第11話


 太陽が頂上を越えて少しだけ傾き始める、そのくらいの時間が経っただろうか。


 草原の中の一本の大きな切り株を中心とした無地の地面――ここに住む子供達のお決まりの集合場所らしいそこに、カイルも混ぜてもらっていた。

 切り株の大きさは大人数人が手を回しても足りないぐらいで、さらにその高さも中ほどから伐り倒されている為に、そこいらの木々よりも遥かに背丈がある。


 驚いた事に、ここにはハウリザードの子供までも居た。

 捕まえられてここに居るのではない。その小さな魔物は今、切り株の根っこの間で身を丸くして寝息を立てているのだ。 

 その様子を興味津々しんしんといった表情で眺める子供たち。


 その微かに上下する背中を撫でてみたい衝動にうずうずしているらしいが、起こしてはいけないとみな一心に我慢しているようだ。

 半分寝そべるように巨大な切り株にもたれ掛かっては、微笑ましく映るその光景を横から眺めて和んでいるカイル。

 その子供達の視線の先を独占している幼い魔物は、これだけの人間に囲まれているの事に何ら関わり合いないかのよう、まるで警戒せず暢気のんきに眠り続けていた。


 人間に懐く魔物――


 もともとハウリザードという種類の魔物の性質がそれほど凶悪なものではなく、また未熟で幼いという要因も絡んではいるのだろう。

 それでも、そのような話はこれまで酔っ払いの与太話か見栄切りの伊達話でしか聞いたことがなかった。

 世の中には魔物を魔術で支配し意のままに操る怪しげな術者がいるとの噂だが、カイルが初めて目にしたこの光景はごく自然の内で起こった出来事なのである。


 人と魔物の共存するという事。

 もしかしたら、どこか知らないの場所でも、今このような光景が広がっているのかもしれない。

 そんな風にカイルは感じた。



「魔物ってさあ、あれだろ? でっかい角生やした牛のバケモノみたいなやつだろ?

 俺、ちっちゃい頃みたことあるぜ」


 子供らの一人があまりに動きのないハウリザードを見飽きて、そんな言葉を口にした。

 先程カイルが、眠ってるハウリザードを横目に簡単に説明した魔物という存在の概念を自分達なりに整理しているといった所だろう。

 その派生から思わず口に出してしまった様だ。


 驚いた事に彼らの世代は、魔物と呼ばれる存在を身近には知らない様だ。


「あぁ、ブルズグラント――〈牛頭〉と呼ばれる魔物の事だな。昔はこの辺り一帯が奴らの生息圏だったんだな。そうか、だから平らな地面が続いているのか」


 その問いに親切丁寧に返事をするカイル。

 カイルの魔物に関する知識は並大抵ではなく、その造詣ぞうけいはそこいらの者とは比ぶるべくもない。


 殺す為に蓄え続けた知識。

 けれども、今この瞬間では、まるで学校の先生のような気分で子供らに解説していた。


「俺の父ちゃんもこの前話してくれたぞ。山ん中で岩だと思って腰掛けてたら、したらそれがいきなり動き出したって。そんでよく見てみたら、岩みたいな肌したでっけぇ巨人だったって」

「そいつはロックトロールだな。通称〈岩喰い男〉。ホントかどうか、あんまりにも特定の場所から動かないんで、岩でも食って生きてるんじゃないかって話だ」


「僕のお父さんも言ってたよ。昔の行商で登った山の頂上で、火を吐く大きな鳥みたいなのに襲われたんだって。それで怖くなって行商やめたんだってさ」

「火を吐く大きな鳥ねぇ……山脈の頂上ってことは〈怪死鳥〉ポルクトスかな。いや、もしかしたら〈飛竜〉スカイドラゴンだったかもしれないけど。どっちにしてもよく生きて戻れたなぁ」


