第13話

「やっぱり…」


加藤さんの一言で俺の中の疑問は少し解けた気がする。


「え? やっぱりって?」


「あ、いや大体予想はついてたから」


「鈴木って、あの鈴木佳奈のことだよな?」


「あ、はい。そうです」


鈴木佳奈。その名前の奴は学年に一人しかいない。俺や加藤さんとクラスは一緒で尚且つ、いつも飯塚さんのグループの中にいた一人だ。


俺は流れ込んでくる情報と同時に疑問も増えどんどん前のめりになっていく。


「どんな風に脅されたんだ?」


「あ、ええっと」


はっ。


加藤さんの困ったような声に俺は我に返った。そして慌てて言葉を付け足す。


「あ、ごめん。嫌なら答えなくていいからな」


加藤さんがされたのはとても酷い脅され方で今も思い出したくないかもしれない。なのにわざわざ俺に「脅された」ということを教えてくれた。


情報としては十分なはずだ。だが俺はさらにこの件について追求しようとしているのだ。俺が加藤さんの立場ならとっくに逃げ出しているだろう。


「い、いや、そういういことじゃなくてっ!」


「…そ、その近くてっ…」


「ん?近い?」


今まで話に夢中だった俺は、はっと我にかえる。


そう、加藤さんが言っている「近い」というのは、物理的な意味であったのだ。見ると、すぐに目の前に加藤さんの顔がある。


「あっ、いや、ごめんっ!話に夢中になっててなんも見えてなかった」


「い、全然大丈夫ですっ。むしろ…嬉し…うか」


「ん?なんて?」


最後の部分がごにょごにょしていたため聞こえなかった。


「い、いや、な、なんでもないです!あ、で、あの鈴木さんのことなんですけど!」


「え?あ、ああ」


何かを濁したことに対し疑問を抱くが突き通された。


「で、どう脅されたんだ?」


「あの鈴木さんのことですね」


「ああ」


ようやく話の本題に取り掛かる。


「あの日は確か先週の水曜日だった気がします」


水曜日?俺が噓告された日か。


「そう、あの水曜日の夜、私の元に1件メールが来たんです」


「そのメールの内容は·····」


そう言い加藤さんは息を飲んだ。やはり思い出したくないのだろう。


「…『この動画クラスグルに流しといて。あ、流さなかったらこの事バラスから』…と」


「…この事って?」


俺は恐る恐る聞く。加藤さんの表情はさっきの家の中での表情と程遠く、影に沈んでいた。


「大丈夫?」


「あ、へ!? だ、大丈夫です」


明らかに大丈夫ではない。いつも人の変化に気づきにくい俺でも気づくほどだ。


だが、必死に言おうとしている姿を見て俺はとても止められそうになかった。


「·····これです」


俺は何も出来ずにただただ加藤さんを見ていると彼女はポケットからガラケーを取り出し俺に見せてきた。


その手は今にでもケータイを落としそうな感じでぶるぶると震えていた。


そんな加藤さんが見せてくれたケータイの中を近寄って見る。


「ん?」


見て俺の口から出たのは「ん?」だけだった。


ケータイの中に映し出されていたのは、加藤さんがパン屋さん?の中に入っていくだけの写真。


特に違和感も何も無い写真だ。


なぜこんな何の変哲もない写真を?


その疑問に答えるように加藤さんは言う。


「こ、これ、バ、バイトなんです…」


「バイト?」


「は、はい。私、家が貧乏なので少しでも家族の助けになれるようバイトをしてるんです…」


「そうか…」


パン屋でバイト…。


たかだかバイトしてるだけじゃん、と普通の人はなるかもしれないが俺達ではそうはならないのだ。


俺たちの通っている学校「七星高校」では「高校生活では勉学に励むべし」というスローガンがある。


おそらく大学の進学実績を上げたいのだろう。他の人はだいたいこの学校のスローガンを親がみて入れさせられたというものが多い。


そして、そんな当然このスローガンにより他の高校と違うこともある。


色々と違う所があるがその中の一つに「バイトはしてはいけない」というものがある。


このルールを破ると流石に退学とまではいかないが何かしら怖い罰があると聞いた記憶がある。


この事から加藤さんがやっていることは、やばいことなのだ。


「それを撮られたのは知ってたの?」


「い、いや、全く知りませんでした」


なるほど。知らなかったのなら余計怖かっただろう。


今の情報をまとめるとこうだ。


鈴木さんに嘘告の動画を送るよう言われた。送らなかったらバイトしている事をばらすということも添えて。


考えただけで恐ろしい。


「だから送った…か」


「は、はい。す、すみません」


「いや、別に俺が謝られてもなぁ」


別に俺が困っているという訳では無い。いや、まあ、間接的には困っているのだが。


しかし、そんなことはどうでもよく俺の中には「飯塚さん救出大作戦」の他にもう一つやる事が追加されたような気がする。


人が良すぎるかもしれないが全ての元凶はあの嘘告だ。


関わっている俺にも責任があると思う。


俺はまだおどおどしている加藤さんをなだめるようにそっと言う。


「まあ、バイトの事はどうにかしてみるよ。安心して」


「え、あ、あ、ありがとうございます」



この心もとない一言で安心は出来ないような気がするが加藤さんの表情はどこか少し柔らかくなっていた

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