第2話 ジュース
館内で打ち合う音や、気合の声や歓声はこんな晴れ渡る空の中、地響きのように外に響いてくる。
当たり前だ。ここは全国大会なのだ。親も友達も見に来る。会場に戻って、本来なら私も共に戦っている仲間を応援するべきなのだ。
けれど私はその音を他人事のように聞いていた。
先ほどまで動いていた足は動かない。握ろうとした手には力が入らない。暑い日差しの中にいるせいで、じんわりと汗がにじんでいく。
なぜ負けた?
私はいつもどおりだった。相手は去年の秋大会に勝った相手だった。相手は緊張していたはずだった。そう強くなかったはずだった。
だったってなんだ?
今の状況はどうした?
私はこんなところで何をしてるの?
「落ち込んでんのか。柄にもなく」
突然、ゴツと頭に何かが乗っかる。
「全然きづかねーもんなあ。ほら、水分取れよ。暑いだろ」
渡されたのはなっちゃんオレンジ。普通こういうときはスポーツドリンクじゃないの。
缶ジュースは、私の火照った手のひらをじんわりと冷やしていく。
声をかけられても、今どういう顔をしていいのか分からない。顔は上げられなかった。
そんな私に今度は布が襲った。これはタオルか?
どかりと、私の隣に座って奴は言った。
「とりあえず、たくさん飲めよ。んで、その分泣けばいいだろ」
飲めないだろが、タオル落ちるし。つーかこんな日差しの中タオルかぶると、暑いことこの上ないし。
本当にこいつはどっか抜けてる。馬鹿じゃないの。
あまりにも馬鹿すぎて、泣けてくる。
ぽたりと落ちた水は、濃紺の袴にしみこんでいく。そしたら堰をきったようにあふれ出して、止まらなくなった。
身体を大きく震わせて、タオルの中で声を殺す私に、その抜けてる幼馴染の馬鹿は、泣き終わったら応援しにいくからなと言って、そのまま動かなかった。
多分無駄にえらそうにふんぞり返って座っているのだろう。
私が立ち上がるまで。
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