第32話 役立たず達の今

 ジンがセトロベイーナ王国の王都へと向かっている頃。


 一応まだボルチオール王国の勇者であるケントは、宗教施設である虹の教団、ファウンテン教会で、虹の教団の信者達の相手をさせられていた。




 ◇




「▲◇○◇●! ×◎△◆●∇□◎!?」

「ハハッ……お、おい。アンリ、この人はなんて?」


 ジンのせいで、この世界の人間の言葉を理解する事が出来なくなったので、アンリを通訳として同行させ、俺は握手をしてただただ笑いながら、ファウンテンの教会で虹の教団の信者の相手をしていた。


 本来ならジジイやババアといった老人達や顔の可愛くないブスが多い、虹の教団の信者達の相手をする事などやりたくは無いんだが、牢屋送りにされる所を、王妃の介入によって回避出来たので、仕方無くやっている。


 本当に大変だった。

 兵士に無理矢理連行されて、ファウンテンに連れ戻されたら、ロジャース街長からメチャクチャ怒られるし、ファウンテンの貴族達からも怒られる始末。


 しかも、下着だけという格好に俺とサラがなっていたのと、意思疎通が出来なくなった事が更に火に油を注いだようで、本当に投獄寸前だった。


 しかも、俺とサラがこうなったのはジンのせいだ! って言ったら(アンリに通訳してもらった)益々怒られたんだよな。

 何でだよ……本当にジンのせいでこうなったのに。

 どうして勇者である俺を信じてくれないんだ。


 虹の教団の信者みたいに、勇者である俺の事を盲目的に信じろとは言わないけど、勇者である俺を全く信じないって……。

 王妃に頼んで、処刑して貰おうかな……。


 とりあえず、王妃のご機嫌取りの為にも、王妃の介入のお陰で投獄を免れられたお礼としても、信者達アホの相手をしないとだな。


 王妃にとっちゃ、良い金づるなんだから、出来るだけ多くの人間を引き留めておかないと。


「え、えーと……。女神に選ばれた勇者様にお会い出来て光栄です! だって。そ、それと勇者様のミスで街が壊滅状態になったって、女神様を信じない連中が騒いでいるが、そんなの嘘ですよね? ……だって」

「お、俺のせいじゃない! そ、そうだ! 虹の教団を貶めそうとしている連中がいて、そいつらがヴェルディアと繋がっている事にでもしとけ!」

「……分かった」


 アンリは不満げにしながら、目の前にいる信者のババアに俺の言葉を伝える。

 ……伝えているよな?

 クソッ、ジンのせいでアンリが話すこっちの世界の言葉も理解出来ない。


 だが、杞憂だった。

 ババアは涙を流して喜びながら、俺の手を再び握りしめる。

 い、痛い……。


「△◆●∇□◎! ●∇□◎△◆●∇!」

「ハッ……ハハッ。あー理解出来ないよ……。コイツらの話している事なんてこっちの世界の言葉が理解出来てた頃から訳が分からなかったのに……」

「勇者様を一生信じます! 我々は女神イーリス様に祈りを毎日捧げます! だって」

「何が祈りを毎日捧げますだよ。このババアが祈りを捧げた所で、俺達に何の得があるんだ? 時間だから次の人に変わってくれって伝えてくれ。後、何人いるんだよ……」


 あー面倒臭い。

 けど、信者達が今回の一件で不安がっているから、信者達の相手を俺がする事で信者達の不安を取り除いて欲しいって王妃に頼まれたから仕方ないが。


 ……相手するのはファウンテンに住んでいる信者だけって聞いていたのに、明らかに他の街からも来ているんじゃないのか?

 人が多すぎるし、見たことない顔の人間もいる。


 一人辺り十分って聞いていたから、一時間で六人。

 一日八時間だとして一日四十八人。


 キ、キツい。

 頭がおかしな連中の相手なんて一人ですらキツいのに、一日五十人近くも相手するなんて、俺の頭もおかしくなっちゃうよ。


 それにしても良いよな、ニーナとサラは。

 ニーナは回復魔法が得意だからって、街の建物の修理や怪我した街の人間の治療をするからって、信者達の相手をしなくて良いんだから。


 サラに至っては、大勢の人間の前で下着姿にさせられて身体を晒された挙げ句、ジンにボロクソ言われて傷付いたとかで、精神的苦痛を考慮されて宿で休んでいる事を許可される始末。


 まあいい。

 今のサラはいても役に立たないし。


 ん? 待てよ?

 そうだ、今のサラだからこそ使い道があるじゃないか!

 今回の一件の失敗を全部サラに押し付けて、責任をサラに取らせれば良いんだ!

 サラも今、この世界の人間と意思疎通を出来ない状態だしな。


 フッ……丁度良いじゃないか。

 これも王妃に頼んで、今回の一件の諸悪の根源はサラだということにしよう。

 それに、ジンに余計な事を言ったのも、ジンを怒らせたのもそもそもはサラなんだ。


 俺はサラの失言と足りない頭のせいで、巻き添えを食らった被害者だ。

 これくらいの事をしても構わないだろう。


 フッ……やはり俺は勇者だ。

 このずる賢さと、追い込まれた時の火事場の馬鹿力は一級品だな。

 だが、この計画を実行するには王妃の協力が絶対に必要だ。

 だから。


「△◆●∇! ◆●∇□◎△◆●∇□!!」


 王妃の頼み通り、金づる達の相手をしてやるとするか。


 それに、王妃から聞いたが、どうやら王はジンをセトロベイーナ王国にいるフィスフェレムに挑ませるつもりらしい。


 信用出来ないから、一度実力を見ようとしているようだ。


 ククク、ジンは十中八九フィスフェレムに殺される。

 そうなれば、女神の加護と女神の剣イーリス・ブレイドが俺の元へ戻ってくるはず。


 さあ、早く死んでくれ、ジン。

 俺がまた快適な異世界ライフを送る為に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る