第7話

mRNAワクチンの本性が少しずつ見えてきた。mRNAを構成する塩基を1‐メチルシュードウリジンに修飾することで抗原提示細胞に異物として認識されずに細胞内に入れる。細胞内で分解されることを防ぐ作用もある。スパイク蛋白は病毒性があり血管を傷害する。抗原提示細胞が発現したスパイク蛋白は自然感染とは逆方向に働き、調節性(抑制性)T細胞を活性化し、組織でのスパイク蛋白がもたらす免疫反応に伴う炎症(サイトカインストーム)を抑制する。感染は防がないが、重症化は防げる、ただし半年弱でその効果は失われ、追加接種が必要になるという仕組みだ。本来は自己免疫疾患の遺伝子治療として開発された薬のようだ。がん細胞特異抗原を発現するようにすれば、がん治療に使える。ゆくゆくは免疫チェックポイント阻害剤や抗がん剤と合剤にして使用される。全然ワクチンとは違う、遺伝子治療なのだ。

 もう一つの別の側面が示されている。自然感染や従来型ワクチンに比べて、スパイク蛋白にたいする抗体がはるかに大量に作られるので、抗体にたいする抗体ができてしまう。抗イディオタイプ抗体というのだが、スパイク蛋白の形をしていて病毒性がある。心筋炎や脳梗塞などの副反応の原因として推測される。ウイルス側から言えば、敵の敵は味方というわけだ。

 調節性T細胞の活性が高くなると、がんや感染症に対する抵抗力が弱まるし、不自然な抗体産生には無理があり、しっぺ返しをくらう。まだまだ治験中の薬でわからないことが多い。接種するかしないかはよく考えて決めましょう、あとは自己責任ですよと説明するべきだった。20~90%余命を短縮するワクチンだとLiberioは結論した。

 難しい理屈抜きにしても、久しぶりに見ると急激に老け込んだ人がいるし、原因不明の体調不良に苦しんでいる人とか10歳代の花粉症が激増していたりと不気味な兆候がある。Liberioは感染やワクチン接種の直後に額から青緑白色の蛍光を発している人がいることに以前から気づいていた。コロナブルーとでも呼ぼうか。そのような人と話をすると大概しんどいと答えた。接種部位が腫れても、よく効いている証拠と喜んでいる人もいるよと教えてくれたりもした。

 しつこく止めるように言ったのに、母は妹に連れられてブースターを接種してしまった。妹夫婦はブースターを済ませていたし、良かれと思ってしたものを非難する気になれなかった。コロナ後の世界では血縁とのいさかいは極力避けるべきだ。これはもう宗教だと納得することにした。ワクチンを信奉している人に何を言っても無駄だし、その逆も然り。お互い干渉しないことだ。職場や学校のルールで嫌々接種されている人は本当に気の毒だなと同情した。人口削減は陰謀論だと思うが、癌の進行や血管が詰まったりで早死にしたり、接種しても感染し持病の悪化で亡くなる高齢者がいるし、おかしいなと思うけれどしばらく話題にするのは止そう。

 そんなことより個人売春はなぜ駄目かだ。現代は誰にも知られず売春をして、普通に結婚し家庭を持てる時代だ。今東光はコミュニティの中でばれて、させ子だと後ろ指をさされるから駄目と言っただけなのだろうか。個人売春を日常化している娘はコロナ感染率も極めて高いホットスポット兼スーパースプレッダーだろうが、買う方も我慢できなくなっているだろうし、会食や旅行は控えられても、性欲は抑えられないに違いない。うずうずしている自分をLiberioは感じた。

『文明崩壊 下巻』 ジャレドダイアモンド 草思社文庫

 この本は流行のSDGs 二酸化炭素排出抑制のバイブルだ。SDGs自体は各種利権団体の都合で、内容も方向性も捻じ曲げられている。原典を忠実におさえていきたい。

 上巻は過去に環境問題の解決に失敗して崩壊に至った六つの社会の過程を述べている。

 163頁 中国の環境問題には大気汚染(硫黄酸化物・NOx フロン 二酸化炭素) 生物多様性の喪失 農耕地の喪失 外来侵入種 過放牧 河川水流の停止 塩性化 土壌侵食 ゴミの集積 水の汚染と不足 人口増大がある。歴史的に中国の支配者は広い地域に対して急激な方針転換を命じることが可能だった。一人っ子政策を強制することで人口増加率を抑制したように、中央集権制が他国には不可能な徹底的で効果的な環境保護政策を迅速に実施するだろうとジャレドダイアモンドは期待している。

 人口よりはるかに多い牛や羊、地平線まで続く小麦畑と農業大国のイメージがあるオーストラリアだが、実際は最も非生産的な大陸だと述べられている。環境は脆弱で森林や漁場の消滅も早い。その土壌は栄養濃度が低く、栄養分が浸出した後の回復力が不足している。栄養分を肥料という形で人工的に補う必要がある。収穫量を得るためにもっと広い面積を耕作しなければならないので農業機械の燃料費がかさむ。作物の価格は高くなり海外市場との競争に敗ける。土壌の塩分濃度が高い。降雨量が少なく予測不可能である。

