兵士、ずーっと誰かに似てるなあ……って思っていたんだよ。
正直に悪気なく色々言ったり。
一応イーリスに選ばれた勇者パーティーの連中を普通に弱いって言ったり。
そして、自分が仕える王に対して平気で友達感覚でいる。
マジでこの女兵士、サンドラさんそっくり。
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