「あのね、死んじゃったおばあちゃんがね、森の奥に行く時はキノコのお化けに気をつけなさいって言ってたの。それも魔物?」

「ああ、キーラゴーラかマタンゴの事だろう。どっちも〈人喰い茸〉って呼ばれてるな。明確な分類はあったっけか……? まあ、もし見かけても近づいちゃダメだぞ。あいつら寄生した木の根元から動けないもんでじっと獲物が来るのを待ってるんだ」


「ねぇねぇ? お母さんがこの前、夜中に大きな虎をみたって言って怖がってたの。魔物と普通の獣って何が違うの?」

「んんー、学説的には明確な分類があるんだけど……説明がメンドくさいや。そうだな、つまり人に危害を加えるのが魔物で、無害に近いのが獣って事でも良いんじゃないかな」


 確かに魔物と呼ばれる存在とただの獣の類には明確な区分けができる要因が在る。 それは魔物という生物の体内には先天的に特別な細胞が存在し、この特殊な体内物質は人間や獣には存在しない。

 ちなみにその事柄と魔術と呼ばれる代物とが、深く関わり合っているという事は近年話題に上がって止まない。

 しかし未だに詳細な部分でははっきりせず、確証足り得るものではなかった。


 カイルはそれらのことを上手く子供らに説明できそうもなかったので、言葉を濁すかのようにそんないい加減な説明していたのだ。

 その気の抜けた体勢からも分かるが、今カイルは至極のほほんと緩んでおり、あまり面倒なことはしたくないといった具合なのだ。


「なあなあ、そんじゃあさ、人を襲う虎や狼も『魔物』ってことになるのか?」

「うぅーん……そう言われると……」


「そんならさ、魔物と獣ってどっちが強いの? もしさ、さっき言ってたブルグラントって牛のバケモンと虎が戦ったらどっちが勝つの?」

「バカお前、牛のバケモンはすっげーデカイんだぞ! そんなの決まってるだろ!」

「でも牛だろ? 虎は牛を喰っちまうんだぜ?」

「どっちでもいいじゃないそんなの。どっちもおっかないんだからぁ」

「そうかあ? だって虎はサーカスで人間の言うことに従ってるぜ? ペットにしてるって人もいるっていうし」

「だから言ってるだろ、人間に飼われるぐらいの虎なんて相手じゃないって」


「あー、そのー……魔物も獣も個体の強さにそれぞれバラつきが有るから、一概に強い弱いとは測れないんじゃないかなー。そうじゃなく、人間が呼称する場合の定義として害を成すかどうかという事を……」

「じゃあ、この子は人間に悪さなんかしないから魔物じゃないんだね!」

「いや、そぉれも何か違う気が……」


 一番年の低いであろう女の子が嬉しそうに木陰で眠るハウリザードを指しながら言った。

 それを皮切りにどんどんカイルの出鱈目でたらめな論証が崩れていく。


「にしても兄ちゃん、頭悪そうな顔してるのに物知りだなあ!」

「なにおう! この俺のどこが頭悪そうだとぬかすかっ?! そもそも俺のこのあふれんばかりの知性と感性を感じられないっていう時点でだな――」

「なあ、その腰に提げてる剣ってホンモノかよ? ちょっと触らせて」

「――って、人の話を聞けーい! そして勝手に剣を抜こうとするんじゃなーい!

 これは危ないの! 真剣なの! オモチャじゃないのーっ!!」

「いいじゃんケチーっ! 減るもんじゃないだろ!?」

「スゴイ綺麗な装飾がしてある! ねえ、わたしにも見せて見せてー!」

「ホントだ、柄のトコになんか彫ってあるぞ。なんだこれ? ヘビか何か?」

「ぬっはっは! よくぞ気がついたぁ! それはルバルディアの聖王伝説に登場する聖龍マギナ・リシスの刻印なのだ! そして何を隠そう、この刻印をされた剣を持つ俺こそが! 紛う方なき、元ルバルディア軍第1突撃騎馬軍団所属第7特務騎兵中隊副隊ちょ――」

