第4話

 コロナの話は飽きたけれど、まだワクチン接種に関心が残っている。Liberioの知り合いの職場で接種後の急死があった。30歳代の女性で以前に肥満や高血糖がありダイエットで治癒状態だった。勤務中にうずくまるように倒れて直ぐ心肺停止し人工呼吸と除細動をして救急車で運んだが帰らなかったと聞いた。翌日が2回目の接種予定日だった。コロナだからことさら注目されるだけで他のワクチンでも死亡の副反応はあるのだろうか。新型コロナウイルスmRNAワクチン接種後の死亡事例の解析(人種 年齢 性別 基礎疾患の有無 接種後の日数など)を発表すべきなのにスルーされているなとLiberioは思った。不都合な真実にはフィルターが入る。ネットにはワクチンの恐ろしい性質をあげ接種をするべきでないとの情報があふれている。接種すると呼気や体液にウイルス特有のスパイク蛋白が出るようになり未接種の人が暴露されるとも書いてあった。周りの人が接種済になれば、その人達が放出するスパイク蛋白を取り入れて注射の手間なしに免疫を獲得できるのではと怠け者のLiberioは考えた。何事にも消極的で億劫なLiberioには希望者が殺到する現時点でのワクチン接種申し込みは無理だった。優先接種の対象が医療従事者と高齢者になっているのは副反応を洗い出すためかもしれない。高齢者が亡くなっても社会的に痛くないし、若い人の副反応は救命措置を受けやすい医療従事者で治験しているのだろう。問題点を洗い出してワクチンを改良してから未来ある若い人に接種する。理にかなっていると感心した。接種後も感染予防対策は怠れないようだし急いで接種する必要はない。ただ早く接種しとけば良かったと後悔する事態は避けなければならない。

『昨日までの世界』 ジャレドダイアモンド 日経ビジネス人文庫

 ジャレドダイアモンドは1つのテーマを解説するのに微に入り細を穿つが如く丁寧かつ根気よく執拗に行うので、興味が乏しいテーマだと読むのが停滞する。訳す方も大変だろう。相当な忍耐を要求される仕事だとLiberioは訳者に感謝した。本の内容は伝統的社会の研究で、全体を把握する集中力がなくて印象に残る部分を書きだすにとどまった。

ニューブリテン島のカウロン族は未亡人になると兄弟や息子に絞殺される。

人口が数十人程度の小規模血縁集団の紛争や係争で最も多くみられるのは夫婦喧嘩である。原因で多いのは食べ物をめぐっての喧嘩、次は性的な問題で特に多いのが姦通だった。

伝統的小規模社会における紛争解決方法は出来るだけ平和裡に解決することで暴力は復讐の連鎖という悪循環を招く。児童を自動車で撥ねたマロは事故現場にとどまらず最寄りの警察に向かった。でないと被害者側が加害者を撲殺する恐れがあるからだ。報復行為はマロの会社の従業員にまで及ぶ可能性がある。正しい賠償のプロセスは地区長が中に入って会合する。会社員全員で哀悼の儀式に訪れる。怒りを鎮め悲しみを分かち合う。国家社会における司法制度は私的な武力行使を禁じている。アメリカでは敗訴側が勝訴側の弁護士費用を負担することがない。だから金持ちに有利になる。国家社会の司法制度では感情的な対立の解消が計られない。民事は損害を賠償する責任の所在の判断に終始する。刑事司法の目的は人々に法律を遵守させ社会の秩序と平和を維持すること。感情面や気持ちの面で終結を得る方法として修復的司法というアプローチがある。被害者と加害者が対面し互いに語り相手の話に耳をかたむける。

第3章 小さな戦争についての短い話 伝統的社会における戦闘は復讐連鎖の悪循環で時に女性や子どももまきこむので死亡率が高い。戦闘方法は待ち伏せと奇襲が多い。宴に招いて料理をふるまい、相手方が油断をした隙に虐殺する騙し討ちもある。

第4章 多くの戦争についての長い話 伝統的戦争の一般的な動機は女性と豚である。女性が姦通する、誘拐される、強姦される、遺棄されるなどが紛争の原因になる。豚は富と名声を示す指標の代表で、婚資として提供することで女性との交換財になり得る。

