第14話


加藤さんと別れた後、俺は、加藤さんのことを考えていた。


真っ暗で、街灯の明かりが自分を照らす中、一人でつぶやく。


「めちゃくちゃ良い人だったな、加藤さん」


噓告の動画のことを一切、考えず加藤さんと話したり、遊んだりしていたとしたら惚れに惚れまくりだと思う。


それぐらい魅力的であったのだ。



──────



「いやぁ。やっぱ古典の奥山の授業、だるいなぁ」


「そう?」


「いや、だってよぉ、お前はいいかもだけどさ、あいつ俺にはいつも厳しいんだぜ?マジあいつやばいわ」


「それ、お前がいつも宿題忘れてるから、恨まれてるだけだろ」


「は、ふざけんなっ!」


学校が終わり、放課後。俺と光は、オシャレなカフェに来ていた。なぜ俺たちがこんな所にいるのかというと、


「お待たせしました、お客様。こちらフワフワサクサクパンケーキでございます」


目の前に、店員ととてもいい匂いのするパンケーキが二皿置かれる。


「ひえ~、めちゃくそ美味しそうだなぁ!」


「やべぇ、これは絶対美味い」


そう、これが今日の目的、フワフワサクサクパンケーキである。この間、SNSで話題になっていたパンケーキであり、ずっと食べてみたいと思っていたものだ。


「光、やっぱ来て正解だっただろ?」


「おう、これは大正解だ!」


こんなにはしゃいでいるのは、僕たちぐらいである。周りは、女子高生や女子大生が多く、皆スマホで写真を撮りまくっている。これが噂のなんとか映えだろうか。


「じゃ、食べるか!」


「おう!」


ナイフで丁寧に一口サイズに切り取り、食す。すると、いきなり口の中に、メープルシロップの甘さが広がった。


「うまっ」


「やべぇ、これ」


あまりのおいしさに単純な言葉しか出ない俺たち。


そう感動していると、光は、話を振ってきた。


「あ、そういえば、加藤さんはどうなったんだよ?」


「え、だからなんもねーよ」


「いや、まあ、百歩譲って恋愛はないとしても、なんで俺にあんなこと聞いたんだよ」


あの加藤さんから話を聞いた夜から何日たっただろうか。俺は、あれからずっとどうやったら加藤さんを鈴木に弱みを握られている状況から解放できるのかを考えていた。これを解決したら、「飯塚さん救出大作戦」の糸口も見える気がする。


しかしだ。


あの日から、何一つ案が浮かばないのだ。めちゃくちゃ困っている。


「ほんとに何となくだって」


「えー、面白くないなぁ」


「まあ、何もないからな」


光のことは、信用しているがこれは自分で解決すると決めたものなので加藤さんについて何も言う気はない。


「まあ、いーや。たまには面白い話題作って来いよ!」

「どういうことだよっ」


俺は、笑いながらそう返す。


「いやぁ、しかし、美味しいなこのパンケーキ!」


「長蛇の列を並んだだけあるよな」


「おう、今度、もう一回、水島とかと来てもいいかもなっ」


「おう、そうしよーぜ」


俺は、光の提案にうなづきながら、パンケーキの甘さで渇いた喉を潤すために水を飲み干す。水がなくなったため俺は、手を挙げ、近くにいた店員さんを呼んだ。


「すみませ~ん」


当然の如く、店員さんは駆け寄ってくる。


「あの…水を欲しいんで…す……え?」


俺は、寄ってきた店員さんの顔を見て、驚愕した。


目の前の光も困惑。


そんな凍り付いた状況の中、最初に言葉を発したのは店員さんだった。


「…た、た、滝原?!」






そう、俺たちの目の前に現れた店員さんは、正真正銘、鈴木佳奈であったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る