第6話

「テツヤさん、人間の意識 自意識 自我とはどういうものなのでしょう?」

バンドの練習が終わり、休憩室でLiberioはお茶を飲んでいたテツヤに問いかけた。間髪をおかずに、

「どうやら人間の行動はほとんど無意識下になされていて、事後にそれらについて理由をつけているのが意識だと最近言われています」

「単なる後付けに過ぎないのですね」

「まあそうです。ただ理由をつけて評価する、つまり経験を積んだり、また読書などで知恵を得ることで失敗しなくなるという側面があります。利点というか進歩するための有益な道具なわけです」

 数日後、Liberioは驚愕の体験をした。

Youtubeを立ち上げると、あなたへのおすすめ欄に『意識は幻想か?-「私」の謎を解く受動意識仮説』とあった。2009年12月18日に慶應義塾大学大学院 システムデザインマネジメント研究科の前野隆司先生が「システム生命論」というタイトルでされた講義の一環のようだった。

 なぜYoutubeは自分の関心事を知っているのかとLiberioは少し考えて気が付いた。あの時周りの人たちは各々の会話にかまけていて、二人の会話にわざわざ注意を払う人はいなかった。二人の会話に聞き耳を立てていたのはテツヤのiPhoneだけだった。LiberioのAndroidは自宅にあった。iPhoneは持ち主がどこで何を話しているかはもちろん会話の相手の素性までご存知で、情報はiPhoneからGoogle経由でYoutubeに親切なおせっかいをさせたのだろう。Youtubeを何回か利用すると、その人の趣味嗜好から思想信条、知性、健康状態、職業、資産、家族構成まで丸裸にされていそうだ。どこから入っても、GAFAM(FacebookはMetaに変わったのでGAMAMか)の中はいけいけの筒抜けで、その上には全知の神のようなAIが存在するわけだ。私のことを私以上に知っていて、そのうち行動まで支配するようになるアルゴリズムを持ったAIが。

 この動画は1時間半の長いものだったが、見ないという選択肢はなかった。内容は良かった。

 受動意識仮説:意識=エピソード記憶のためのモジュール(機能)

脳は並列分散的に情報処理し、いろいろなことをやっている(無意識の小びとたち)

意識は無意識下の自立並列分散的情報処理結果に受動的に注意を向け、あたかも自らが行ったように幻想体験し、エピソード記憶(直列的記憶)するための(無意識に対して受動的な)存在。

知的情報処理=考えるということ。ヒトは『主体的に(能動的に)思考している』幻想するようにできている。

意識されるタイミングの不思議 見た瞬間に分かったような気がしているのは、脳が『つじつまがあうように調整している』としか考えられない。

自由意志 意図 「動かそう」と意図する瞬間の0.35秒前に筋肉への指令が発せられている(運動準備電位の測定で分かったこと)さらに意思決定の8~4秒前に脳の活動は開始している(Nature neuroscience 2008)

ロボトミー患者では右脳だけに歩くように指示を与えると、歩き始めたあとに左脳が歩く目的(自由意志)を作り出した。

エピソード記憶ができる動物のみが意識を持っている(哺乳類 カラスやカケスなど一部の鳥類)

従来の心のモデル(心の天動説)意識は世界の中心にいる

心の地動説:「意識」は脇役に過ぎず、身体が世界とつながっていて、「無意識」の自立分散的情報処理によってボトムアップに行動の原型が作られると考える心のモデル。「意識」は「無意識」の結果を見ているだけと考える新しい心のモデル(受動意識仮説)

ブッダの教えの「非我=私ではない」は機能的意識が無意識の小びとの結果に追従していることをあらわしていると解釈できる。

 Liberioは20年前、心臓移植をテーマに、ひとつひとつの細胞が意思を持っていて、臓器や筋肉は個々の細胞の集合体としての意思があり、ヒトの心は全身の細胞の総意だと文章に書いたことがあった。また幼児のころ、従兄弟たちと遊園地に行ったのが最初の記憶で、そこから自意識が始まったように思い出される。Liberioは受動意識仮説は真実だろうと受け入れた。認知症が進行してエピソード記憶を失ったら自意識も消滅するのだろうか。死ぬと自我とか私は消滅して完全な無の世界になりそうだ。魂や霊など存在しない。

 これに関しても今東光は何か言っていた記憶がある。『極道辻説法』を読み進めよう。

※ 読者の相談

◆ 今東光の答え

☆ Liberioの感想


※ 和尚の自殺未遂は本当?

◆ つまり二十代なら二十代で追いつめられ、袋小路に入る時があるわな。三十代になったらそれを切り抜けられるかというと、やっぱり三十代には三十代の袋小路がある。四十代の袋小路がある。常に人間はなんらかの袋小路に追い詰められることがあるんだ。その時にいいアドバイスをやってくれる人があれば、何とか切り抜けられるよ。

☆ 若い時はいいアドバイスをくれる年長者がいた。自分の年齢が上がると救ってくれる人は少なくなって、絶望して死を選ぶ確率が高くなる。でもアドバイスは感覚が新鮮な年少者からも貰える。年を取るほど若い人とのつきあいに積極的になりたいが、年寄りは敬遠されがちだ。紀州のドンファンのような魅力的な年寄りでないといけない。なれなかったときは、放校になった悪太郎を送りにきた校長先生の言葉を思いだそう。「失望する勿れ、という一句を贈ろう。人間は失望した時が自己放棄であり、失格者だ。失望しない限り、望みはあるんだぞ」


