真っ赤なデマ

「いや、今日も疲れたな」

仕事を終えた男がため息まじりに呟いた。

机に向かい、パソコンの電源を入れて、インターネットに接続する。

務めている病院について検索をかける。

暫くSNSの画面をスクロールして、深いため息をついた。

「全く、毎日毎日ひどい見当違いな書き込みばかりで嫌になる。入院している患者さん達も健康に気を付けて欲しいものだ」

眉間にしわを寄せて、再びため息をついた。

 心無い言葉がインターネットを飛び交う時代。

加えて、事実無根のデマや誹謗中傷。

発信者を起訴する手続きが簡略化されて、罰則を重くしても絶えない、まさに不治の病。

 判決を受けた患者たち。

支給されたパソコンで一日中、書き込みを続けている。

「人殺し!通報してくれ!」

「助けて下さい!殺されます!」

「本当です!」

キーボードを叩く音が一日中響いている。 

男は心底うんざりした。

どうして書き込みを止められないのか。

「先生、203号室の患者さんの容態が急変しました!」

あぁ、やっぱりか。

警告したのに、許容量を超えた文字数を毎日打ち込んだせいだ。

 血の気を失った蒼白い手を伸ばし、最期の時まで書き込む患者を、スタッフ一同は病院であり刑務所でもある施設の規則によって、見守ることしかできない。

 腕に刺さった針は、ベットの下の採血箱に繋がっている。

一文字入力する度に一滴の血が抜かれる。

一日の造血量は二十五ミリリットル。短時間の失血による致死量は千六百ミリリットル。

以上の数値を踏まえて書き込めば、死なずに賠償金を血液で賄って出所できるが、未だにひとりも出所者はいない。

「死んでしまうこいつらは人殺し」

患者が残した最後の書き込みを見て、男は深くため息をついた。

「人殺しなんてとんでもない嘘を。我々はあくまでも社会復帰を考えて治療を施しているだけなのに」

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