第9話 サンドラは規格外の令嬢

「はー、まさかサンドラさんが令嬢だと思いませんでしたよ。凄いですね……この無駄に高い天井とバカデカいテーブル」


 サンドラさんとメリサさんに連れられて、サンドラさんの家に来たのだが、何だこの家の広さといい高さといい、土地の広大さは。


 元の世界だったら、王族とかが住んでいるような感じの家だぞ。

 というか最早、家じゃねえな。

 ちょっとした遊園地だろ、もうこれ。


 もう入るだけで入場料請求して良いレベル。

 てか、俺が知らないだけで日本にこんな遊園地あるんじゃね?


「そう? ある程度お金がある家ならこのくらい普通よね? メリサ?」

「彼は異世界から召喚されたんですから、文化の違いとかもあるんじゃないですか?」


 ある程度のお金ってどの程度のお金だよ。

 文化の違いじゃなくて、そもそも二人とは感覚が違うから分からないな。


 俺も元の世界じゃ、それなりに裕福な家庭に産まれたつもりなんだけどな。

 高級住宅街とか言われる所に家があったし。


 だけど本物の金持ちはレベルが違うな。

 最早サンドラさんの家だけで、高級住宅街を名乗って良いレベルだろ。


「あ、ここだよ。ジン君」


 無駄に高い天井とバカデカいテーブルが置かれていた恐らくリビング? を抜けて、俺達三人は目的の部屋のドアの前に着く。

 とはいっても、何故俺がサンドラさんの家のこの部屋に来なければいけないのかは分かってもいないし、知らされてもいないが。


「ジン君には私のお母さんに会って貰いたいの。女神に召喚された勇者パーティーについてちょっと聞きたい事があるから」


 俺が何でこんな所に連れてこられなきゃならないんだって考えていたのを察したのか、サンドラさんが俺を連れてきた目的を話す。


 あーあ。

 とうとう、アイツらの化けの皮が剥がれ始めて来たか?


 そりゃそうだろうな。

 二年もの間ロクに結果も出さず、それに加えて今回の街の大惨事の切っ掛けとなった無能としか思えない行動。


 ここで変にアイツらを庇えば、俺まで悪者にされかねん。

 聞かれた事は素直に話そう。


「別に良いですよ。ただ、ある程度の見返りは頂きたいですね」

「見返り?」

「ええ。俺にこの国の事を、この世界の事を教えて欲しいんです。恥ずかしながら、この国の事もこの世界の事を全くと言っていい程知らないので」


 元の世界に帰る為にも、俺はこの世界の事をもっと知らなければならない。

 流石に国の名前や街の名前も分かりませんじゃ話にならないからな。


「分かった。私達で出来る事なら協力するよ。良いよね? メリサ?」

「勿論です。ジンさんには街を救って頂いた恩も返さなければいけませんし」


 二人は俺の提案に了承してくれた。

 そして、サンドラさんはドアをノックする。


「どうぞ」

 中からサンドラさんのお母さんだろうか、女性の声がする。


「じゃ、入るよ。ジン君。メリサはドアの前で見張りをお願い。他の人に聞かれる訳にはいかないから」

「分かりました」


 他の人に聞かれる訳にはいかないって、果たしてどういう質問をされるんだろうな。


 そんな事を考えながら、サンドラさんと一緒に部屋に入る。

 すると、黒髪のショートカットのキレイな女性がいた。


 サンドラさんみたいに黒髪のポニーテールも良いけど、目の前のキレイな人みたく黒髪のショートカットもやっぱ良いよなあ……。

 なんか、元の世界で言うならボーイッシュ系って感じの?

 まあ、顔が良ければ俺は髪型も髪の色も気にしないんですけどね。


「……あなたが女神に召喚された勇者達と一緒に異世界から来た方ですか」

「来たんじゃなくて、女神のミスでこの世界に召喚されてしまった。の方が正しいですかね」


 ……女神のミス?

 ショートカットの女性は俺の言葉に疑問符を浮かべていた。


「あ、ごめん。お母さん。ちょっとソファーに座っていい? 実は今日お酒飲み過ぎちゃって」

「……孫の顔を見るのは、まだまだ先になりそうね」


 俺達のやり取りを無視して、ソファーにドサッと座ったサンドラさんに呆れるショートカットのキレイな女性。


 マジかよ。

 この人、サンドラさんのお母さんなのかよ。

 あまりにも若すぎるからお姉さんかこの家の使用人かと思ったよ。


 だってサンドラさんが二十四歳だろ?

 この人一体何歳の時にサンドラさんを産んだんだ?

 二十代って言われても信じるぞ。


「お飲み物は?」

「あ、大丈夫です。サンドラさんとさっきお食事したので」

「……つまり、サンドラはあなたの前でお酒を飲んでいたのね。お見苦しい所を……」


 大丈夫です。

 お宅の娘さん、高級料理店でも酔っぱらって大声出して店員には注意をされて、他の客にドン引きされていた上に、街では大勢の人や兵士の前でゲロを吐いてましたから。


 お見苦しい所じゃ、済まなかったので。

 まあ、勿論そんな事は話さないが。


「そんな事よりお母さん。ジン君だって暇じゃないし、疲れているんだよ? さっさと聞きたい事を聞かないと。街の人達を助ける為に、サタン退治をしてくれたんだから」

「……街が大変な時に酔っぱらっていたあなたは黙ってなさい。魔法剣姫が聞いて呆れるわ……」

「ま、まあ……。サンドラさんを誘ったのは俺ですから……。それに、街があんな風になったのも、勇者パーティー役立たず達のせいですし」


 ケント達の話をする前に、母娘喧嘩の仲裁を数十分程するハメになったのは、言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る