第14話 羅生門の上

 二人とも地に尻餅をつき、落ちたる落ちているむくろ惑ひふためきたまひける慌てふためいた


「あ~ビビった! あ~ビビった! なんだ、ただの死体か……」


「ちょっ! な、何で死体!? 何で死体が!? どこから!?」


「あ!? ……そりゃ羅生門の上から落ちて来たんだろ?」


 下人は立ち上がりて上がっての埃を払ひつつ払いながら言ひける言いました。さも当たり前のごとく言ふ言う下人に桃太郎かぐやひめいと驚きとても驚いて、地面に尻をつきしままついたまま上げたまひてあげて言ひけり言いました


「羅生門!?」


「ああ、これだよ。見えてんだろ?」


 下人は羅生門指さして羅生門を指さして教へけり教えました


「あそこの上から落ちて来たんだ」


「何で!?」


「何でって、引き取り手のない死体をあそこに捨てる奴がいるんだよ。

 あそこなら捨てても誰にも文句言われねぇからなぁ……」


「そうじゃないわよ!」


「何が? ……ってアンタいつまで座ってんだ?」


「う、うるさいわね!」


 桃太郎かぐやひめは飛び上がるごとくように立ち上がりてあがって、あわただしく尻の埃払ひて埃を払って言ひける言いました


「何であそこから死体が落ちてくるのよ!?」


「だから死体が捨てられてっからだろ?

 あったま悪ぃ~なぁ?」


 下人に先刻までの愛嬌は無く、桃太郎かぐやひめをこにせむバカにしたような言ひやうなりける言い草でした


「あそこに捨てられた死体が自分で勝手に飛び降りたとでも言うつもり!?」


「そりゃあ……誰かが投げ捨てたんだろ?」


「誰よ?」


「そんなの知らないよ!

 あそこに住んでる誰かじゃねえか?」


「人が住んでるの!?」


「ああ、なんだか分かんねぇのがな……

 盗賊とかそういう連中が住んでるって噂だよ」


 桃太郎かぐやひめすずろになんとなく腹立ちける腹が立ってきました


「ゆるせないわ」


「は!? 何が?」


「死体を捨てるのがよ!

 もう少しで当たるとこだったのよ!?」


「いや、でもホラ、当たんなかったし、誰が捨ててるかなんてわかんねぇし?」


「今、を捨てたのは間違いなくあそこに居るでしょ!?」


「あ、ああ……うん……そうだね……」


 桃太郎かぐやひめ猛りようを前に怒る迫力に下人はおののき、やうやう力失ひてたじろぎにけりなんだかドン引きしちゃいました


「ヨシ! じゃあ行くわよ!!」


「え!? 俺も!?」


 桃太郎かぐやひめ戸惑ふとまどう下人をまもりてにらみつけて言ひたまふ言いました


「アナタ、男でしょ!

 か弱い女に行かせて自分は何もしないで逃げる気!?」


「いや、アンタ別に弱くねぇだろ?

 だいたい今は『男のクセに』とかいうのはセクハ…」


 桃太郎かぐやひめ露の間に一瞬で下人の襟つかみ襟首を掴んで、首元に鉈の刃押し付けき刃を押し付けました


「行くの? 行かないの?」


「…い、行きます、行きたいです、是非行かせてください」

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