第7話 助けるのも見捨てるのも俺の勝手だ
俺がケント達のような女神に選ばれた人間で、女神の加護を得た心優しい人間、もしくはこの世界の人間が俺に色々世話を焼いてくれていたというのなら、どっちも助けなければ! って思ったんだろうけどな。
しかし今現在の俺は、女神に余り物扱いされたので、ぶった斬ることしか能が無い上に心優しくもない。
残念ながら、俺はプライドが高い。
元の世界に戻りたいと思い始めたのも、この世界で色んな人間に笑われる事に耐えられなくなってきたからだ。
元の世界では、俺は普通の人間よりは優秀だという自負があった。
成績は学年でも上位だったし、スポーツでは野球部でエース。
甲子園は届かなかったが、県ベスト4。
更に、プロ野球選手を数多く輩出している大学からも声が掛かっていたので、大学でも野球を続ける事を許されるくらいには実力を認められていた。
だがこの世界のバカな女神のせいで、全てが狂った。
俺がいた高校の一クラスを勇者パーティーとして召喚した挙げ句、巻き込んじゃって申し訳ないけど、君は余っちゃうな~と悪びれもせず、俺を元の世界に戻そうともしないで、黒い剣を一本渡してきて、幼馴染の元で頑張ってね! とか言ってきやがった女神のせいで。
更に、この世界の人間には世話をされたどころか、散々バカにされて笑われ、それでもやる気を出して街の人々をモンスターや魔物から助けたら助けたで、助け方に文句を言われる。
流石にもうキレた。
というか、呆れた。
二年間我慢してきたけど、もうこの結論にたどり着いたよ。
俺が助けたいと思った人達だけ助けよう。
俺は冒険者の格好をした金髪の男を見捨てて、娘がサタンに襲われ困っている人妻の元へ行く。
理由?
そんなの単純だ。
キレイな人だから。
たとえ俺以外の男と結婚していたり、付き合っているからといって、キレイな人が困っていたり、悲しんでいるのを見て、放っておくなんて事は出来ないね。
「緑髪の子を助ければ良いんですか?」
キレイな人妻に声を掛ける。
困っているキレイな人妻も、緑髪だったから、助けて欲しい娘も緑髪なんだろうけど、一応確認はしておかないとな。
「は、はい! そうです! お願いします!」
「分かりました」
……お願いします! か。
この世界に来て、何回目だろうか。
この言葉を言われたのは。
言葉って、不思議だよな。
何故、ここまでやる気が出るのだろう。
どうして、ここまでこの人の力になりたいって思えてきちゃうんだろうな。
あ、キレイな人が言ってくれるからか。
そんな事を考えていたら、既にキレイな人妻の娘を襲うサタン達をぶった斬っていた。
よし、後は娘さんを救出するだけ……。
そう思った時だった。
げっ! サタン達の汚い体液や血液を思い切り女の子にぶっかけちまった!
……あーあこのパターン怒られますね。
そう確信した俺は、黙って娘さんを抱えてキレイな人妻の元に戻った。
……本当良かった、女の子がサタンに襲われていたから元から泣いていて。
俺がサタンを何も考えずにぶった斬ったせいで、サタンの体液や血液が女の子にかかって泣いた訳じゃなくて。
「あーあのー……なんと言うか……すいませんでした!」
「あ! ちょ、ちょっと!?」
俺は女の子をキレイな人妻に引き渡し、すぐに逃げた。
だって、娘さん凄い汚くなっちゃったんだもん。
血液なのか、体液なのか分からない緑の液体と謎の白濁液まみれにしちゃったからね。
怒られること間違いなしだから、逃げるのが得策だよね。
勿論、追われる事は無い。
だって、娘さんの体の方が間違いなく心配だろうから。
◇
何も考えずに逃げた先は偶然さっき俺が見捨てた、サタンに噛まれて悶え苦しんでいる、冒険者の格好をした金髪の男の元だった。
しかも、最悪な事にその金髪の男は十匹以上のサタンに囲まれている。
更に、傷だらけ。
腕どころか、足や顔からも流血している。
「た、助けに来てくれたのか!? 頼む! 助けてくれ!」
「……」
「お、おい! 無視しないでくれよ!? このままじゃ俺死んじまうよ!」
金髪の男は、俺に気付いたのか助けを求めてくる。
だが、俺は無視をしていた。
最悪な事に気付いたから。
……この男は、ケントの仲間だ。
ケルベロスを倒して、洞窟から帰ってきた時に声を掛けてきた男だ。
間違いない。
金髪で冒険者の格好をしており、同じ声に同じ武器を持っている。
……なんだよ。
なんなんだよ。
お前本当になんなんだよ。
俺は傷だらけの男を見て、腹が立っていた。
ケントと一緒に俺をバカにしていたのだから、さぞかし強いのだと思っていた。
それなら、俺がバカにされているのも納得出来るから。
だが、その男は俺の目の前で、俺が簡単に殺せるサタンに殺されかけている程ボコボコにされている。
そして、俺に助けを求めている。
……そりゃ、あのバカ女神も異世界から召喚したくなっちまうわな。
この世界の連中は弱過ぎる。
この街の兵士とこの男を見ただけだが、何となく確信を持った。
……そうだ。
コイツらが。
コイツらが弱過ぎるせいだ。
俺の人生がメチャクチャになったのは。
憎い。
本当に憎い。
助けなければいけないのは分かっている。
しかし、助ける気にならなかった。
黙って、俺は立ち去る。
サタン達は俺を追って来ない。
目の前に弱った人間というご馳走があるのに、俺を襲うなんて程、頭が良くない。
「……そ、そんな! た、助け……うわあああああ!!!!!」
男の断末魔と共に、ぷしっと音がした。
そして、その後街にはクチャクチャとサタン達の謎の咀嚼音が響くのだったが、ジンはその事を知る事は無かった。
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