女神殺しのレフトオーバーズ~虹の女神(バカ)に召喚された七組の勇者パーティー~
石藤 真悟
第一章 幼馴染(男)と地味な女子三人の勇者パーティー(役立たず達)
第1話 異世界に来て、もう二年
「いい加減にしろよ! もうこの世界に来て二年だぞ! お前らこの二年間何をやってたんだよ!」
俺は、目の前にいる四人の人間に対し、怒鳴り散らしていた。
しかし、そんな俺を見て四人はどこか小馬鹿にするように笑っている。
「落ち着けよ、ジン」
「落ち着け? 俺達もう二十歳なんだぞ! 元の世界に戻れていれば、今頃働いていたり、大学や専門学校に行ってるはずだったんだぞ!」
目の前の四人はパーティーだ。
しかも、ただのパーティーじゃない。
俺達が元々住んでいた世界から女神に魔王討伐をする為にこの世界に召喚された勇者パーティーだ。
そのパーティーのリーダーであり、勇者ケントこと
他の三人は幼馴染ではないが、同じクラスメイトの人間だ。
攻撃魔法を得意とする魔法使いのアンリこと、
回復魔法を得意とする魔法使いのニーナこと、
そして、剣士のサラこと、
この四人は、この世界を魔王の支配から救うべく、魔王討伐する勇者パーティーとして女神に召喚された奴らだった。
だが、二年経った今も未だに魔王の直属の部下すら、倒せていない。
いや、倒す気が無いと言った方が正確だ。
「そんなに嫌か? この世界」
「元の世界に戻りたいに決まっているだろ! こんな言葉も通じない所で、変わらない日々を過ごすなんてもううんざりなんだよ!」
「それは、お前が女神に手違いで召喚されてしまったからだろ? 女神に余り物扱いされたお前に女神の加護は無いからな。俺達は女神の加護のお陰で問題なく、この世界の人とコミュニケーション取れるんだよ」
この世界でお前が生きにくいのはお前が悪い。
目の前の幼馴染からはそう言われているような気がしてならなかった。
女神に召喚されたのは、ある高校の一クラス二十九人だった。
それにより出来た勇者パーティーは七つ。
四人一組の勇者パーティーがこの世界の七つの国にそれぞれ派遣された。
四人一組のパーティーが七つということは、勇者パーティーとして召喚された人間は二十八人だけ。
俺は、勇者パーティーの召喚に巻き込まれただけの余り物。
だから、この世界を快適に生きる為の女神の加護とやらの恩恵を受けることは出来なかった。
お陰で、俺はこの世界の人間とは意思疎通すら出来ない。
そんな俺とは真逆でケントは、この世界を快適に過ごしている。
それもそのはずだ、勇者というだけで様々な人間がチヤホヤしてくれる。
元の世界では味わえなかった感覚に酔いしれているんだ。
だから、元の世界に戻れずに二年が経っているのにも関わらずケントは落ち着いていられるのだろう。
では、他の三人はどうなのだろうか?
快適に暮らせてはいるが、本当は元の世界に戻りたいと思っているんじゃないのか?
しかし、そんな俺の淡い希望は消えた。
「上野くん……辛い気持ちは分かるけどさ、私達は元の世界に戻りたいなんて思っていないの」
「は?」
アンリが、申し訳無さそうに口を開く。
他の二人も頷く。
そんな三人を見て俺は、ただただ困惑するだけだ。
元の世界に戻りたいと思っていないだと?
それじゃ、こいつらは魔王を討伐する気は始めから無かったのか。
……いや、違うか。
最初は、少なからずあったはずだ。
だが、彼女達もこの世界の人間にチヤホヤされた事により、元の世界に戻りたい思う気持ちが無くなっていったのだろう。
「もう分かったろ、ジン? 衣食住は俺達が整えてやってるだろ? 我慢してくれよ」
「そうそう、我慢してよ」
ケントとアンリの言葉に俺は何も言えなくなる。
元の世界に戻るには俺達がこの世界に召喚された目的を達成しなければならない。
魔王討伐という。
でも、女神の加護を受けていない俺にそれは出来ることでは無い。
だからこそ、こうして幼馴染で勇者であるケントを頼ったのだが、無駄だったようだ。
「……悪かった。魔王討伐なんて自分が出来ないことをお前らにやらせるなんて虫が良すぎたよな」
「心配するなよ、ジン。元の世界ではお前に散々世話になったからな。お前を見捨てたりなんかしないさ」
「良かったね、上野くん」
「優しいなーケント」
「流石勇者だね! 困っている人に手を差し伸べるなんて!」
そして、話が終わる。
その後は俺なんていなかったのようにイチャイチャしだす四人。
そして、周りには宿の客だろうか、勇者パーティーを一目見ようと待ち構えていた連中が、俺達の話を聞いていたのか、何て素晴らしい勇者なんだ! とチヤホヤしだす。
俺はそんな光景に吐き気を催しながら、宿の食堂を出て、自分の部屋に戻る。
◇
部屋に戻り、 俺は準備を始めていた。
流石にもう二年、限界だった。
「はあ……結局アイツらに任せていてもダメそうだな」
俺は大きく溜め息を吐いて、独り言を言う。
けど、そんな事を言って嘆いても元の世界に戻れる事はない。
そんな事は分かっている。
ただ、言わずにはいられなかったのだ。
ケント達みたいな奴らを勇者パーティーとして召喚した女神の無能さに対しても、勇者パーティーとして役目を全く果たそうとしないケント達にも腹が立ったから。
この世界の人間とコミュニケーションも取れないだけでなく、土地勘も無い。
所持品は、女神に俺が渡された黒い剣のみ。
何もせずに、ケント達のお陰で二年もの間、衣食住を確保出来た俺がこんな事を思っているのを誰かにバレたらなんて奴だって怒られただろうな。
そんな俺とは違いケント達は、あっという間にこの世界の人間とコミュニケーションを取れるようになっていたな。
まあ、女神の加護があるからだろうけど。
しかし残念ながら、俺は余り物なので女神の加護なんて受けてない。
だから、この世界の人間とコミュニケーションを取る事が全く出来ない。
……思い出したらますます腹が立ってきたな。
俺はイラつきながら、原っぱへ向かう。
◇
「ピギャァ!」
「……」
雑魚モンスターを狩りながら原っぱを進む。
もう二年、そろそろ魔王討伐始めなきゃだろ。
俺は、原っぱを進んでいき、原っぱの近くにある洞窟へ俺は着く。
聞くところによると、この洞窟の先にあるのは、魔王軍の幹部の一人が待つ城があるそうだ。
では何故近くに街があるのにその幹部共は攻めて来ないのか?
