第18話 現実ってやつを見せてやるよ
「行きましょう……正直あの人達とはもう話したくありません」
メリサさんは、駆け寄ってくる元同僚を無視してスタスタと行ってしまうので、俺も女性三人組を無視してメリサさんについていく。
「メリサさんがそう言うなら。宿に行く前に髪も切りたいんで」
「案内します」
ファウンテンで髪を切っても良かったが、王都であるカムデンメリーの方がこの世界やこの国で流行っている髪型に出来そうだしな。
メリサさんなら腕の良い理容師知ってそうだし。
髪を切る人の事をこの世界やこの国で理容師と呼ぶのかは知らないが。
それに、田舎より都会の方が流行の最先端を知れるだろうし。
……というか、ファウンテンで流行っている髪型がケントの黒髪の七三分けだからな。
マジでダセェよ……。
別に七三分けが悪い訳じゃないけどやる年齢ってのがあるだろ。
まだ二十歳で七三分けにはしたくない……。
女の子の髪型の流行りもファウンテンはダサい。
アンリの二つ結び、ニーナの三つ編み、サラのオカッパ頭。
しかも全部黒髪。
何が今流行りの勇者パーティーヘアー! だよ。
サンドラさんやメリサさんみたいなキレイな人達が同じ髪型にしてない時点で説得力が無いんだよなあ……。
「逃げるな! メリサ!」
折角、俺の為にメリサさんが理容室を案内しようとしているのに、元同僚の女性三人組の内の一人にメリサさんが腕を掴まれてしまう。
……無視してるんだから大人しく見送っとけよ。
わざわざメリサさんの腕を掴んでまで呼び止めるなんて事をするような女だから嫌われんだよ。
自覚しろって。
「離して下さい! もう私は魔法使いを辞めたんです! 関わらないで下さい!」
あのクールで冷静なメリサさんが感情を剥き出しにして、掴まれた腕を振り払う。
「はー? 同期だったでしょ?」
「ド田舎の故郷に帰ったんじゃなかったんだ?」
「辞めた? 逃げただけでしょ?」
メリサさんの元同僚達は、メリサさんの態度が気に入らなかったのか、露骨にイライラしている。
「……ええ、そうですよ。逃げたんです。これで満足ですか? 満足しましたね? それでは。さ、行きましょうジンさん」
「何その態度ー?」
「まず、謝るのが先でしょ?」
「本当……アナタのせいで勇者ケントが怒って大変だったのよ?」
……ケントが怒った?
どうしてケントが怒ったからメリサさんが謝らなきゃいけないんだ?
メリサさんが過去にケントを怒らせたのか?
「まあまあお姉様方? そんなに怒ると顔のシワが増えますよ?」
「はー!? 何コイツ!? メッチャ失礼じゃない!?」
「メリサにお似合いの男ですね」
メリサさんにお似合いなんて照れるじゃないか。
なんて冗談はおいといて。
……まさかだと思うが、メリサさんが魔法使いを辞めた理由がケントのせいだったら最悪だな。
ケントをボコボコにする理由がまた増えるぞ。
「あーすいません。元の世界での挨拶なんすよ。俺、ケントの幼馴染なんで」
「……勇者ケントの幼馴染?」
「信じられる訳無いでしょ。何の冗談?」
「だとしたらアナタは女神に選ばれた人間ということになりますね。……ハッ、そんな人はメリサとデートしている暇などありません」
ですよねー。
信じて貰える訳無いですよねー。
はい、
「これ見れば信じて貰えます?
女神の剣は普通の人間が触ったら拒絶反応を示すからな。
だから見せれば大丈……。
「どうせ偽物でしょ……って、いったあああああい!!!!!」
「ちょっと、大丈夫?」
「……嘘、まさか本物……?」
「えぇ……」
これが王都カムデンメリーで働く魔法使いですか。
……ハッキリ言って良い?
バカかな?
どうせ偽物って疑ってかかるのは良いが、触るとしても、おもいっきり手で掴むバカがどこにいるんだよ……あ、ここにいたね。
「今のうちに行きましょう! さ、早く!」
「は、はい」
メリサさんはチャンスとばかりに、走って逃げようとする。
……元同僚がのたうち回っているのに、見捨てて逃げようとしている辺りマジで嫌いなんだな。
……うわあ、とうとう泣き叫び始めたよ。
「誰か、勇者様を呼んで! 勇者ケント様を!
仲間がやられたんです! 」
仲間がやられたって……勝手に女神の剣を触ったから、のたうち回る事になったんだろ。
「……メリサさん、ストップ」
「え!?」
何で逃げないの!? って反応だねメリサさん。
ここで逃げたとしても、どうせ追われるよ。
それに……アイツらに会えるなら丁度良い。
「逃げないでね!」
「メリサもよ!」
誰が逃げるかバカ魔法使いども。
もういい、お前らに現実ってやつを見せてやるよ。
お前らが信じた勇者は、所詮偶像でただの最弱勇者だということを。
「ジンさん……一体何を? 目が据わっていますけど……?」
「そろそろ頭に来てたんですよ。この世界の人間に。どいつもこいつもケント、ケントって。自分達でヴェルディア達を倒そうって気が無いから弱いし、だから女神イーリスにも選ばれないんですよ」
「……」
俺の本音にメリサさんは何も言わない。
メリサさんも俺と同じ考えだったのか、自覚があったのかは分からないが。
……あー、今日髪切れるかな?
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