第2話 家老、勇気を出す

「その少女は、まるで百合の花のように可憐であった。」




ありあとっした~!ありがとうございましたまたお越しくださ~」


百合にたとえられた少女が元気よく、愛想よく(?)お客を見送る。


「はあ、、、なんて美人なんだ。」

「家老さま、さっきからそればっかりですよ。」


弥七家老は供回りの3人を連れて毎昼、食堂【サンフラワー 江戸前店】に通い詰めていた。


「あ、カニクリームコロッケひとつ」


「あざーっス。カニコロひとつ入りやした~!」


「弥七さま、今日これでいくつ目でござるか!揚げ物は辞めておけと藩主さまにも止められているではないでござるか!」

「うるさいわ!カニは揚げてるからカロリーゼロって誰か言ってただろ!」

「誰ですか知りませんでござる!」

馬場くんが必死に止めるのを無視してカニコロが運ばれてくる。


「美味しいでやんす。ここのカニコロ。あの子が紹介してくれたんでやんす?」

内藤くんは弥七が頼んだものにもかかわらず、気にせず聞きながらパクつく。


「そうなんだよ~。おすすめ聞いたら教えてくれたんだ~。」

「そりゃ聞かれたら答えるでしょ仕事なんだから。」

山本勘九郎くん。なんと勘十郎のお父さんです。まだ幼い少年ですね~。


「いい加減、彼女の名前くらい聞いたらいかがですか?」

「え。やっぱり聞いたほうがいいかな?」

ドドドドと周りに聞こえるほどの心臓大爆音。

「聞かないなら拙者が聞くでござる。おーい。すみませーん。」


「は~い。お会計ですか~?」


覚悟がないのに呼ばれてしまう。

だが、ここは、他に聞かれるわけにはいかないと心に決めた弥七。


「あの、、、名前はなんですか?」

「ああ、サンフラワーお手製カニクリームコロッケです。」

「ち、ちがくて、、、あなたのお名前は?」

「私?私は瑠璃です。」

「瑠璃さん!いい名前ですね!」

「ありあと~ございます~。お会計13473円になります~。」

「カードでお願いします。一括で。」


カニコロをいくつ頼んだのか、毎日の出費が痛くなっていたのだが

、弥七は気づかない。


デートに誘うでやんすよ!

こそっと後ろから手助けする。

こんなテンポではやってられないと下っ端3人は考えていた。


「デートしませんか!?」


ストレートだ~!

これはダメでござる!ダメでやんす!ダメでしょうね!

口々に失敗を予感する。


「いっすよ~」


いいんだ!

弥七はその場に卒倒した。

その場が騒然としたことは言うまでもない。



続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る