367頁 幼いころから特定の民族を憎み、あるいは恐れるように教え込まれて育てられることがある。戦後の時代になるとそのような憎悪の感情はもはやよいものではないと否定される再教育がなされる。この例にジャレドダイアモンドは自身の体験を書いている。1941年 奇襲攻撃とみなされた真珠湾爆撃によってアメリカ市民が日本に対して強烈な憎悪感や恐怖心、敵対心や復讐心を抱くようになった。それを4年も経たないうちに忘れるように命じられために、生涯苦しむこととなった。私は第二次世界大戦中のヒステリックなまでの反日感情のなかで子ども時代をすごしたのである。われわれは復讐心が存在することを理解し、その存在を認めるべきである。そして復讐したい気持ちを表出するべきである― ただし実際の復讐以外の方法で。Liberioはコーカソイドの執念深さにあきれた。

第5章 子育て

393頁 授乳性無月経 1日数回程度の授乳では避妊の効果はない。頻回授乳の継続が必要。

402頁 アロペアレンティング 親以外の人間が子どもの面倒をみる。親のみに育てられるより、正常な大人に成長する。

社会の所有物(家畜など)が多くなると体罰が発生する。

小規模狩猟採集社会の子どもの遊びは大人の活動行為(戦争や狩猟など)の模倣で教育的遊びである。おもちゃは自分で作るので創造性が豊かになる。小規模社会では大人ばかりでなく子どもまでもが情緒的に安定し、自分に自信があり好奇心に満ちあふれ自律している。社会性を身につけている。

第6章 高齢者への対応

478頁 アメリカ社会は独立性や個人主義、自助が美徳とされる。プライバシーの尊重を重要な価値観とする社会でもある。高齢者ケアの享受というものはこれらのすべてに反する行為なのである。アメリカ人の理想が高齢者の自尊心を隅に追いやり、世話をする若い世代から高齢者に対する敬意を奪っている。競争原理のもとでは若者のほうが有利であり、若さが礼賛される。洋服やソフトドリンクの宣伝広告にも常に若いモデルが登場する。

高齢者が若い人に世話してもらうには、資産を持ち、経験に基づいて子守りや指導などのよりよいサービスを提供するのがよい。

 Liberioは考えた。最近の若い女性は自由と個人主義の享受、プライバシーの尊重があたりまえになっている。それでは結婚すること自体や結婚生活の維持は難しいだろう。維持するためには男性側の忍耐と服従が要求されることになる。

下巻 危険に対する姿勢と「建設的なパラノイア」で始まっている。パラノイアを辞書で調べると大げさで根拠のない不安とあった。間違いを冒さないためには用心深すぎるほど用心深くなければいけない。常におしゃべりを通じて、情報を収集し、互いの洞察の正否を確認して危険を事前に察知する嗅覚に磨きをかける必要がある。Liberioは先日車上狙いにあい助手席側窓ガラスを割られた。助手席に蓋のない手提げバッグを置いて離れたのが失敗だった。バッグには普段から、がらくたしか入れておらず貴重品を盗られたわけではないが、盗人には魅力的に見えるという建設的な妄想(パラノイア)が足りなかったことを奇しくも教えられた。

130頁 われわれ西洋人にとって最大の関心事はセックスであり、食べることは性的欲求不満の埋め合わせに過ぎない。Liberioは今東光が大陸の村では九州の部隊が来たら女房と娘を隠したと書いていたのと昔の人が使った色キチという言葉を思い出した。

第9章 デンキウナギが教える宗教の発展

190頁 ジャレドダイアモンドは進化生物学を次のように説明している。遺伝子の組み換えや突然変異によって個体間に差異が現れる(多様性の出現)自然淘汰と雌雄淘汰によって変異個体の生存と生殖と遺伝のしかたに差異がみられるようになる(ふるいにかける)環境に適応するように変異するのではなく、ランダムに変異したなかから生存に有利な個体が生き残るとしている。魚種の多くは側線に、周囲の微弱な電場を感知する役割をはたす器官がある。さらに進化した魚はみずから微弱な電気を発生させ、自身の体のまわりに弱い電場を作り、その電場の乱れを感知することによって獲物などを探知する。数ボルト程度を発電できる魚は、その電気で小魚をしびれさせ、捕まえ、餌としている。最高600ボルトにも達する強力な電気を発生させることができ、成魚になると全長が6フィートにも達する大ウナギは、馬のような大きな動物でさえ感電させ、気絶させることができる。自分を捕食しようとする相手を、感電させ麻痺させ、自分を守る。「電気の集魚効果」を利用して餌となる小魚をおびきよせて捕食する。進化生物学と同様に進化心理学は、宗教は人間の機能の副産物であると説明する。人間の脳は、事象の間に因果関係を認知する能力がしだいに進化し、そこから因果関係をもとに予測する能力にも磨きがかかったのである。その結果、宗教というものが、そうした能力の副産物として登場したともいえるかもしれないのである。そして、人類の歴史のかなり長い期間、自然と超自然や、宗教と此岸の世界は、一線を画して区別されるような存在ではなかったのだろうと思われる。宗教は進化の段階を経る度にその役割をさまざまに変化させてきた。たとえば、