「――ああっ! こいつ目覚ましやがったぞ!」

「ほんとだ! 私が抱っこするー」

「あ、ずるいぞ! はじめに気が付いたのは俺なのにぃー!!」

「……キミタチ、聞かなくても良いからせめて最後まで言わせてね」


 体を伸ばすように大きな欠伸あくびをして起きだした魔物の子供。


 表情を持つわけでもないのに、どこか不機嫌そうなその仕草だ。その理由は勿論、同じ精神レベルになって騒いでいたカイルと子供たちによる物だろう。

 そんな無言の抗議にもまるで悪気を感じていない子供らは、動き出したその魔物を我先にと群がって抱き上げようとしている。

 そんな大人気を博するその魔物は、意外にも大人しくされるがままになっていた。


 その光景を見る限りは、カイルの抱いた理想も遠すぎるという事はないだろう。

 自分が信じたこととは言え、確信も確証も持てずに不安がった事は何度もある。


 そんな日々の内で今のような光景に出会えたこと――

 そのことにカイルは、無言で子供達と一匹の魔物に感謝の言葉を捧げるのだった。



「おにーちゃん、どうしたの?」


 静かにすっと立ち上がったカイルの様子に、何かを感じた一人が首を傾げてその目を揺らめかせた。

 子供のその繊細で敏感な心が、カイルの内の決意を――その微かとはいえ、確かな変化を読み取ったかのようだ。


 そしてカイルは口にする事に決めた。

 自分の描いたその先を見届ける、そんな旅を再開するべく。


「さてと、そろそろ俺は行くことにするよ」


 誰か特定に対する発言ではなく、目前に集まる子供ら全員に向けてそう発していた。

 その何処までも明るい調子の声に、瞬間何を言ってるの分からず、ポカンとした様子でカイルを振り仰ぐ子供たち。


 だが言葉の意味をようやく理解し始めたと思うと、途端にその顔に不満の色を付け加えて膨れさせるのだった。


「えーーーっ!? なんだよそれ、まだぜんぜっん日は落ちてないだろ! 時間十分にあるじゃねぇかよー?!」

「ていうか、うちに泊まってけよ兄ちゃん。母ちゃんに頼んでやっからさ」


 突然の別れを告げようとするカイルに、子供たちはみな不満気にその顔を曇らせて引き留めの声を上げる。

 どうやら人気を集めていたのは、その幼い魔物だけでは無かったようだ。


「いや、日が暮れる前に西の森を抜けておこうと思ってね。それにだ、旅に別れは付き物って言う言葉がある。お前ら、まあそんな顔でにらむなよ」


 その子供達の反感にカイルは苦笑いを洩らす。

 しかしそれは取り留めて嫌そうではなく、どちらかと言えば嬉しそうなものだ。


「西の森に行くのかよ? なら余計にやめとけよ。今あの森には仕事の無くなった傭兵が盗賊の真似事して旅人襲ってるって、父ちゃんが言ってたぞ」


 抗議の声を上げる子供達の中で誰かがそんな事を言った。

 その話の内容に、何やら腑に落ちない顔をするカイル。


「傭兵崩れが盗賊もどきねぇ……。そりゃまあ、ようやく平和になろうとしてる時代だってのに困ったもんだ。――よし! そいじゃいっちょ、この正義の騎士カイル様がワルモノ傭兵どもをらしめてやるかね」

「えぇー? 兄ちゃんじゃへっぽこ過ぎて無理だろ。てーかさ、ルバルディアの騎士とか嘘っしょ?」

「なにおうきさまっ! おそれ多くも先代の公王ラドシア・ディル・カトスティア様より直々に与えたもうられたこの聖龍刻印の名剣が何よりの証拠! そう、俺こそが! 紛う方なき、元ルバルディア軍第1突撃騎馬軍団所属第7特務騎兵中隊副隊ちょ――」