答えは、勇者であるケント達がいるからだ。
これだけでも街の人達にとってはケント達が必要な存在となってしまう。
いるだけで魔王軍の幹部の攻撃を食い止めることが出来るんだからな。
そりゃチヤホヤするよ。
まあ、二年もの間チヤホヤし続けた結果、魔王討伐を拒否する勇者パーティーが出来上がった訳だが。
「グルル……」
そんな事を考えながら洞窟を進むと、お目当てのモンスターに出会った。
ケルベロスだ。
城の門番と言われるこのモンスターは、三つ頭を持つ犬型のモンスターだ。
火は吐くわ、氷のブレスは使えるわ、電気系も使ってくるし、何より鋭い牙で噛まれれば命に関わるだろう。
正直、勇者であるケント達ですら倒せるか怪しい。
だが、俺の相手では無いだろう。
「楽しませてくれよ!」
俺は勢いよくケルベロスに斬りかかった。
すぱん。
「あ……あれ?」
拍子抜けしてしまった。
あっという間にケルベロスの三つの頭を一撃で斬り落として倒してしまったのだから。
おいおい、城の門番クラスのモンスターなんじゃねえのかよ。
ケルベロスって。
何だこの弱さは。
まだ、元の世界で近所の人が飼っていた犬の方が強かったんじゃないか。
「まあいいや、街に戻って報告するか」
不思議に思いながら、討伐した証拠として持って帰る為にケルベロスの死体をバラバラにしていく。
しかし、この黒い剣って本当良く切れるよな。
余り物扱いした俺に良くこんな剣を渡したもんだ女神様は。
その結果、俺に殺されたんだからバカな女神と笑うしかないけど。
◇
「おーい! ジン! お前ジンだろ? 何やってるんだ?」
「ん?」
ケルベロスを倒し、洞窟からいつもの街へ戻っている途中で、何者かに声を掛けられた。
振り返ると冒険者の格好をした金髪の男がいた。
俺はこの男を知っている。
ケント達と楽しそうに話しているのをよく見るからだ。
だが、名前は知らない。
俺はケント達と違いこの世界の奴らとはコミュニケーションを取ることが出来ないから。
そう、だから俺は不思議でならなかった。
この男が話している言葉が理解出来るということに。
おかしいな。
こうしてこの世界の人間と普通にコミュニケーションが取れるなんて。
まるで、俺が女神の加護を受けた勇者みたいじゃないか。
そんな事を考えている俺を気にも止めず目の前の男は話を続ける。
「何だよ、普通に俺の言ってる事が理解出来ているじゃないか。ケント達はジンが俺達の話している言葉が理解出来ない位頭が悪いから無視しているんだってバカにしながら言ってたぞ?」
こいつ……大分失礼だな。
何回も会った事があるからって、一回も話したことも無い人間にそんな事正直に言うか?
頭が悪いのはそっちだろ。
ケントもだ。
もっとまともな言い訳考えられなかったのかよ。
しかもバカにしながらって……。
俺がどうしてこうなってしまったか、事実を知っているはずなのに、酷いもんだ。
「……そうか。で、何の用だ? そんな人間にわざわざ話し掛ける程お前は暇なのか?」
「何だよジン? ケント達に食わせて貰っているのに随分偉そうじゃないか?」
「そうだな。だからってお前にとやかく言う権利は無い。失せろ、不愉快だ」
俺は男との会話を無理矢理終わらせ街へ戻ろうとする。
正直、この世界の人間は嫌いなんだ。
俺を見る度、ニヤニヤと笑っていたのでバカにしているのは薄々気付いていたが、やっぱりこいつらは俺をバカにしていたんだ。
ケント達も一緒になって俺をバカにしていたのは少しショックだが。
「そうかそうか、その言葉後悔するなよ? ケント達が王都から帰ってきたら伝えておいてやるからな!」
「……王都? どこだそりゃ?」
「ハッ! やっぱりケントの言う通りただのバカじゃねーか! 教えてなんかやるかよ!」
そう言って男は、街へと去っていった。
男の話から察するに、王都って事はこの国は王国なのか。
まずそれを知らなかった。
なんなら俺はこの国の名前だけではなく、今いる街の名前すら知らない。
まあ、いずれ分かるようになるから良いか。
あまり気にせず、俺は街へと戻った。
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