第4話 アメ
ずっしりと重い疲労感。部活の疲れとは違う。
ここ最近はよく眠っていない。すべては二日後の文化祭のためだ。
文化祭の一週間前になると基本的に部活は活動休止だ。だからといって休めるわけではない。ここ最近は早朝からの振り付けの練習から授業、準備を夜10時までと通常の部活動よりよっぽどハードスケジュールだ。衣装班は明後日の当日に間に合わせるために徹夜も続出している。
凛子が今まで作業していた山車作りは最終段階に入り、後は細部の色塗りだけだ。なまじ体力と力があるせいで男手のような扱いで山車作りを手伝っていたが、ここまでくると人手は必要ないだろう。
学ランをもはやその意味をなしていないほど着崩した男子共に挨拶をしてからその場を離れ、少し休憩しようとすると、クラス発表の子につかまり、装飾の手伝いをさせられることになった。
床に使うパネルを作る工程は単純だが、だからこそ長時間続くとつらい。
元々身体を動かすほうが向いていると自覚している凛子は三十分で飽きてしまった。
「もう無理、ねーむーいー」
「まだ、ちょっとしか時間経ってないじゃん! 頑張ってよー」
友達のその言葉に少し、イラついた。
頑張るのはそっちだろう、と。
今まで何をしていたんだ。どう考えてもクラス発表のグループだけ進行が遅れているのだ。最初は中々人が集まらないから作業しないとか暇だから遊んでいるとか、あげく誰々君が仕事をしないだとか、誰々さんが予算の計算間違えたからこうなっただとかくだらない身内の揉め事ばかりで緊急話し合いばっかりしていたら、そりゃ作業は進まないだろうよ。一生懸命になるのはいいが、作業はしっかりと進めておけ。
イラつきから考えると瞬間的に沸騰した。
言ってやろうと思わず口を開いたところで頭の上にぼすと何かが乗る。
「凛子ちゃーん。頑張ってる?」
何かの持ち主の猫なで声がまたむかつく。幼馴染の恵介は頭の手を動かし、わしゃわしゃと乱暴に凛子の頭をなで始める。
「ちょっ何すんの、この馬鹿」
「はーい、リセット終了」
「大丈夫、凛子?」
友達は笑いながら、私の頭を見ながら言う。当然頭はぐしゃぐしゃだ。
「腹が減ってるから、イライラすんの。ほら、元気印のレモン味」
ぽとりと手に落とされたのは、鮮やかな黄色いアメ一つ。それ以上に何故だかその笑顔の方がはっきりと写ってしまって、凛子はほうけてしまった。
そんな凛子を知ってか知らずか、恵助は友達にもアメをあげて、元気印皆様のところに届けてきまーすと行ってしまった。
「橘君って凄いよねー。疲れてるはずなのに、そんなそぶりも見せないでさあ」
友達の言葉をなんとなしに聞きながら、凛子はいままで気づかなかったことに深く静かな衝撃のようなものを受けていた。
そうか、私、あいつのこと好きだったんだ。
気づいたからには、もうこのアメは食べられない。
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