「――そんなのいいから泊まってけよ!? なぁー?!」

「……あと一文字なんだから言わせろよ……」


 調子の良い声をあげるカイルの言葉を遮って、子供達は逃がしまいとその元へと群がる。

 唐突すぎる別れに対して、望むと無く不満の声が次々に上がっていた。


「それに兄ちゃん知らねぇかよ? いまここらへんにはヴェヘイルモットが来てんだぜ!」

「ヴェヘイルモット? ……ほーう。その噂、こんなところにまで届いてるのか」

「噂なんかじゃねぇよ。行商にくるキャラバンのおっさんが、ここから東の丘で野営してるときに飛び跳ねるようによぎった黒い影を見たって言ってたんだ」

「黒い影がよぎったって……なんというか、とんでもなくいい加減な話だなぁ」

「マジだっての! ヴェヘイルモットは野山を鳥のように飛び越えて進むんだぜ!」

「なんかもう、人間の原型を留めてないなヴェヘイルモットとやらは……。何にせよ、もしヴェヘイルモットが実在してるってんなら、握手の一つでもしてくるかねぇ」

「バッカだなぁ。兄ちゃんなんかじゃ、近づいただけで死んじまうぞ! ――なあ、だからさー、しばらくここに居とけよーってば!!」


 子供たちの不満げな声は止むことを知らず、今度はカイルを取り囲んでいる。まるで逃がしまいといった風に、旅立ちを告げた人間のその旅装束の裾を掴んで離さない。

 さしものカイルもそれだけの人数に掴み掛かられては、バランスを崩したように変な体勢で腰を歪めている。


「はいはいはーいっ! 背骨があらぬ方向に曲がりそうでーっす! 我が身の解放を要求しまーっす!!」

「いいじゃんかよー! 急ぐ旅でもないって、さっき自分で言ってたじゃん!」

「急ぐ理由もないけど、無闇に道草食ってるワケにもいかんのよ。なにせそこには……はるか遠来でただ俺を待ってる……一つの『愛』があるかもしれないからなっ!! ――って、痛い痛い! 髪の毛を引っ張らないで……!!」


 本当にカイルを封殺でもしようかのように、後ろに回った一人がその無造作に後ろで縛ってある長い金髪に取り付いた。

 その光景が示すまでもなく、カイルだって後ろ髪を引かれる思いだ。


 しかし、カイルの本質は気侭きままに吹かれる流浪雲。


 いずれ其処から去る事が判っている身で、あまり多くの時を共にするのは、その別れの悲しみを余計に大きくする。

 この場でそれを一番理解っているカイルだからこそ、必死に引き留めようとしてくれる子供らの思いを感じつつ、それを無下に放っているのだ。


 天分の人懐っこさと人好きの性格に後押しされ、今までの旅の途中もそうやって行く先々の人間に触れてきた。

 それでも、歩みを止めないカイルにとって別れは必然であり、そのけじめもしっかりと付けねばならない事を承知している。


「よし、わかった。お前らの言い分はわかった。だから今度は俺の言い分も聞きなさい。――いいな?」


 カイルは一呼吸置くようにしてから、騒ぎじゃれ付く子供らに向けて言い聞かす。

 それまでどこまでも瓢軽ひょうきんな雰囲気が離れなかったカイルの、その真剣な調子の混ざった声を聞いて、子供らはようやく静まり収まってくれた。


「俺は旅を続ける身だ。今までも色んな土地を見てきたし、これからも色んな土地に足を踏み入れるだろう。お前らが俺を引き留めてくれるのは嬉しいよ。でも俺はさ、満足するまで歩みを止める気はないんだ。だから一緒に居られないのは分かるな?」


 静かに、それでもやはり不満気にカイルを見つめる複数の幼い眼。

 その思いの端を感じながら、カイルは言葉を続ける。


「お前らはこの土地に居場所を持っているだろ? その場所で営みを続けているのがお前らで、俺はそこに立ち寄っただけ。だから出会いがあって、別れがあるんだ。俺たちは出会えた、でも一緒には行けない。もしお前らがどうしても一緒に居たいと言うんであれば、俺はお前らを連れて行くことは出来る。お前らがそう望むのであれば、連れてってやらない事もないさ」


 幼いその目線たちはしっかりとカイルの顔を見据えている。

 たとえ子供であったとしても、感じる心に違いはない。みな一様にカイルの話す内容を神妙に受け取っているのだ。


「でも、そうじゃないだろ? みんなには此処と言う居場所があって、家族と一緒にこの大地で育ってきた。もし仮に自分で考え悩んで出した結論なら、俺はそれを尊重する。だが、お前らはこの土地を――大事な父ちゃんや母ちゃんを残して旅立てやしないだろ? 

