第18話 羅生門の鬼

「どうなんだよ婆さん、早く言え!」


「いいから黙ってなさいよ!」


 老婆を急かす下男を、桃太郎かぐやひめ窘めきたしなめましたすとすると老婆は、ぽつりぽつりと、いみじくあえかなるひどく弱々しい声に声でたどたどしく話しそめけるはじめました


「この髪を抜いてな‥‥‥この髪を抜いてな‥‥‥」


「ほらぁ!

 やっぱりかつらを作ってんじゃない!!」


 桃太郎かぐやひめいとえらく嬉しさううれしそう言ひける言いました


「うるせぇな、まだ話し始めたばっかじゃねぇかよ!

 最後まで聞けよ!?」


「何よ!? 自分はこんな御婆さん相手にビビっちゃって刀まで抜いたくせに!」


「そっ、それとこれとは別だろ!?」


 嫗忘れ老婆の事を忘れいひしろひ口喧嘩始むるはじめた二人のうしろに背後で老婆は未だ話し続けたりき続けていました


「服を剥いてな‥‥‥皮を剥いてな‥‥‥ほんで食うんじゃぁ!!」


 ひとへにまるで餓鬼のごとくようにやつれ細りし痩せ細った老婆小さき小さな体躯身体たちどころにとつぜん膨れ上がり、見る間に巨大なる巨大な鬼のさま姿うつろひける変わりました


「う、うわぁ!?」


 下男は桃太郎かぐやひめのうしろに突然うちいでし現れた鬼に驚き、腰を抜かして仰のけに転びけり尻もちをついてしまいました。その拍子にわづかばかりの灯り頼りない光を齎せるもたらしていた火消え火が消え、楼の上はひとへにまるで新月の夜のごとく真っ暗になりにけりなってしまいました


「!!」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る