第3話 金貨六十五枚を手に入れ、思い出すのは姉貴

「美味しいですね、ここの料理」

「でしょ? でも、ここ結構高いけど大丈夫?」


 俺達が今いるのは、街で一番の高級料理店(らしい)。


 折角、大金が手に入ったからたまには旨いものを食べたかったので、色々街の事に詳しそうなお姉さんに聞いたらこの店が美味しいと聞いたので、一緒に行こうと誘ったのだ。


 最初は断られたが、お礼も兼ねているので食事代は全部俺が出しますと言ったら、OKされた。

 ……よっぽど高いんだな、この店。


 けど、たかが食事代で済むなら安い。

 お姉さんが、何も知らない俺に色々教えてくれたお陰で、手っ取り早く大金を得ることが出来た。


 ……まさか、ケルベロスの肉には全く価値が無いから、皮と爪だけを剥いで持っていけば良かったとはな。

 お姉さんに教えて貰って無かったら、あのバカデカい足と胴体を何にも考えず武具店に持って行く所だったぞ。


 しかも、不要なケルベロスの肉は、お姉さんが火の魔法で灰にしてくれたし。

 あのまま洞窟に放置してたら虫やら動物やらが集って大変な事になってだろうし。


「遠慮せず、もっと食べて下さいよ。お酒ばっかりじゃないですか」

「……そんなにお金入ったの? 私も君と同じくらい食べちゃったら、金貨一枚くらいいっちゃうよ?」

「え? 本当ですか? じゃ、もっと食べようかな、折角だし」


 ケルベロスの頭で、金貨三十枚。

 皮と爪で金貨三十五枚。

 合計、金貨六十五枚だぞ。


 余裕だな。

 何なら、金貨五枚くらいお姉さんにチップとしてあげなきゃいけないレベルだろ。

 たかが食事代だけでお礼を済ませて良いのか本当に?


「……あんまり、大金が入ったからって無駄遣いするクセはつけない方が良いよ?」

「……」


 何故だろうか。

 このお姉さんから、懐かしさを感じる。

 ……ああ、姉貴だ。

 この世話焼き加減といい、調子に乗っている俺をちゃんと注意する辺り。


 ……姉貴か。

 もう二年会って無いんだもんな。

 付き合っている彼氏と結婚はしてんのかな。

 もしかしたら母親にもなっているかもしれない。


 俺が今年二十歳になったんだから、姉貴は今年二十七歳になるはずだし。


「ど、どうしたの? 気に入らなかった?」

「いや、元の世界でも調子に乗ると姉貴に注意されていたんで懐かしいなって」

「お姉ちゃんいたんだ」

「お姉さんにそっくりですよ? 今年で二十七歳になるんですけど……」

「は?」


 何か失礼な事を俺は言ってしまったのだろうか。

 お姉さんに睨まれる。


「……二十四歳」

「え?」

「私、まだ二十四歳なんだけど」


 ……ああ、お姉さんの言葉で何となく察した。

 顔がそっくりって意味だと勘違いしてるのか。


 そりゃ、二十四歳なのに二十七歳の人に顔そっくりですね! って言われたらそりゃ怒るよな。

 ……こういう、勘違いで怒ったりする所も姉貴そっくりだな。


「嫌だなあお姉さん、性格がそっくりって意味ですよ? 姉貴なんかよりお姉さんの方が顔もキレイですし、スタイルも何十倍も良いですって?」

「……そ、そっか。ご、ごめんね? 最近、年齢が気になる年頃で……」


 分かる。

 分かる、その気持ち。

 二十四歳の時の姉貴ももう二十五歳になるなあ……ってよく呟いてたしな。


 二十五歳? もう四捨五入したら三十歳じゃん! アラサーの仲間入りおめでとう! とか言ってよくぶん殴られたな。


「……同年代の友達は結婚して、子供いて幸せそうな家庭築いてるのにさ。私は一人寂しく冒険者。流石に焦るよ……」

「……」


 ……重い、重すぎる……。

 そんな事を会ったばかりの年下の男に話さないでくれ……。

 何て返せば良いか分からないだろ。


 ……あ、酔ってるのか。

 いつの間にかワインらしきものが一本空になって二本目へと突入している。


 それにどことなくお姉さんの顔が赤い。


「……私だってぇ~恋人いたのにぃ~何で騎士の女なんかと浮気してんのよぉ~しかも何で私が捨てられるのよぉ~!!! ちょっと、ワイン三本目!」


 ……酒癖悪過ぎだろ。

 周りの客も見ているぞ。

 高い店なんだがら、酒飲んだくらいでそんな大声で叫んじゃう層は、本来来ちゃいけないんだよ。


 あ、俺が連れてきたんだった。


「お客様、他の方の迷惑になりますので、大声を出すの……」


 お姉さんの酷い有り様を見かねた店員が、注意しようとした時だった。


 バーン!!!


 店にいる客達の注目はお姉さんから突然入ってきた女性に降り注がれる。


「ハァ……ハァ……ようやく見つけた……。サ……サンドラさん! ちょっと来てください! 大変なんです!」


 かなり急いでいたのだろうか、突然入ってきた女性は、息を切らしながら、一直線にお姉さんに声を掛ける。


 そんなことよりお姉さんの名前、サンドラって言うのか。

 当たり前だけど俺が元いた世界、そして日本人の名前と比べるとやっぱり違うな。


「……んあ? な~にぃ? メリサぁ?」

「お酒臭っ!? まだ夕方ですよ!? どうしてそんなに強いお酒を二本も飲んでいるんですか、サンドラさん!?」


 突然入ってきた女性はメリサと言うらしい。

 酔っ払ったサンドラさんを見て、鼻をつまみながら驚いている。


「……申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になるので、騒ぐのなら店の外でやって頂けますか?」


 ……そりゃ、店員も怒るよな。

 高級料理店で騒いだりしたら。


「連れがすいません。お会計にして貰って良いですか?」


 これ以上迷惑を掛けるといけないので、会計を済ませて、取りあえず店の外に出る。


 ……ちなみにお会計は金貨四枚でした。

 サンドラさんが飲んでいたワインが二本で金貨三枚だったらしいです。

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