※ 来世が不安

◆ 特にこの頃、オカルト・ブームで、霊魂だとか、前世だとか騒がれているが、前世、来世とか、因縁とか、地獄、極楽とかいう観念は、仏教を広めるため、その時代その時代の方便で考え出したものでね。本来の仏教では霊魂さえ認めてないぐらいだ。根本的には、そういう考えは仏教とは全然違うもんだ。その時代時代に、無理無体に方便として因縁話や説話を作ったんで、それを全部仏教の教えだと思ったら大間違い。取捨選択して聞かなけりゃあダメだよ。

☆ Liberioは方便だという答えをはっきり記憶していた。別のところでは今東光は、スピリチュアルな存在を認めなさいとか、亡くなった親や祖父母が守護霊として助けてくれているよと言ったりしている。言葉にするとアンビバレントになってしまうが、感性でもって両極端を受け入れなさいとの説法なのだろう。


※ 山形生まれでバカにされる

◆ 大体九州人なんていうのはハッタリだけでな、「なんとかですたい」とかなんとか豪傑ぶってるけど、ちいっとも豪傑じゃあありゃあしねえ。それに助平でな。戦争中なんか、満州などで、「九州の部隊がくる」っていうと、村の人たちは娘を全部隠したもんだ。女と見るとみんなやっちゃうんだ、九州の部隊は。権力側につくと九州人ほど強くなる人種もないんでね。虎の威を借りる狐よ。

☆ なぜこの文章が強く記憶に残ったのか。社会人になってからLiberioは出張で宮崎と大分に約6年滞在した。大分は瀬戸内よりだし、宮崎は国内からの移民が多く北海道に似ていて、今東光のいう九州人とは違った。30年先に自分が行くことを予見していたのだろう。


※ 売春はなぜいけないのか

◆ ちっとも悪くねえよ。オレに言わせりゃあ、売春は女の最高の職業でな。ギリシャのデルフォイ神殿の巫女以来行われているものだ。もし悪いというならば、それは買う男が悪いんで、売る女に罪はない。

☆ 別の頁で今東光は、一回でも金を貰ってSEXしたら後戻りできない、堕ちるぞと書いていた。その理由がずっとわからないままだ。


※ 和尚はスーパースターなのか

◆ だけどオレは、あっちで叩かれ、こっちで放り出され、大失敗ばかりしてきたからこそ言えるわけだよ。こういうことをすると失敗する、こういうことをするとダメになるぞ、と。自分の体験によって。そりゃあもう、いじけたし、ひねくれたし、大変なもんだった。だからこそツッパリにツッパった。このツッパリ人生で来なかったら、オレはもう今頃は山谷あたりか西成あたりでルンペンになっているのが落ちだったろうな。

☆ どれほど栄華を極めていても、一つ間違えば奈落の底に落ちるよという教訓をここで得ていた。今、読むと、身体が相当タフでないと山谷西成あたりまでもたどり着けないだろうとわかる。


※ 本はどう読むべきか

◆ 本を読んでいても常に自主的に物を考えるんでないと逆効果になるんだ。その本に負けて、その著者の考えに捉われたらもうおしまいだよ。いつでも自分というものがこれを読んで、「オレはこの説に反対である」という意識忘れたら駄目だ。それがなかったら、読書なんてなんの役にも立たん。

☆ ジャレドダイアモンドの『文明崩壊』読んでいる途中だが、脱炭素教のバイブルみたいな本だ。自民党の政治家でこれを理解している人は少ないだろう。


※ 前の男の子を宿した女と

◆ えーと、神奈川県か。すると女も相模女だな。昔から「房州相模の女には藁みせるな」っていうくらい、好きなんだよ、SEXが。藁見せたらすぐそこに横になって、しがみついてくるくらい、助平で、したくってしょうがないっていう女でね。徳川時代からそう言われているんだ。

☆ この続きに、堕胎してすぐの女は妊娠しやすいと書いてあった。


※ 高知県人をどう思うか

◆ 大体高知県人というのは、板垣もそうだけど、非常にハッタリが強く、口先のうまい連中でな。それも虚勢ばかし。高知の野郎ってのは口先だけで、腹がねえんだ。

☆ 四国は自給自足ができる島なんだと書いてあったのが記憶にある。


※ 輪姦されて狂った私の人生

◆ 一回寝て一万円でも銭もらったらもうおしまいだ。次には二万円の人のところに行くことになる。銭を百円でももらったらもう淫売でな。相手は「淫売買ったんだ」ということになり、罰せられるのは女のほうだけなんだから。その用心のためにも男は必ず銭を出すよ。お金もらって落ちたらもう救いはないぜ。とにかく銭もらったらおまえの人生はそれでおしまいだよ。

☆ 何度も激しくおしまいだといさめている。売春は女の最高の職業と言った人がなぜだろう。Liberioの長年の謎だった。職業として組織売春をするのは〇で、小遣い稼ぎに個人売春をするのは×なのか。それなら今や、おしまいの人が世の中に結構いて、結婚して子供ができ普通の家庭生活をしていることになる。救いのない人生をおくっているのが、見ればわかるのだろうか。一度でも銭をもらってSEXすると、女は身体的精神的にどのように激変するのか、少し勉強してみようと思う。 

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