第7話 一味

 家に着き自分の部屋に入ると体の力が抜けていき、海斗との思い出がフラッシュバックしていった。

 出会った日、2人で遠出した日、泣きあった日、大喧嘩した日。思い出せなかっただけで忘れている記憶なんてどこにもなかった。

 そして、なぜ警察官を目指したかを話している記憶が残っていた。海斗の父親が溺れて亡くなった時、こう呟いていた。「父さんは事故で死んだんじゃない、殺されたんだ。」

 それから海斗は夢を語り始めていた。

 もしこれが本当なら誰が殺したのか。海斗は誰を裁く為に警察官になることを目指していたのか。

 なんだかそれを明らかにし、犯人を法で裁かないと海斗は永遠に報われない気がしてたまらなかった。


 「もしもし、ごめんね武瑠。なんか寝れなくてさ。」

 夜、あかねから電話がきた。ちょうど俺も寝付けなかったので2人で散歩をすることにした。

 時計はしっかり見ていないので10時くらいだろうか。流石に8月だというのに夜は涼しくて、空気中に虫の声だけが漂っている。街灯が点々と光をつけて俺たちの歩く道を照らしてくれていた。

 「夜遅いから、もし襲われたら私のこと守ってくれる?」

 「馬鹿いえ、俺よかスポーツしてるお前の方がよっぽど強いわ。」

 他愛のない話で、いつもなら怒ってくるはずが俺の方も見ずにただ少し微笑んだ。

 帰りに圭悟に会ったことを話すとあかねはびっくりした。送ったメッセージは既読スルーされたらしく、相当滅入って部屋に閉じこもっていると思っていたらしい。

 圭悟に聞いたことを話そうとしたが躊躇う。

 そういえば圭悟はなぜ俺に会って、俺だけに海斗のことを話したのだろう。


 気づくと将軍塚に着いていた。

 海斗からのプレゼントのことを話すと、あかねは「痛い」と言って笑い者にした。

 あの赤い星が滅びた日、あかねも見ていたらしく、その時のことを話していると彼女は急に黙り出した。

 そして「怖い」と呟き空を見上げた。

 「私ね、海斗がいなくなって死ぬほど辛いよ。だから忘れてしまいたいの、忘れないとこれから生きていけないから。でも、あの星みたいに二度目の死で私の中から海斗が消える方がもっと怖いんだ。」

 するとあかねはそっと俺のズボンの裾をめくり上げると、透明になった足を手で撫で下ろし。

ぎゅっと俺のことを抱きしめた。

 「でも、武瑠といると怖くない。あなたといる時だけ海斗のことを覚えていても辛くないから。だから聞かせて。」

 あかねは俺の肩をぐっと握ってから、両手で俺の頬を優しく包み、こう言った。

 「武瑠は、死なないよね。」

 人はいつ死ぬかなんてわからないよ、なんてはぐらかすのは許せなくて。でも「死なないよ」なんて言うのも無責任な気がして。

 俺はただ、強く、強くあかねのことを抱きしめて、無言で立ち尽くすことしかできなかった。

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