第6話 色味
8月21日、海斗の葬式が行われた。
彼は踏切の閉まった線路に飛び込み、自ら命を絶った。
ありえなかった、信じたく無かった。
もう話せないなんて、会えないなんて。
「圭悟、来てないね。」
あかねが連絡したのだが、親友だったはずの圭悟は葬式に姿を現すことをしなかった。
あの時、海斗からの電話に出ていたら死んでいなかったのだろうか。
ただただ、後悔するしかなかった。
暑さか何かでぐったりしてしまった俺はすぐに帰ったが、家まで着くことはできなかった。
「圭悟…。」
最寄駅で彼が俺を待ち伏せしていた。
「話がしたい、武瑠。」
駅の近くにある喫茶店に入り、とりあえず珈琲を2杯頼んだ。
「圭悟、葬式くらいこいよな。最後のお別れなんだから、て言ってもそこに海斗はいなかったけどな。」
電車に飛び込んだので原形を止めていなかった、さっきまで命あったものが腐ったリンゴみたいに直ぐ潰れるなんて。
「ごめん…。」
さっきから俺のことを伺っている。多分まだ知られてないと思っていて、本当のことを話そうとしているのだろう。今まで黙ってきたことを話すとなると相当の勇気が必要だ、俺からさりげなく言ってやるか。
わざとらしく視線を窓の方に逸らし、あかねから聞いたことを全て話した。
すると圭悟は安堵のため息を深く吐き、ぎこちなく笑った。
「じゃあこんな写真、俺が持ってても理解できるよな?」
強い光に反射したスマホの画面、顔の角度を少し変えて見てみるとその写真が明らかになった。
暗闇の中、フラッシュを受け輝くその被写体は俺の知っている顔だった。
「海…斗…?」
その表情は恐怖心で埋まっており、服は一切着ておらず両手が結束バンドのようなもので縛られている。
「サイトで高1の時に見つけたんだ、まさか同じ学校のやつだったなんてさ……。」
そのサイトを見せてもらったが、全て同じ場所で闇の中に縛られている海斗。見ていられなかった。
「これが理由で海斗は自殺したと考えるのが妥当だろうな、そして犯人も明白だろう。」
圭悟が指で指したのはこのサイトができ、海斗の写真がアップロードされた最初の日だった。
『2016 12/13』
俺たちがまだ中2だった2016年は、小学生からの付き合いだった海斗の父親が他界し、俺も海斗の父さんと仲が良かったので葬式で号泣していたのを覚えている。それがその年の7月のことなのだが、12月。見計っていたように海斗には新しい父親ができていた。それでもおかしいと思う所があるけど、さらに海斗が父を亡くした時よりも暗い顔をしていたのでとても不可解に感じていた。
「あと全て同じ場所で撮影されているというのも気にかかるよな、ここなんて1週間連続で投稿されてて全部同じ場所だ。」
しかも投稿時間のほとんどが深夜だった。中1から部活に没頭し、自主練もして夜遅くに帰っていた海斗がどこかに呼ばれて撮影されていたなんてありえないだろ。
つまりここは海斗の家のどこかだ。
そしてこれをしていたのは海斗の義理の父で間違い無いだろう。
「俺が葬式に行かなかった理由はさ、あの場所で海斗の義父を殺してたかもしれないからだよ。でも最後ぐらい、静かにしてやりたかったから。」
帰り際、圭悟に「こんなことされてるって知ってたのになんで言わなかった」と聞こうとしたがやめておいた。
わざわざ本人が隠しておいたことをわかっていても、黙っておく。これは俺たちだってしていたことだったから。こんなことを聞いたら理不尽だって怒られそうで怖かったからだ。
俺たちの青は、赤に染まっていく。
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