第2話 選ぶ側の女神が弱いんだから勇者パーティーが弱いのは当然

「いらっしゃい! 何かご用かい?」


 街へ戻った俺は、街の武具店に来ていた。


 というのも、今まではこの世界で様々な物に書かれていた文字を読めなかったり、この世界の人間とコミュニケーションを取れていなかった為、ケルベロスを倒したのはいいが、それを持っていった所で報酬やら何やらをケント達みたいに誰かから貰えるように俺はなっていないのだ。


 それなら、直接武具店に素材として買い取って貰おうと考えた。

 よく、ケント達が売りに行って金に変えて来ている話を聞いていたからな。


「これ、買い取って貰えるか?」

 店のカウンターにケルベロスの三つの頭が入った大きな袋を乗せる。

 胴体やら足などは洞窟へ置いてきた。

 というか、重くて無理。

 頭だけで精一杯だった。


「素材の買い取りね。……って、ケルベロスの頭!?」

「金にならないか?」

「なる! なるに決まっているだろ! 凄いな君!」


 興奮しながら、店主はケルベロスの頭を査定しだす。

 うわっ、よく口とか開けられんな。

 臭くねえのかよ。

 ケルベロスとはいえ所詮は犬だろ?


「いや……本当に凄いな。あそこの洞窟にいるケルベロスだろ? これを一人で?」

「ああ、まあな。意外と弱いんだな」

「君が強いだけだろ……それに君この街じゃ全然見かけないし」


 見かけないって……もうこの街に住むようになってから二年なんだけどな。

 ……いや? よく考えれば、二年もの間ケント達の世話になっているだけで、街になんか行かなかったから、見かけないって言われて当たり前か。

 適当に誤魔化しておこう。


「勇者ケントの昔からの知り合いなんだよ。だから、そこら辺の一般人よりは強くて当たり前だろ」

「あの女神に選ばれた勇者と昔からの知り合い?」


 あっ、しまった。

 誤魔化すつもりが余計な事を言ったわ。

 勇者であるケントが違う世界から来たってのを街の人間は知っているのか。

 現に俺の言葉を聞いた店主は、聞き間違いかと俺に聞き直しているし。


 まあ、いいや。

 別に隠すことじゃないだろう。

 さっきの男みたいに、俺の事を知っている奴は知っているんだから。


「俺も女神によってこの世界に召喚されたんだよ、巻き込まれてな」

「信じられない話だが、現にケルベロスを楽勝に倒しているわけだからな……」

「別に信じなくても良いさ。それよりいくらぐらいで買い取ってくれるんだ?」


 これ以上俺がここに来た切っ掛けなど聞かれても答えられない。

 俺は強引に話題を変えた。


「金貨三十枚でどうだい? こんな珍しい物だから高く買い取らせて貰うよ」

「それで良い、まとまった金が欲しいからな」


 俺の言葉を聞いて、店主は裏へ行く。

 そしてカウンターに金貨の入った袋を俺に差し出す。

 中身を確認して、袋ごとポケットに入れる。


「いやー本当に珍しい物を買い取らせて貰えたな。……胴体や足もあればもっと高く買い取れたんだが……」


 何だと?

 胴体や足もあればもっと高く買い取れた?

 店主の言葉を俺は聞き逃さなかった。

 金はいくらあったって良い。


「それなら、一緒に洞窟へ行かないか? 実は胴体と足を置いてきたんだ」




 ◇




「うわ! 本当にケルベロスが倒されてる!」


 どうしてこうなった。


 俺は武具店の店主を誘ったつもりなんだが?

 何故俺は、異世界の美女とこんな薄暗い洞窟に二人で行くことになったんだ?