 人はさ、それぞれに世界を持ってて、それは個々によって違ったりまた重なったりもする。お前らと俺の世界は残念ながら重ねることはできないんだよ。けどな、お前らの持ってる世界は今のまんまで決まってるワケじゃない。これから先、どんなカタチにも変わってくのさ。その時には、もしかしたら俺の世界と重なり合う日が来るかもしれないな」


 いつの間にかカイルの表情は優しげな微笑に変わっていた。


 子供たちはまだその話の内容を全部理解できた訳では無さそうだが、それでもカイルの表情やその雰囲気から何が言いたいのかを感じ取ってる。

 ――そんな風に見える。


「つまりは、今生の別れじゃないってこった。また何所かで会うこともあるって話さ。お前らがこれから先、成長していく中で様々な形で出会えるかもしれないっていう――そういう事だよ。だからそんな哀しそうな顔するなよ? こーゆー時はだな、いつか巡り会えるその日を祝して、盛大に送り出してくれるのが粋ってもんさ」


 カイルの口調には、別れの悲しみなど感じさせない突き抜けた明るさが宿っている。

 そういう性格なのだと言えばそれまでだが、その気質は強くて真っ直ぐなものだ。


 人を信じれる人間は強い。弱いから人は他人を疑う。そう考えればカイルのこの能天気さも、何故かたくましく見えるのだった。



「にいちゃんは、それで寂しくないのかよ……?」


 しゅんとした表情の一人がおずおずといった様子で、そう問い掛けた。


「そうだな、そう訊かれれば……寂しくないわけじゃないと答えるかな。でも旅に出た事も、旅を続ける事も、全部俺が決めたことなんだ。だから、辛くはないよ。寂しいと感じるけど、でも辛くは感じない」


 カイルは力強く頷いてみせてから、胸を張って空を仰ぎみた。

 その先が終着点でもないが、めざすのはそこと同じぐらい遠く遥かな地点なのだろう。


「本当にまた会える……?」


 まだカイルの外套の裾を握っていた子――いち早く旅立ちの別れの予感を感じ取った一番年下であろう栗毛の女の子が、その大きな瞳を不安げに瞬かせ、カイルを見上げている。


「ああ、会えるとも。自分がそう望んだり、そう信じたりしていれば、何処かでばったり会えたりするものさ。人の繋がりって意外にもそんなもんだよ」


 その瞳に向かってどんと大きく胸を張って見せては、自信たっぷりの得意げな表情を塗り付けて返したカイル。

 その仕草はやっぱり、おどけた様でいてどこか真剣に見えるという不思議なものだった。


「それにだ、今日ここで出会えたのは何も俺だけじゃないだろ? もう一人友達になれた奴が、ほら、ここにも――」


 そう言ってカイルは手を伸ばす。

 いまやすっかり懐いて、子供らの内の一人の頭にさも当然のように乗っかっているもう一人の友達に向けて。


「――って、痛でででででっ!!」


 しかし、伸びてきたその手に思いっきり噛み付くもう一人の友達――の筈のハウリザードの子供。

 どうやら彼はまだカイルを友人とは認めてくれないらしかった。


「な、懐けよなぁ! お前!」


 あまりに良く出来たオチに、子供らはさっきまでの沈んだ様子をまるで感じさせないぐらいに明るく楽しげに笑い出した。

 その無邪気な声につられて、結局、カイルも同じような可笑しげな声を上げるのだった。



 秋空の草原には、相変わらずの穏やかな風だけが吹いているようだ。


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