第2話 アダムの意地

 どうして? どうしてアダムは攻略をしたがらないのか。

 訊いて見ない事には解らない。だから俺は地面に対して這いつくばるように動いた。


 目指すはアダムのところだ。と言っても例の三人組はもう既に近くにいた。


「来ても無駄だぞ」


 う。そう言われたらなんて話し掛けるべきなのか。はは。解らないや。

 でもこんなところで生活するだなんて真っ平ごめんだ。ただ悔しいけど俺一人じゃ無理だ。攻略だなんて。


 アダムにもいい訳がある。それを巧く訊き出せる事が出来ればな。話は早い。


「え。あ。う。……アダムはさ。どうして攻略しないの?」


 はぁ。なんとか言い出せた。なんとかして正直に言わせないとな。解決しない。


「お前には関係ない事だ」


 はは。全く相手にされていない。そっぽを向かれたしこれは難敵だな。


「俺はさ。もう仲間には逢えないんだよな。俺だけが生き延びて本っ当に悔しいよ」


 食い入るようにアダムは聞いていた。それが俺には解る。だって俺とアダムは同じだからな。


「しつこい。俺は――。あ。ヒルダ」


 うん? あ。いつのまにかヒルダが近くにいた。なんだろうな。この感じは腹を割るかな。


「アダム。私ね。アダムの事を恨んでないから」


 あ。身内の話だな。俺には確かに関係ないな。ここは見守るか。静かにな。


「俺は! 別にそう言う訳じゃなくて」


 んじゃどういう訳なんだろう? この感じならヒルダが訊きそうだな。


「どう言う……訳なの?」


 よかった。ヒルダが踏み込んでくれた。これでアダムが素直になってくれればな。いいのに。


「く。……お前らには関係ない事だ」


 ああ。アダムが一向に心を開いてくれない。でもそれでもここはもっと網を張るべきだ。


「ディードの事なの?」


 うん? ディード? って誰だ? ……あ! どうやら図星らしい。アダムの雰囲気が変わった。


「うるさい! もう! もう……構わないでくれよ」


 なにを一人で抱え込んでいるのだろうか。そのディードは何者なのか。今の俺には解らない事だ。


「図星なのね。……悔やんでいるの? 私たちがこうして生きていられるのはディードのお陰なのに」


 ヒルダの言葉が俺の脳裏の記憶を走馬灯の如く呼び起こした。ああ。そうだ。俺は……俺も皆のお陰で――


「そうだ。俺は……取り返しのつかない事をしてしまったんだ。そんな俺がのんのんと生きる? 最低じゃないのか、それは」


 俺には解る。これは……他人事ひとごとではない。確かに俺も皆のお陰でこうして生きている、スライムとして。ここは! 言いたい!


「アダム。だからこそに行こうよ。俺の仲間もさ。俺の為に死を選んだんだ」


 見入るようにアダムは聞いている。どうやら俺とアダムは同じ境遇の持ち主らしい。アダムは隊長として苦労してきたんだな。あ。いや。苦悩か。


「なんだよ。俺よりも悲惨じゃないか。スライム」


 はは。本当に。だけどこうして客観的に見れるのも同じ境遇を辿っているからだ。運命としか思えないな。


「な? 生きた奴にしか出来ない事だってあるんだぜ?」


 なんだか説得はなんとか行っている。このまま行けばダンジョン攻略を手伝ってくれそうだ。


「たとえば?」


 う。そこまでは考えていない。はは。どうしようか。


「たとえば――」


 だ、駄目だ。なにも思いつかない。これじゃなんの為にここまで来たんだろう。

 俺が困っているとアダムの肩がカタカタとなり始めた。最後には顎も鳴り始めた。


 俺が恐る恐る覗いて見るとなんとアダムは今にも笑い上戸になりそうだった。


「ひゃあっはっはっはっはっはぁ! なぁ? スライム? お前の名は?」


 え? 俺の名か。確か俺の名は――


「シド。俺の名はシドだ」


 懐かしい感じがするな。でも時間的にはそんなに経っていないだろう。なんとも不思議な感覚だ。


「そうか。シドか。……今まで悪かったな。ダンジョン攻略か。いいぜ。ここは魔王に一泡でも吹かせようじゃないか。へへ。ディードには悪いが俺は闘う性分らしいな。よぉおし。それじゃあ……ダンジョン攻略――」


 最後の最後で全員が同じ言葉を口にした。その言葉こそが俺の聴きたかった「行こぜ!」だ。これでようやくダンジョン攻略が出来そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る