第5話 船出

 おきなは皆々引きぐして引き連れて浜まで来たれり来ました


「ほれ、あれがお前らの船じゃろうが、さっさと用意せんか」


「今すぐ! 今すぐ!」

「します、します、船を出します!」


 犬吉いぬきち猿彦さるひこやつれうつろひし身痩せ衰えた身体に鞭打ちて打って、浜に打ち捨てられたりし捨てられた船に駆け寄りて、船出でふなでいそぎ準備をばし給ふしました


 桃太郎かぐやひめおうなぐされ連れられ浜へ来たれり来ました


「さあさあ、桃太郎や。

 これを持ってお行き」


 おうなさ言ひてそう言って包み差し出だしき出しました


「これは鬼魅団子きびだんご だよ。

 これを食わせれば皆お前に惚れて言う事を聞くようになる。言い成りになる。

 お前の御供にあの二人では心許無こころもとない。

 誰ぞ頼りになりそうな偉丈夫いじょうぶを見つけ、これを食わせると良い」


 とささやけきてささやいて、ヒヒヒとおうなあやしく笑ひきわらいました


「良い物を貰ったなぁ、桃太郎ももたろう

 だが、それはあの二人にはやらんでいいぞ。

 もっと役立ちそうな者にやるがイイ」


「間違って自分で食べるんじゃないよ、キヒヒヒヒ」


 桃太郎かぐやひめの包み受け取りたれば、翁と媼はそろひて笑ひてさ言ひき一緒に笑ってそう言いました


「これも持ってお行き」


 媼はいと大いなる葛籠えらくバカでかいツヅラを差し出だしてさ言ひきそう言いました


「これは、中は空っぽみたいですけど・・・まさかあの二人の棺桶?」


「そんなつまらん物を入れてどうする。

 あやつらが死んだらその場に捨て置け。

 せっかく宝物を奪っても入れるもんが無いと運ぶのに困るじゃろうが?」


「これに納まる程度でいいからね、金目の物を選ぶんだよ。」


 翁と媼はさ言ひて笑ひきそう言って笑いました


「さあ、船の準備もできたようだ。

 名残なごりしいが早々につが良い」


 翁がさ優しく言ひつつそう優しく言いながら犬吉と猿彦を睨みつくにらみつけると、二人は震へあがりきふるえあがりました


「お嬢様、さあさあ、早く早く」

「乗ってください、お願いします」


 犬吉と猿彦に促されし桃太郎のうながされたかぐやひめが船に乗りこみたれば乗り込んだら、二人は必死に船を浜より海へ押し出だしける押し出しました


「きっと勝ってこいよぉー!!」

「宝物を楽しみに待ってますからねー!!」


 桃太郎かぐやひめ乗りたる乗った船はおきなおうなに見送られ、浜より海へ漕ぎだしき漕ぎだしました


「逃げようなんて思うなよぉー!!」

「地の果てまで追い詰めてみせますからねー!!」


 浜の二人の姿見えずげに遠くまで来しに見えなくなるほど遠くまで来たというのに、翁と媼の声は尚も桃太郎どもの船まで届きけりかぐやひめたちの船まで届くのでした

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