第17話 カムデンメリーで買い物

「ここがカムデンメリーですか」

「相変わらず人が多くて嫌になりますね……あ、ジンさんスリには気を付けて下さい。観光客を狙ったスリが多いので」


 馬車を降りて関所を抜けると、街が目の前に広がる。


 メリサさんは人が多くて嫌だって言ってたけど、俺は気にならないな。

 こんなの元の世界、特に東京に比べたら全然大したことない。

 まあ俺、東京に行ったのなんて修学旅行とか家族旅行とかオープンキャンパスぐらいだけど。


 ……東京か。

 本当だったら今頃、東京の大学でバリバリ野球やってたはずなのにな。

 大学二年生とか後輩も出来るから、一番楽しい時だろ。


「ジンさん? どうかしましたか?」

「いえ……何でもないですよ。ただ元の世界が少し懐かしくなっただけです」

「カムデンメリーのこの景色を見て懐かしい……? ジンさんって都会育ちなんですね」


 別に都会育ちって訳ではないけど……。

 まあ、地方都市出身だから一応都会……? なのか?

 逆にメリサさんはさっきから人の多さにうんざりしてるな。


「メリサさんは、カムデンメリーの人の多さが嫌みたいですね」

「はい……私は田舎の村生まれなので……正直ファウンテンですら人が多いと思っていますよ」


 ……大丈夫か? 俺?

 メリサさんにカムデンメリーの案内頼んで?

 こんな事ならサンドラさんに頼んでおけ……いや、サンドラさんに頼んだら王都の飲み屋を延々にハシゴするのに付き合わされそうだな。


「もしかして、この人に案内頼んで大丈夫か……? とか思いました? 大丈夫ですよ。これでも魔法使いとしてカムデンメリーで三年間働いていましたから」

「そうなんですか! 王都で働く魔法使いってカッコいいですね!」


 あ、やっぱ俺都会育ちじゃねえわ。

 都市って言っても所詮は地方都市なんだよなあ……やっぱ。

 都会でバリバリ働く女性……うん、憧れる。

 ん? 働いていました?


「ああ……色々あって辞めたんですよ。もう一年と半年くらい前の話です」

「そうなんですか。王都で働くって大変そうですもんね」

「……ええ、そうですね」


 何となくだが、メリサさんが魔法使いを辞めた理由は話したく無さそうにしている気がしたので、これ以上詮索はしない。


 何かを始める事に対しての理由なんか、楽しそうだからとか、前からやりたかったとか大体想像がつくが、何かを辞める事に対しての理由は、時に想像できない理由で辞めていたりするから、安易に聞かない方が良いと思う。


「あ! ジンさん! ここです! この店ならジンさんが求める防具やアクセサリーが買えると思いますよ!」

「おお……! 流石王都……! ファウンテンみたいな街とは品揃えが違う……!」


 他愛もない話をしていたら、いつの間にか目的の防具・装飾店に着いたみたいだ。

 すげえ……! 流石、都会で働いていた女性が紹介する店は違うぜ!


「メリサさん! 早速入りましょ! 欲しいのがあったら俺に言ってください! お礼になんでも買いますから!」

「だ、大丈夫ですか? このお店結構高いですけど……?」

「大丈夫です! 金貨がえーと……五十枚以上ありますから!」



 ◇



 ……メリサさんの忠告を無視して、性能重視で指輪やネックレスなどを買った結果、無事、五十枚以上あった金貨は十枚以下になった。


 ……ちなみに一番高かったのは、メリサさんに買って貰えますか? とねだられた様々な魔法の威力を上げるという、色々な魔石がふんだんにちりばめられた指輪でした。


 た、高い……。

 き、金貨二十枚って……。

 ま、まあ……なんでも買いますから! って言った手前、いやちょっと……高いんで……とか言えないしなあ……。


 ……まあ、良いや……。

 メリサさん嬉しそうにしてるし……。


 それに、金なんざこれからいくらでも手に入るから良いか。

 ヴェルディアどころかヴェブナック討伐でもアイドラさんが報奨金くれるみたいだし。


「ジンさん! 本当にありがとうございます! 王都にいた頃から欲しかったんです! この指輪! 魔法使いのお給料じゃ買えなくて!」


 ……うん、買って良かった。

 こんなキレイな女性の笑顔が、たかが金貨二十枚程度で見られるんなら安いな。


 というかやっぱりメリサさんもキレイだし可愛いよなあ……。

 年上かもしれないから、可愛いって言っちゃいけないんだろうけど可愛いよなあ……。


 金髪碧眼で抜群のプロポーションに加えて、いつもクールでしっかり者の仕事第一! って感じのメリサさんもキレイで素敵だけど、焦ったり喜んだりした時の素のメリサさんは本当に可愛いなあ……。


 メリサさんの指輪買ったから予算オーバーで俺が欲しかった黄金の鎧は買えなかったけど、必要なアクセサリーは買えたから良いや。


 まず、鎧を着て動ける気しないけど。


「ねえ? アレ、メリサじゃない? おーいメリサ!」

「メリサがいるわけ……本当だ。王都から出て行ったはずじゃないの?」

「しかも男連れ……良いご身分ねえ……」


 突然謎の女性三人組がメリサさんの元へ駆け寄ってくる。

 メリサさんの知り合いか?

 駆け寄ってくるくらいだから仲が良い……って訳じゃ無さそうだな。


 さっきまであんなに喜んでいたメリサさんの顔がひきつっている。

 あ、この顔知ってる。

 会いたくない人に会った時にする顔だ。

 俺もよくするよ。


「……メリサさん? あの方達は……」

「……彼女達は……元同僚ですね……」


 元同僚?

 じゃあ、あの三人は王都で働く魔法使いなのか。

 ……何でだろうな。

 失礼だけど、あの三人が王都で働く魔法使いって話を聞いても全く憧れの対象になる気がしない。

 メリサさんと何が違うんだろう?

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