第16話 勇者パーティー(役立たず達)、王都へ
これは、ジンが王都へと向かう数日前。
女神イーリスに選ばれた、ボルチオール王国勇者であるケントを始めとした勇者パーティーが、ボルチオール王国、国王のパーク・ボルチオールの元へと呼び出され、会いにいった時の話である。
◇
「随分早い到着だな。勇者ケント殿」
「いえいえ、国王様からのお呼びとあらば、お待たせする訳にはいきません。なあ? アンリ」
「ケントの言う通りです。私達に対するサポートをして頂いている国王様を待たせるなどという失礼な事は出来ません」
「フム……それは良い心がけだ」
王は玉座にふんぞり返り、ご満悦そうに俺達勇者パーティーが跪くのを見ている。
このジジイが俺は嫌いだ。
こうやって跪く姿をご満悦そうに見られると、元の世界で顔が良いだけでクラスの中心人物になっているDQNやスポーツしか能の無いヤンキーに対してペコペコしていた頃を思い出すからだ。
今の俺はあの頃の俺とは違う。
女神に選ばれた勇者なんだ。
その証拠にこの世界じゃ勇者様と俺を呼び、様々な人間が期待しているんだ。
良いさ、今の俺に対してこんな態度をずっと続けてみろ。
きっと、女神様がこのジジイに天罰を与えて下さる。
だから俺はキレない。
力を持っている強者の余裕ってやつさ。
「それでは本題に入ろうか。実は、隣国セトロベイーナの勇者パーティーが魔王軍七幹部の一人フィスフェレムに挑んだのだ」
オォーーと玉座の間にいたジジイの護衛騎士達が隣国の勇者を称える歓声を上げる。
余計な事を。
セトロベイーナの勇者パーティーって他の六組の内のどの連中だ?
お前らが七幹部に挑んだりしたら、俺達もそろそろ……なんて雰囲気が出てきちゃうだろ。
俺達はもっと力を手にいれ、この国の人間から金や女を限界まで貢ぎまくって貰ってからヴェルディアに……挑まず他国へ逃げる!
この世界は、元の世界に比べて快適なのにわざわざ死ぬリスクを抱えてまで、魔王に挑み討伐して元の世界に戻るなんて馬鹿馬鹿しい。
……仕方無い、ヴェルディアの城の番犬、ケルベロス辺りを討伐してお茶を濁すか。
「馬鹿共! これは喜ばしい事ではない! フィスフェレムに挑んだセトロベイーナの勇者パーティーは壊滅したのだ! 命からがら逃げてきたのは
「なっ……そんな……」
ジジイの言葉に、歓声で包まれていたこの部屋は一転して悲鳴に包まれる。
アンリは驚き、ニーナとサラは俺達の後ろで戸惑っている。
何だよ。
フィスフェレムを討伐したんじゃないのか。
驚かせるな。
しかし、バカだな。
自分達の力を過信したのか?
それともこの世界の人達の為にって思ってしまったのか?
……いや、元の世界に帰りたい奴らか。
もう二年だからな。
この世界に来て。
我慢できずに挑んだのか、バカな連中だ。
仮に元の世界に戻っても、すぐに死んでいただろうな。
バカであればバカである程早死にする。
そしてバカは死ななければ治らん。
無様な連中だ。
女神様に選ばれてもやはりバカはバカだな。
「という事は、ヴェルディアに加えてフィスフェレムもボルチオールに攻めてくる危険があると?」
「流石、ケント殿だ。馬鹿共と比べて話が早くて助かる。だが今はフィスフェレムを討伐する事は無い」
「……セトロベイーナがもっと危機的状態になってからで良いと?」
俺の言葉ににんまりと笑うジジイ。
腹立つジジイだが、バカでは無いな。
折角手を貸してやるのなら、もっとセトロベイーナが危機的状況、あるいは壊滅状態で手を貸してやれば、大恩を売れるということか。
「あら! 勇者パーティーの皆様! ご機嫌いかが?」
げっ……この声は……。
甲高い声。
聞くだけでげんなりしてしまう。
王のいる場所にズケズケと遠慮無しに騒ぎながら入れる奴なんか限られている。
だからこそ嫌な訳だが。
「ミランダか。一応これは公式の場、いくら王妃とはいえ慎んで貰いたいものだ」
「あら、わたくしも大変でしたのよ? セトロベイーナの勇者パーティーが無様に負けたせいで、女神イーリスの力を疑う愚か者達が、出てきて困っているのですわ」
やはり王妃か。
こいつは苦手だ。
女神様に対して狂信的な信仰を抱いているだけならまだいいが、虹の教団といった宗教まで作ってしまうほどの権力を持っているから厄介この上ない。
俺達がこの世界で期待されているのは、女神様に対する狂信的な王妃の力が大きい。
だが、この王妃や虹の教団の信者達の相手をするのは面倒臭い。
握手してくれだの、女神の剣を見せてくれだの、女神様はどんな顔でどれくらいの身長でどのような声質なのかなど、質問攻めに遭うからウンザリなんだ。
別に質問攻めをしてくるのが美少女だけなら良いが、ジジイやババアといった老人達や男どもや顔の可愛くないブスが質問攻めしてくる連中のほとんどだからストレスにしかならない。
お前らは、大人しく俺達に金と美少女だけ貢いでいれば良いんだよ。
女神様に選ばれた俺がそう望むんだから察して欲しいね。
まあ……そんなことも分からないバカだからこそ、女神様を信じてすがる事しか出来ないんだろうけどな。
せいぜい、俺達の快適な異世界ライフの為に頑張ってくれ。
そんな事を考えながら、ベラベラと喋る王妃に愛想笑いで夜まで対応していた。
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