233頁 人口が密になるにしたがい、さらなる悪をおしつけられるようになった人々が癒しを求めるようになった。不幸な目に遭えば遭うほど、人はより信心深くなる。

238頁 首長や王たちは、みずからの存在を正当化し、それを人民に納得させる手段として宗教を利用した。

257頁 信者数が増加するのは、教義とその実践が信者を動機づけ、信者が子づくりと子の養育に励み、改宗者や無神論者を獲得し、円滑に機能する社会を営んだときなのである。

第10章 多くの言語を話す

315頁 トロントの病院で患者400人を対象とした調査結果によると、二言語を話す患者の教育レベルは、平均して、一言語しか話さない患者よりも低く、脳萎縮がより進行していることが画像検査で明らかになったにもかかわらず、アルツハイマー病の発症年齢が四、五歳遅いということが示されている。

340頁 母語を維持し、伝統的な文化を維持しつづけることによって、経済的な発展がみられ、生活保護などに頼る人々も比較的少ない傾向にある。

第11章 塩、砂糖、脂肪、怠惰

人類史の大半において、ほとんどの人類が塩や砂糖を簡単に入手できなかった。そのころ、塩や砂糖の体内保持に優れた人々が、不足で起きる不可避の事態をうまくしのぐことができ、結果として生き残り、子孫を残すことができた。塩や砂糖を過剰に摂取できるようになった昨今、そうした体質が仇となり、高血圧や糖尿病で死亡するリスクを負うようになった。以上がこの章の主旨である。

417頁 ルネッサンス期以降、ヨーロッパ各地で飢餓がなくなった。近代医学が登場するまでの数世紀の間に、糖尿病が流行し、糖尿病にかかりやすい傾向のある倹約遺伝子を持つ者の多くが淘汰された。糖尿病の母親が乳児を死産したり、成人の糖尿病患者が若くして死亡したり、糖尿病の親を持つ子どもや孫が育児放棄されたり、適切に養育されなかったりして死亡した結果なのである。これがヨーロッパ人に糖尿病が少ない理由の推論である。

 『昨日までの世界』を読むのに随分時間がかかった。その間にワクチンに関する否定的な情報がネット上で増えている。心筋炎、ギランバレー症候群、出血などの有害事象が多い。

ADE(抗体依存性感染増強) 新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生されることが発見された。一度デング熱に感染した人が異なる型のデングウイルスに感染すると、最初の感染によって産生された抗体によって重症化する現象で知られていた。新型コロナウイルスのスパイク蛋白質にはヒト細胞の受容体であるACE2と結合する部位(RBD)があり、中和抗体はRBDに結合する。感染増強抗体はスパイク蛋白質のNTDという部位に結合する。抗NTD感染増強抗体がNTDに結合するとRBDが開いた構造になりACE2に結合しやすくなり感染性が高まる。ファイザー社等のワクチンは感染増強抗体も産生するので、ウイルスが変異すると中和抗体の作用を上回りADEが発生しやすいとされている。他にもスパイク蛋白質は長期間にわたり産生され、異物として認識されなくなる免疫寛容の誘導や、自己免疫疾患の発症などが懸念される。本当なら①RBDだけを標的にする抗体のみを作り出すワクチンが望ましい。②mRNAワクチンは初期の有害事象の頻度が高くて深刻なものも含まれ、かつ長期的悪影響が分からないので、組み替え蛋白質や不活化(疑似)ウイルスを使ったワクチンが望ましい。

②は近いうちに国産で実現するそうなので、ワクチンパスポートがうるさくなれば②を打とうとLiberioは怠け心の言い訳に考えた。結局感染しないことが一番よいのだ。

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