第3話
これは私、飯塚 夜空の昔の話である。
それは私が中学生だった頃の話。
──────────
「おはよ!」
「お、夜空、おは!」
「やっほ!夜空」
教室に入ると中学校になってから友達になった夏鈴と愛花がいた。
なにやら雑誌のようなものを広げている。
「何してるの?」
疑問に思ったことを口にすると夏鈴が雑誌をこっちに持ってきて言う。
「このアクセ可愛くない?だから今度愛花と買いに行こっかって話してたんだよね〜」
どうやらその雑誌はファッション雑誌のようだった。
私は、あまりそういうものを見た事がなかったので夏鈴達の持っていたファッション雑誌に目が釘付けになっていた。
ファッション雑誌の中は、綺麗な女性が白いワンピースを着て帽子を被っている写真やさっき夏鈴が言っていたアクセサリーなどが載っており貧乏な私にとってはとてもキラキラしたようなものに見えた。
女性は、もともと綺麗だったが白いワンピースやリボンがついた帽子のおかげで女性の綺麗さがより際立ってる。
やはり、服を変えたりアクセサリーを身につけたりすると女性がより可愛くなったり綺麗になるのはホントなんだなと思った。
「あ、そうだ!夜空もいこーよ!ね、愛花!」
「うん!夜空もオシャレしたらもっと可愛くなるよ〜!」
2人は、アクセサリーや服を買うのに私も連れていってくれると言う。
しかし、
「あ、ごめん。ちょっと用事があって·····」
「あ〜また用事か〜もしかして·····」
「彼氏でもできた〜?」
「いや、そんなわけないじゃん!それよりも2人はどうなの?」
「え?それ聞いちゃう?実は私·····彼氏できました!」
「え〜まじ〜〜?私も一応できたけどね!」
「え?夏鈴誰なの?相手」
「いや、そっちこそ愛花の相手は誰よ」
2人は、私を忘れたように彼氏の話をし始めた。私はひっそりと身を引く。
そう。私の家は貧乏。服やアクセサリーなどに使うお金がないのだ。
私がまだ幼稚園に通っていた頃、お父さんは勤務先の会社に車で行く途中交通事故にあった。なので、今はお母さんと中学生の私、小学生の妹の3人家族だ。
お母さんは私と妹2人のために毎日夜遅くまで働いてくれている。
わがままを言ったらお母さんが苦しんでしまう。それは嫌だ。
しかし、私も年頃の女子だ。みんなみたいにオシャレをしたい。みんなみたいに可愛くなって彼氏を作りたい。
そんな悩みを抱えながら私は公園のブランコで1人、たそがれていた。
そんな時、私の前に1人の男の子が現れた。
隣の学校の制服を着ていてとてもかっこいい顔つきをしていた。
「もう夜だから危ないよ?」
私は、女子だ。こんな夜にブランコで1人。不審者などに襲われないように気をつけてと言ってくれているのだろう。
「え、はい、もう帰ります。ありがとうございます」
私は、1人になりたい気分だったのでさっさと帰ろうとした。
しかし、その男の子は、
「ちょっと話を聞いてくれると嬉しいんだけど·····」
そう言い私の右腕を掴んだ。
「え?あ、はい。わかったので右腕痛いので離してください」
彼は、なぜだか掴む手に力がこもっていた。
「あ、ごめん」
彼は、苦笑いをしながらも頬をかき、さっき私が座っていたブランコの隣のブランコに座る。私もさっき座っていたブランコに座った。
「あの話って·····」
周りがもう暗くなっていたので少し怖かったのか早めに話を終わらせたかった。
「あ、ごめん。話なんだけど俺今日付き合っていた人に裏切られたんだ。それでムカついていて──」
どうやら彼の話によると付き合っていた彼女は嘘で付き合っていてそれが今日分かってイラついているらしい。
彼はその話をしてなにを私に求めているのか。しかし、彼は、
「話を聞いてもらえてスッキリした。ありがとう」
話を聞くだけで良かったらしい。
「じゃあ、もう真っ暗だしさようなら」
彼は、そう言い去っていった··········はずだった。
「ん?」
私はその彼を引き止めていた。なぜだろう?自分でもあまり分からない。しかし、1つだけ分かることがあった。
私と似たような歳の子で私以外悩みなんかないと思っていた。しかし、今さっき彼から悩みを聞いたことで私じゃなくても悩んでることがあるんだと思ったのだろう。
「あ、あの·····私の悩みも聞いてくれませんか?」
彼は、少し戸惑っていた。さっきまで素っ気ない態度だった人がいきなり自分の悩みを聞いてくれなんて驚くに決まっている。
しかし、彼はすぐに頷き、またブランコに座り直してくれた。
「悩みってなに?」
彼は優しい口調で聞いてきた。
「私の悩みそれは──」
私の家が貧乏な事。友達がオシャレをして楽しんでいるのに私はそれが出来ない事。彼氏を作ってみたい事。様々な事を彼に話した。
自分の中で悩みを溜め込んでいたせいか話をしていくうちにどんどんスッキリしていった。さっきの彼も同じ感じだったのだろう。
全て話が終わると彼は少しなにか考えていた。
「あの、なにかおかしなとこありました?」
彼があまりにも考えている時間が長かったのでなにかあったのか不安になった。すると、彼は真剣な表情で言った。
「別に君はそんなオシャレしなくてもいいと思うよ?」
「え?」
私は意味が分からなかった。オシャレがしたいと言っているのに彼はオシャレをしなくてもいいと真剣な面持ちで言っている。
「いや、だからもうオシャレしなくてもいいぐらいもう可愛いんだからそんな無理してオシャレしなくてもいいと思う」
その彼の言葉を聞いた瞬間私の中で何かがほどけたように感じた。
「え、可愛いって·····」
私は男子に初めて可愛いと言われたのでとても恥ずかしく顔がりんごのように赤くなっているだろう。
「ああ、可愛いんだからもっと自信持ちなよ。彼氏なんて君ならすぐできるよ」
ああ、そうか。私は周りと無理に合わせようとしてたんだ。もちろん自分では可愛いとは思わないがこれからは周りは周りと割り切って過ごそう、そう思った。
「もし、どうしてもオシャレしたいんなら高校でアルバイトでもして自分のお金で服やアクセサリーを買えばいいんだよ」
彼は私の悩みに真剣に答えてくれていた。
彼に悩みを打ち明けたことにより私は救われた。
そんな彼に私は·····惚れていたのだろう。
一応帰り道彼の名前を聞いた。
「滝原 和人くん·····か〜」
「また会えるといいな」
私は、また彼と会える様に祈った。
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