第17話 羅生門の老婆

「お婆ちゃん、この馬鹿がゴメンね?

 大丈夫? 怪我は無い?」


 桃太郎かぐやひめ老婆の肩に手を置きて置いて、優しく問ひかけり問いかけましたされどもけれども老婆黙れり黙っている。両手をわなわなふるはせ震わせ肩に肩で息を切りつつ切りながら、眼を、目玉眼球まぶたの外へいでさう出そうになるほどに、見開きて開いてのごとく執拗しゅうね黙れり黙っている


「バカとは何だ、バカとは!?」


 下男が怒りて怒って言ふ言うと、桃太郎かぐやひめも負けじと言ひ返しける言い返しました


「馬鹿だから馬鹿って言ったのよ!

 こんなお婆ちゃんに大の男が刀なんか抜いて、恥ずかしいと思わないの!?」


 下男は気を取り直して刀を突きつけつつながら言ひける言いました


オレ検非違使けびいしの庁の役人などではない。今しがたこの門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようとうような事はない。ただ、今時分いまじぶんこの門の上で、何をして居たのだか、それをオレに話しさえすればいいのだ」


 桃太郎かぐやひめは下男の刀を手に手で払ひて払って叱りつけける叱りつけました


「いい加減にしなさいよ!

 何気取っちゃってんの!?

 さっきからキモいのよ!!」


「キ、キモ?!」


「相手が自分より弱いお婆さんだってわかった途端に強気になって刃物なんか持ち出して……何が“オレ”よ!?

 さっきまで“僕”とか言ってたくせに!!」


「う、うるさいな! いいだろそんなこと!?

 それより婆さんがこんなところで何してたのか気になんないのかよ!!」


「アナタってホンっとに馬鹿ね!」


「また馬鹿っつったぁ!!」


「ここは羅生門でしょ!?

 その上にいる御婆さんって言ったら、死体から髪をとってかつらを作ってるに決まってるじゃない!

 常識よ!!」


「知らねぇよ、そんなの!

 勝手に常識作んな!!

 どうなんだよババぁ、その通りなのか!?」


「そうよねぇ~お婆ちゃん?」


 桃太郎かぐやひめと下男は揃ひてそろって老婆問ひかけき問いかけました


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る