娘の友達

美八子みやこはリビングのテーブルで頬杖をついて溜息を漏らした。

リフォーム業者が残していった見積もり書にかかれた金額が想定よりずっと高く、思わぬ出費になりそうで。

 美八子が購入したのは新中古のマンション。

娘がお腹の中にいる時から夫と共に不動産を回りインターネットで検索して見つけた物件。

南向きで築浅。部屋も広くとられ周りに今年から娘が通う小学校を始めとして、病院に銀行やスーパーマーケットが徒歩圏内の好立地。

 なにより安かった。

不動産屋の担当者に理由は所謂いわゆる事故物件かと問い詰めた。

「そんなんじゃありませんよ。この物件、不思議と今まで買い手がつかなくてこちらとしても泣く泣く値を下げてこの価格なんですよ」

結局、担当者の娘が産まれてからの利便性を語るマシンガントークと産まれるまでに買うと設けていた目標が決定打になった。

 隙間風が背中を障る。

入居した当初からだ。夫は何も感じないと取り合わない。

美八子は気弱な夫のことだから不動産屋を問い質すような真似をしたくないのだと邪推している。

隙間風なんて吹いてないとすっとぼけていると。

 ただの検査にここまで掛かるかと美八子はまたため息をつくと娘のさつきが帰ってきた。

「ママただいまー」

玄関から一直線に美八子の元へ。

「ママみてー!いっぱいおともだちかいたの!」

皐がランドセルから取り出したキャンパスノートには1人につき1ページの似顔絵がページをいっぱいに使って書かれている。

 眼鏡を掛けた子にツインテールの子。坊主頭の男の子やら。

特徴が強調されて分かりやすい。

「さっちゃんは絵が上手ね。将来は絵を書くお仕事をする才能があるわ」

突出としゅつして上手くもないのにべた褒めする様子は傍から見れば完全に親バカだ。

それ程に美八子はひとり娘の皐を溺愛している。

ぺらぺらと1枚ずつ絵を褒めながら捲っていく。

「この子達は皆、さっちゃんのお友達なの?」

「うん!みんなだいすき!」

皐の笑顔に美八子の隙間風の憂鬱が溶けていく。

やっぱりこの子を愛してる。この子の為にもここで暮らし続けようと。

 ページを捲ると似顔絵を指さして友達の名前を教えてくれる。

 1枚だけ真っ白なページが出てきた。

前のページには描かれているのに。次のページにも描かれているのに。

 つまり……これが似顔絵だと?

「ねぇ、さっちゃん。この子のページだけどうして何も描いてないの?」

「すっちゃんだよ!」

美八子の心に疑問が湧き出た。

何も描かれていないのが似顔絵?もしかしてすっちゃんと呼ばれる子は、学校で居ない者として虐められているのか?

「どうして空白なの?」

「すっちゃんってすごいの!かおじゅうがページみたいにすきまだらけなの!」

「ねっ!すっちゃん!」

皐が笑顔を向けた先。

美八子は首筋に隙間風を感じた。




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