第6話

翌日。


教室に入った瞬間目に入る光景。それは、いつも通りの光景だった。楽しそうにグループで話している人、1人で本を読んでいる人、宿題を焦ってやっている人、それぞれいつも通りだ。


しかし、どことなく雰囲気が違う。


なにかが足りないのだ、なにかが。


俺はしっかりとクラス全体を見る。


あっ。


俺は、気づいた。そのなにかを。



飯・塚・さんがいないのだ、いつも入っているグループの中に。飯塚さんは1人で座って黙り込んでいる。


俺はこの奇妙さに戸惑いながらも窓際の1番後ろの自分の席につく。


そして、本を読むふりをしながら改めてクラスを見渡すと見えてくるものがあった。


いつも飯塚さんが入っているグループの人達もそうだがクラスメイト全員が飯塚さんを避けている?


皆がみんな飯塚さんを空気のように扱っているのだ。


飯塚さんはいつも自分が見ると誰かと喋っている記憶がある。しかし、今は誰も飯塚さんに喋りかけていない。


俺の頭の中は疑問だらけだった。



そんな中、俺の前に1人の男が現れた。


「お前、災難だったな」


その男は光だった。


「災難?」


突然の光の言葉の意味が分からず聞き返す俺。


光は、は?みたいな顔をしながら俺の言葉に返す。


「いやいや、お前昨日飯塚さんに嘘告されたんだろ?」


なぜ光はその事を知っているのか。


さらに光は結構大きな声で言ったためクラスメイトがチラチラと見てくる。しかし、クラスメイトに驚いた様子はなかった。


「え、なんでその事知ってるんだ?」


「メールでクラスのグループに加藤さんがその時の動画送ってたからな」


「クラスグルに?」


「ああ」


クラスグルに嘘告された時の動画があるのか?


俺は、昨日の夜からクラスグルを見ていなかったためそんなことがあったことを知らない。ポケットからスマホを出しクラスグルを開く。


そこには光が言っていた通り1つの動画があった。


1分ほどの動画だったのでイヤホンを刺し動画を開いて内容を確認する。



『え、えっと前から滝原くんのこと好きでした!付き合ってください!』


『いや、その前に聞きたいんだけど嘘告でしょ?』


『え、あ、それは』


『俺、実は昨日の放課後の会話聞いてたんだよね』


『え、ご、ごめんなさい!』


『は?ごめん?なに謝ってんの?いい子ちゃん気取りですか?俺はね、飯塚さんのこといいなって思ってたんだよ。けど、嘘告するなんて·····俺そういう人嫌いだから、ごめんね。俺にこれから一切関わらないでくれるかな?いい子ちゃんだから約束守れるよね?』


『え、あ、あの、その、ご、ごめんなさい!ごめんなさい·····ごめんなさい·····だから関わらないでとか言わないで·····』



内容は予測した通り、俺が嘘告されている動画だった。


見終わりイヤホンを耳から取ると光が口を開く。


「お前の言い方は酷いけど飯塚さんの方が断然悪いよな」


「え、あ、ああ、そうだよな」


「ま、人生いろいろあるしな!気にするな!」


俺の肩を叩くと彼は自分の席の方へ帰ってしまう。


いや、お前俺と同じ年齢なのになんで人生語ってんだよ!


そうつっこみたかったが今はそれどころじゃなかった。


なんでそんな動画を加藤さんが?


加藤さんはいつも本を読んでいてクラスの隅っこにいるような女子だ。この動画を送ったということはあの時近くで見ていたということ。


しかし、それを動画で撮ってクラスグルに送るか?加藤さんはそんな目立つようなことはしなさそうなのだが


俺は、加藤さんを見ながら考えていた。しかし、一向になぜそんなことをしたのかが分からない。




てか、なんで俺そんなこと気にしてんだ?



ふと思う。


飯塚さんの自業自得だよな。嘘告なんて最悪な行為するからこうなるんだ。これでいいじゃないか。


そうだ、俺は飯塚さんに関わらない。飯塚さんがどうなろうとも知ったこっちゃない。


全て、嘘告なんてことした罰だ。


俺は、加藤さんから飯塚さんに視線をうつす。飯塚さんの顔からはいつもみんなに振りまいている笑顔が消え失せていた。




あいつの学校人生は終わったな·····報いだ·····そう、報い·····。



·····これでいいんだよな俺。




窓を見ると一昨日花壇であんなに空に向かって咲き誇っていたコスモスが雨のせいで下を向いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る