 Liberioは今まで馴染みのなかった土壌の環境問題に注目した。それは九種類の環境被害から生じる。自生植物の一掃、ヒツジの過放牧、ウサギ、土壌の栄養分枯渇、土壌侵食、人為的な旱魃、雑草、政府の間違った施策、塩性化。その中でも塩性化は近い将来必ず世界中で問題になり、解決できる技術や企業に大金が集まるようになるのではないか。大林組の株価をフォローしてみることにした。塩性化に二つの過程がある。

① 灌漑による塩性化 土地を冠水させたり、広域に配水すると根に吸収されなかった余分な水が塩分を含む深い層まで浸透して、湿った土壌の柱を築きストローのように塩分を地表近くまで吸い上げたり川に流れ込んだりする。

② 裸地の塩性化 作物が収穫され地面が剝き出しのままになると降り注いだ雨が深層の塩分にまで染み入り、塩分を表面に拡散させる。

 とりわけ深刻な十二の環境問題

(1) 森林、湿地、珊瑚礁、海底など自然の棲息環境を破壊 Liberioは子供のころの琵琶湖を思い出す。湖と沼をつなぐ運河に注ぐ小水路は水草や昆虫、小魚で彩られアクアリウムのように美しかった。季節になると卵を抱えて腹が黄色くなったモロコで運河の水面の一部が埋め尽くされることがあった。総合開発は運河を埋めて道路に変え、岸辺をコンクリートで覆い、釣り針にはブルーギル以外の魚がかからないように変えてしまった。

(2) 魚介類の乱獲と養殖魚の害 

(3) 野生の種や個体群、生物の多様性の喪失 近年は自然豊かな田舎に行っても昆虫が少なくなった。ニコチノイド系農薬の影響が言われている。

(4) 農地による土壌侵食、塩性化

(5) 化石燃料の埋蔵量 

(6) 真水の涸れ

(7) 植物の光合成能力の限界

(8) 毒性化合物の放出(殺虫剤 除草剤 洗浄剤 プラスチック ホルモン フロンガス 水銀)

(9) 外来種 鯉は日本でも外来種で水底の泥を巻き上げ水を濁らせる性質がある。アメリカ人が棍棒で殴っている映像を見た。そこまで憎しみをぶつけなくてもとLiberioは思う。

(10) 温室効果ガス CO2 メタン

(11) 人口増加 本の中に開発途上国の男性が国際支援で避妊具を送ってくれないかと言った話があった。

(12) 人間による環境侵害量の増加 第三世界の生活水準上昇や先進国への移住

ジャレドダイアモンドは自動車について、環境に悪影響をもたらすが、わたしたちが決して手放そうとはしない科学技術と言い切っている。環境問題解決の期待を担っているのは水素自動車と燃料電池だがどちらも未熟な段階である。電気自動車は予知しえなかった問題にぶつかって勢いを失っている。重量のかさむSUV(スポーツ汎用車)の流行は環境保全に逆行する要素だ。

 風力や太陽光発電は科学技術として確かに存在するが、風や陽射しが安定して得られる場所でしか使えないので稼働率や採算性の点で実用化に限界がある。

 第三世界の住民の腹を満たすために、大金を投じて、遺伝子組み換えのタピオカやアワやモロコシを開発しても利益にはつながらない。

 先進諸国が現在味わっている繁栄は、預金口座にある環境資本(再生不能のエネルギー源、天然の魚介資源、表土、森林など)を食いつぶすことで得られたものだ。引き出した預金を稼いだお金と勘違いしてはならない。

 社会の急落が人口や富の絶頂期からほんの十年か二十年後に始まる場合もある。絶頂期には環境侵害も最大になり、侵害が資源を滅ぼす限界点に近づくということだからだ。

 ジャレドダイアモンドは人口抑制とひとり当たりの環境侵害量を抑制(コントロール)が必要だと述べている。テレビ番組や書籍などで遠くにいる人々や過去の失敗から学べるのだから人類はなんとかするだろうとどこか悲観的なニュアンスで締めくくっている。

 本気で環境問題に向き合うなら、スマートフォンにひとり当たりの環境侵害量を測定するアプリを入れて、侵害量に応じてペナルティを与える(節約できたら報酬を与える)

ような統制国家的対策が必要だとLiberioは思った。贅沢は敵だみたいな生活になる。SDGsなんて祭囃子みたいなもので金儲けのための嘘を糊塗しているに過ぎない。私たちは残り少なくなった繁栄を貪るしかないのだろうか。

 ジャレドダイアモンドにはSEXや性に関する著作がある。今後はそれらを読みながら今東光より与えられたテーマをフィールドワークを混じえて解決してみようLiberioは思った。

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