第参章 家老過去編
第1話 家老、相談する
ある夏の夜、ほてる・座・まんはったんの奥座敷。
スヤスヤと眠る勘十郎の耳元に声が聞こえてきた。
「うらめしや~」
ぱちりと目を覚ます勘十郎。
「家老さま、毎回その起こし方、止めていただけますか?」
「テンプレは大事じゃよ」
「で、なんですか?」
「うむ。相談があって参った。」
家老はぽつぽつと話し始める。
家老には娘がいること。今も生きていること。
それが、女将に似ていること。
なんとか女将に確認を取ってほしい。
形見があるから渡してほしい。
「それが成仏できない原因ですか?」
「うむう、たぶんそうじゃないかなあと。」
「自信ないんですか!?もし女将が娘さんじゃなかったらとか、もし娘さんだったとして成仏できなかったらどうするんですか?」
「勘十郎よ、なぜそんなにわしを成仏させたいの?」
「安眠妨害だからですよ!」
勘十郎は仕方なく、協力することにした。
「もし協力してくれたら、もう夢枕には立たぬ」
勘十郎の安眠のために。
家老の成仏のために。
「もぞもぞ。」
勘十郎の布団から出てくる三雲。
「話は聞かせてもらったっス!」
家老の声は聞こえないので、勘十郎の話だけね。
「これはこれは三雲さま、ご機嫌うるわしゅう。」
「どこから出てくるんですか!」
「つまり、女将にお父さんのことを聞けばよいのでっスな?」
三雲に任せるっス。突撃インタビューには慣れてるっス!
行ってくるっスよ。
と、どたどたと部屋を出ていく。
「なんて良いお人なのじゃ、三雲さま。感動のあまり涙がでますぞ~。」
「いやな予感しかしないので、追ってきます。」
「三雲さまはよいおなごですぞ。なぜ婿入りせんのじゃ?
家老のコトバをガン無視して三雲の後を追う勘十郎であった。
「え?父親?知らないわよ。母さんからは何も聞いちゃいない。」
寝ているところをたたき起こされた女将は不機嫌ながらも答えてくれた。
「母親はどんな人だったっスか?名前はなんていうっスか?」
「名前は瑠璃だね。どんな人ねえ…、とにかく芯の強い人だったかね?私が10歳になる頃に死んじまったから、なんとも言えないけどね。」
「おお、やっぱりそうじゃ。わしの昔のオンナの名前が瑠璃じゃった。」
「なんですか、昔のオンナって言い方!」
「結婚したわけじゃないんじゃ!」
「言い方がひどすぎます!」
うるさいっスよと、三雲に釘を刺される。
「瑠璃はのう、女将によく似てとっても美人じゃった。」
~40年近く前~
がやがやと賑わう食堂。
当時の家老、
「いらっしゃいませ~、江戸前食堂へようこそ~。何名様ですか~?」
黒髪ロング和服女子がお客を案内している。
ほけ~っと席に座ったまま見送る弥七。
「弥七さま、口が開いてますよ」
「あ、開いてないわ!」
誰だって気づくわ。こいつぁ、恋だってなぁ。
続く
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