ポスター

他の心霊系ユーチューバーと一線を画したくて、実際に事故物件に住んで顔出し配信を続けている。

それでも上位に君臨する方達に追いつけずに焦りばかりが募る。

 今日も閲覧数が二桁いくかいかないかの過疎配信を終えた。

「ここって本当に事故物件なのか……?確かに家賃は安い……」

パソコンを置いてる机。

振り向けば壁に大きなシミがある。

この部屋で何かあったかは知らないが、事故物件の痕跡は壁のシミしかない。

背後に映るように配信をすれば何か起きると期待したが、空振り続き。

 よくよく考えてみれば、何が悲しくて怪しげなシミを見つめなければいけないのか。

急激に馬鹿らしくなった。

寂しい男の一人暮らしの部屋。

アイドルポスターを貼ってシミを隠そう。

少しは華やかになるだろ。


今日もまた過疎配信か……。

事故物件に暮らすだけの男の雑談をわざわざ聴きに来る物好きな人間は希少だ。

コメントを読み上げる音声ソフトはいつ仕事をするのか。

同時視聴者は一桁前半。配信内容も残すは別れの挨拶だけ。

「それでは今晩もお付き合いありがとうございました!」

ライブを停止する寸前だった。

「後ろ!!ポスターが!」

ソフトがコメントを読み上げた。

慌てて振り向くも、背後にあるのは笑みを浮かべるアイドルのポスター。

「えっ!?いつも通りのポスターですよ」

「確かに瞬きしました!」

「いやそんな訳ありませんよ。では、改めて今晩もお付き合いありがとうございました!」

挨拶の間も「瞬き!」「ポスター!」のコメントは続いた。

無理矢理に配信を切り上げた理由は、早く録画の検証をしたいから。

 コメントが来た部分を見ると、確かにポスターが瞬きしたように見える。

ただ、光の加減と言われてしまえばその程度のもの。

「明日、もう一回配信してみるか」

寝る前にSNSでエゴサーチしてみた。

何人か今日の配信を話題にあげていた。


配信は始めから盛り上がりを見せていた。

冒頭で瞬きを確認した事と事故物件の謂れを知らない事を話せば、コメントが一気に盛り上がった。

「初めまして!」

「今日も瞬き?」

「放送事故はよ!」

コメントに一言ずつ返して雑談。

終わり間際、またコメントが盛り上がった。

「ポスター!」

「口が動いた!」

「首かしげたよ!」

「主さんを見てる!!」

僕はまた無理矢理ライブを切り上げた。

また録画を検証して現象を確認した。

今度は疑いようのない怪奇現象。

照明器具を増やして、ポスターに影が出来ない細工をした。

エゴサーチし今日の盛り上がりを見て雄叫びをあげた。

「ありがとうございます!この部屋のおかげで僕も有名人です!ほんと愛しています!」


配信は毎日続け、終わり際のコメントは度に盛り上がり怪奇現象も鮮明になっていた。

「手をふった!」

「笑った!!」

SNSも更に盛り上がって僕は満足した。


配信そして終わり間際。

充分に知名度を上げた僕は、突として宣言した。

「チャンネル登録四桁突破記念!このポスターをどなたか1名の方に差し上げます!」

コメントはヒートアップ。

「下さい!」

「マジっすか!?」

「ポスター剥がすの!?」

「私!私をお願いします!」

「こっち見て見て!」

ポスターを留める上辺の角ふたつの画鋲を抜く。

「ポスダー…!」

「いよい……」

「私……!を」

「ボ……は……み……」

音声にノイズが混じる。

パソコンのモニター画面が歪んで毒々しい原色が混じる。

ポスターをゆっくりゆっくり剥がしていく。

「ぽすたーはがしてわたしをみて」











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