第8話

「おばあちゃん、お茶いる?」


「ありがとね〜ここにおいとくれ」


俺は今、母方の祖父母の家にいる。墓参りに行った後帰るまでに時間があったので少し寄ってみた次第だ。


祖父母の家は墓参りの時に降りた駅の近くにあり、築80年ぐらいの家だ。今、祖父は田んぼの作業をしているらしく家には祖母と俺の二人。


もう夕方なのであと30分ほどしたら帰ろうと思っている。


「なあ、おばあちゃん、相談があるんだがいいか?」


俺は自分が小さい頃よく相談に乗ってくれた祖母に口を開いた。


「ん?相談?」


不思議そうな目で自分を見る祖母。


「ああ、相談」


最近は祖母に会ってなかったので自分の「相談」という言葉に懐かしむような顔している。


「学校でなんかあったのかい?」


「おう、まあそんなところ」


「話してみい」


祖母は、座っている椅子の隣の椅子を手でとんとんしながら言う。


「ありがとう」


祖母がトントンと手で叩いた椅子に座り、俺は話を始めた。


嘘告されたなどの詳しいことを話す時間はなかったためできるだけ簡潔に話す。


自分を傷つけた相手が困っている。その相手を助けたほうがいいのか、と。


話し終えると祖母は、小さい頃に相談した時と同じように首をかしげながら考える。久しぶりにこの姿を見てここで遊んだ記憶などが沸き上がってきた。


その思い出に浸っていると、祖母は答えが出たらしくかしげた首を立て直し俺のほうを向いた。


「それは、もう和人の中で答えが出てるんじゃないのかい?」


「え?」


俺は、答えがわからないから聞いたのに祖母は自分は答えが出ていると言っている。なぜそんなことを言うのか。


俺がはてなマークを頭の上に浮かべていると祖母はその疑問を払拭するように言う。


「私の娘、和人の母親のことを思い出してみい」


俺のお母さん。それは今は亡き人。そんな母親のことを思い出す。




『──いくら追い詰められていたとしてもその人、他の人を傷つけてはだめよ和人』




すると、母親が言った言葉が出てきた。数ある記憶のうちこの言葉だけスッと出てきたのだ。


いくら、追い詰められていたとしても·····か


「なにか思い出したようだねぇ、それが答えだよ」


「これが·····」


この言葉は母親が亡くなる1日前に言われた言葉だ。俺はその時、言われた言葉の意味は分からなかった。しかし母親が亡くなった後、俺は意味が分かってしまったのだ。


あの時の俺はなぜその言葉の意味を母が亡くなる1日前に気づかなかったのだろうと後悔していた。


そして、絶望して忘れてしまったのだろう。この言葉を。


「そうだよ」


「ありがとう、おばあちゃん」


祖母はいつも自分に自分に合った答えをくれる。俺は素直に感謝した。


「あいよ」



母の言葉を思い出しわかった気がする。何をすべきか。


俺は助けようと思う、飯塚さんを。


母が言っていたことはこういうことだと思う。


飯塚さんのことは許さない。だが助けはする。



飯塚さんが母親のようにならないために。



同じ事を2度繰り返さないように。

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