空き家の税金対策
穏やかな陽射しがそそぐ大都会の高層マンションで男は一人で暮らしていた。
「近年急増している空き家の対策として、国は空き家にかかる税を上げることを決めました。これは空き家の有効活用を促すのを目的としたもので、別荘として所有している不動産にも…」
女性アナウンサーが原稿を無表情のまま読み上げる前にテレビの電源をきった。
「まったく、また税金の話か。もううんざりだ」
男は金持ちだった。株の取引で成功して収入はたくさんあったが、税金もたくさん納めていた。
それでもまだ払わないといけないことが癪に障るのだ。
道路に面した大きな窓から下を見る。
ありのように小さく見える人々がせっせと歩いていた。
「人とは飽きもせずせかせか働けるものだな。なるほど、こうして上から見てみると立ち止まっている人もいるのがよく分かる。いや、止まっている方が人間味があるものだ」
ソファに腰かけてため息をつく。
税金が上がるくらいでせっかく建てた別荘を手放すのは惜しい。
では、どうすればいいか。
店屋物を食べて高級な酒を呷りながら考え込んだ。
「しかし、出前で来たいつもの奴、今日はやけに無愛想だったな。まるで作り物のようにかたくて…。そうだ!こうしよう!」
思いついた男は早速ほうぼうに電話を掛けた。
大都会となれば役所も高層の建物になり、税金を取り立てる部署は男の部屋より少し低い所にあった。
時刻は夕暮れ。
「こんばんは。幾つか所有されている別荘の税金についてですが」
スーツを着た若い役人の男は高層マンションに暮らす金持ちに電話を掛けていた。
「ええ、息子さん夫婦が暮らしていらっしゃるのは存じております。恐縮ですが息子さん夫婦のでがすね、一日中話し声がうるさいと苦情が寄せられてまして」
「はい。では、ご家族の方によろしくお願いします」
電話をきった男は叫んだ。
「あっの税金逃れくそ爺ぃ!一日中話し声がうるさいって言うと言葉に詰まってましたよ!こっちだって調べているに決まってんのにさぁ!そら空き家に置かれたマネキン人形には肝を潰したけどこっちが潰し返してやりましたよ!いやっ!課長の話し声のアイデア最高でした!喋るはずないマネキン人形が!笑っちゃいますよ!んじゃ、自分先に失礼しますね!課長もたまには早く帰った方がいいっすよ!毎日この部署で一番早く来て遅く帰っているじゃないっすか!役人の鑑っすね!」
じゃっ、お先!と挨拶された課長と呼ばれたマネキンは夕闇の中で微笑んでいた。
「まだマネキン人形を認識できる人間が残っていたのか。残念だがマネキンと認識できない若い彼も症状が進んでいるな」
防護服を着て酸素ボンベを背負った役人は、事のあらましを書き留めた書類を手にして役所を後
にした。
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