第2話 嘘告

翌日。


当然俺はいつも以上に寝不足だ。昨日徹夜したがそれは楽しいゲームをしていたので寝不足でもまだ元気だった。


しかし、昨日俺にはすごい苦痛が俺を襲っていた。その苦痛。当然昔のトラウマだ。


あの光景。あの言葉。憎きあいつ。


全て寝る前に忘れようとしていたものを思い出してしまった。俺はそれを必死に忘れようと思い寝ようとしたが眠れなった。


苦痛に耐えながら夜を過ごしたのだ。


よって昨日の寝不足より今日の寝不足の方が断然酷いわけだった。


俺は、朝になると食パンをトースターに入れ、焼かれるのを待つ。その間にヨーグルトに砂糖を入れる。


いちごジャムが塗られたトーストとヨーグルト。これがいつもの朝食だ。とても簡単でなおかつ美味しい。この時間は俺にとってのゲームの次に幸せな時間である。我ながら他に幸せは無いのかと思うが。


しかし、そんな幸せな時間も今日はなにも感じず淡々と終わった。


そして、俺は


「いつも通りに!」


と自分に喝を入れ一人暮らしをしている家を出た。






学校の下駄箱。


俺は、何気ないこの箱に今は恐怖していた。おそるおそる開けると


「あっ」


案の定手紙がポロッと下に落ちた。


俺は、この手紙を拾いたくもなかった。心もこもらず、人を弄ぶだけに作られた手紙。そんな手紙を触りたくもない。


しかし、クラスの人に勘違いされても嫌なので仕方なく拾い制服の中のポケットに入れておいた。


教室に入るといつも朝早く来ている光が駆け寄ってきた。駆け寄り方がひよこみたいだったので少し笑ってしまった。


「なに、笑ってんだよ、きもちわる」


「いや、お前の駆け寄り方が可愛い感じのやつだったんだよ」


「俺ってもしかして·····かわいい?」


「ない」


なにか別のものに光が目覚めそうになっていたのでキッパリと止めておいた。これ以上やばいレッテルを貼られたら俺が共感性羞恥を感じてしまう。


そして、俺は席につきラノベを読みながらホームルームが始まるのを待つ。ホームルームが終わるとさっきの手紙を開けようか迷ったが授業中開けることにした。当然、休み中だと手紙の存在がバレそうだからだ。


1時間目が始まり少し時間が経った後俺は胸ポケットの手紙を先生や周りのヤツらにバレないように机の下に持っていった。


周りの反応を見ながらおそるおそる封を開け中身を見る。



────


─────────────────────────────


滝原くんへ


今日の放課後体育館裏で待ってます。


飯塚 夜空


─────────────────────────────


────



やはり、こういう内容か。


俺は、分かっていたので驚きもせず手紙を握りしめズボンのポケットに乱雑に入れた。






そして、今日の授業が全て終わり体育館裏へむかう。俺は正直行きたくなかったが帰っても怒りが込み上げるだけなので行くことにした。しっかりこういうことはケジメをつけなきゃいけない。


昼休みのときや午後のホームルームが終わった後など昨日の放課後に残っていたヤツらが俺の方を見てニヤニヤしていたが俺は無視を続けていた。


どうせ体育館裏の近くでこそこそと飯塚からの告白で俺の喜ぶ姿を見て笑おうとしているのだろう。


ようやく体育館裏に着くとソワソワしている飯塚さんの姿が見えた。


どうせ、あれも演技だろう。


とても腹立たしい。


俺は、込み上げる怒りを必死に抑え込み飯塚さんの前に立った。


「なにかな?」


俺はあくまで知らない風に言った。二度とあんな思いはしたくないので普通に嘘告でしょ?と聞かずにフるつもりだ。


「あ、あの来てくれてありがとう」


「うん。で、なにかな?」


あームカつく。


「え、えっと前から滝原くんのこと好きでした!付き合ってください!」


プチッ。


俺は、なにも知らない風に断るつもりだった。しかし、俺の頭の中でなにかが切れた気がした。


「いや、その前に聞きたいんだけど嘘告でしょ?」


俺は、言わないはずの言葉を言ってしまう。


「え、あ、それは」


「俺、実は昨日の放課後の会話聞いてたんだよね」


「え、ご、ごめんなさい!」


飯塚さんはなぜだか知らないが謝ってきた。しかし、俺はとてもムカついていたせいか言葉が止まらなかった。


「は?ごめん?なに謝ってんの?いい子ちゃん気取りですか?俺はね、飯塚さんのこといいなって思ってたんだよ。けど、嘘告するなんて·····俺そういう人嫌いだから、ごめんね。俺にこれから一切関わらないでくれるかな?いい子ちゃんだから約束守れるよね?」


「え、あ、あの、その、ご、ごめんなさい!ごめんなさい·····ごめんなさい·····だから関わらないでとか言わないで·····」


飯塚さんは、俺の怒りを込めた言葉に怯え泣き出してしまった。しかし、ごめんなさいで俺の怒りは収まらなかった。


「は?また謝るとか·····それで許すわけないでしょ。関わらないでとか言わないでって身勝手すぎるわ。俺の前に現れるな!」


俺は、ポケットに入っていた手紙を握りつぶしその場に捨て去った。





帰り道。俺は、後悔していた。


「あー、俺なんであんなこと言ったんだ?怒りで我を忘れてたんだよな。けど女の子泣かすほど怒るって·····」


俺は、反省しながらも行動自体は間違っていなかったと思っていた。


飯塚さんは俺の過去を知らないが俺にとって嘘告とはこの世界の中で1番嫌いなものだ。


飯塚さんはそれを俺にやった。飯塚さんは嘘告にあんま乗り気じゃなかったけど「そうしよう!」って言ってやった事は事実だ。


俺は、飯塚さんに関わらないようにしよう。

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