 ああ、そうだった。

 怖いからウチの店の常連客の中で、一番強い人を連れて行って、ケルベロスの胴体と足を持ってきて売ってくれ! とかふざけた事を店主に言われたんだった。


 あの厳つい感じの顔で、なんてビビりなんだ。


 ……いや、人は見た目で判断しちゃいけないって事は、俺は知っているじゃないか。

 ……地味で真面目そうな女の子が裏では実は……


「どうしたの?」

「え? ああ、何でも無いです」

「それにしてもスゴいね~ケルベロスを倒すなんて」

「はあ……そうなんですか?」


 目の前の美女は、俺を褒めてくれるが、実感は湧かない。

 自分がスゴいことをしたという感覚がない。


「ここのケルベロスに沢山の冒険者や洞窟に迷い込んだ子供達が殺されていたって聞いた事ない?」

「無いですね。そもそも、俺は腕試しの為にケルベロスを倒しただけなので」

「……おじちゃんが言ってた、勇者と一緒に異世界から来た男ってのは、本当なんだね」


 やれやれといった感じで呆れ顔を浮かべる美女。

 ……あの、ビビり店主め……俺の素性を喋りやがったのか……。

 厳つい顔の店主なら寡黙であれよ。


「……でも、不思議だな……。君、全然勇者より強いよ?」

「え?」


 美女の言葉を聞いて俺は、焦る。


 不味いな。

 何故なら、ケント達を始めとした勇者パーティーは女神の加護を受けているはず。

 俺はあくまで余り物。

 女神の加護を受けていないんだから。


 そんな俺が女神の加護を受けている勇者より強いなんてバレたら不審がられるだろ。


「そんな訳無いだろ? って思ってる?」

「ええ……まあ」

「私、一緒に戦ったことあるけど勇者パーティー弱いわよ? これが女神に召喚された人達? って思ったもの」


 お姉さんの言葉にホッとする。

 何だ、アイツらと一緒に戦った事があるのか。


「お姉さんが腕利きの冒険者だから、アイツらが弱く見えるだけでしょ?」


 俺はお姉さんの話を利用して、アイツらがただ弱いだけと話題を変える。


 別に怪しまれないだろ。

 目の前の美女はとても強い人だって、あのビビり店主は言っていたし。

 何か、魔法剣姫って凄いアダ名で呼ばれていたし。


「まあ……皆強いって言ってくれるけど、結局私は女神に選ばれなかった訳だし。それに君も私の名前すら知らないじゃない。強い人だって認識してないからでしょ?」


 そう言った後、お姉さんは悲しそうに目を伏せる。


 女神に選ばれなかった。


 それは即ち、この世界では勇者として魔王を討伐する事が出来る人間ではないと烙印を押されたのと同義らしい。


 ケントが自分はいかにこの世界では優れた人間なのかを俺に説明する為に色々教えてくれた。

 嘘かと思ってたんだが、本当みたいだな。

 お姉さん凄い悲しそうな顔してるし。


 ……慰めてあげるか。


「分かりますよ。お姉さんの気持ち」

「……君に? そんな訳無いでしょ? ケルベロスを倒せる力を持っている人が私の気持ちなんて……」

「……俺も、女神に選ばれなかった人間ですから」

「……えっ」


 お姉さんは、驚いた表情で俺を見る。

 嫌な思い出だが、話すしかない。

 キレイな人の悲しい顔なんて見たくないからな。


 俺が分かる範囲での話、それとケント達から聞いた話を話そう。


 レフトオーバーズ。


 即ち、余り物。


 俺は、女神にそう宣告されたんだから。

 ……ま、少し(大嘘)は嘘を交えるけど。


「俺は、女神の加護が無いんです。そのせいで二年もの間、この世界の人とコミュニケーションを取ることすら出来ませんでした」

「……でも、勇者はここに来た時から普通にこの世界の言葉を理解出来たって」


 そりゃそうだろうな。

 女神の加護を受けているんだから。


「……異国の地に行っただけで、その国の人間が話す言語を瞬時に理解出来る。これが、女神の加護の効果以外でどう説明出来るんですか?」

「勇者達は、僕達は凄く頭が良いからすぐにこの国の言葉を覚えたって言ってたけど……」


 アホか、アイツら。

 どうしてそんな見栄を張る事を。

 ……正直に言って良いよな?

 俺の事も好き勝手に言ってくれたみたいだし。


「アイツらが? それは無いですね。お世辞にも、以前の世界では頭が良いとは言えませんでしたよ。お世辞で言って中の下くらいです」

「やっぱりそうなんだ。何か言動がバカっぽかったから、薄々気付いてたけど……」

「……」


 ……何だろう。

 アイツの幼馴染だからだろうか。

 俺もメチャクチャ恥ずかしいんだけど。

 言動がバカっぽいって。

 こんな悲しい事ある?


「具体的にどんな事言ってました?」

「何か、凄い自慢気に「また僕、何かやっちゃいました?」とかよく言ってた……」

「……」


 ケントくん、アニメの見過ぎですね。

 ええ、そうですね本当に。

 そういや、そんなの感じのセリフ出てくるアニメ見てたな。

 元の世界で。


「……ま、まあこれで分かりました? つまり、そんなバカな言動をしちゃう奴でも異世界の人間と一瞬にしてコミュニケーションを取れちゃうんです! 女神の加護って奴は」

「でも、君も私とこうして話せてるじゃない」

「……そりゃ、二年もここに居れば覚えますよ」

「あ、そっか」


 嘘です。

 何故か知らないけど、いつの間にかこの世界の人間とコミュニケーション取れるようになってました。


 後、多分お姉さんより俺の方が強いよ。


 勇者を選ぶ側の女神を殺したんだから。

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