第2話
Covid-19は、かもしれない病だとLiberioは思った。さすがにvirusの存在まで否定する陰謀論やマスク無効説は信じないが、PCR陽性=感染ではないとか、無症状でも人に感染させるなどコッホの原則をないがしろにするような情報が蔓延るのは怪しいと感じた。「コッホの原則」の原義は、
1. ある一定の病気には一定の微生物が見出されること
2. その微生物を分離できること
3. 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4. そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
PCR検査は病原体の存在を鋭敏に検出するものだから陽性なら原義1と2を満たしている。陽性の人が誰かに感染させたら原義3と4を満たす。シンプルに陽性=感染でよいのではないか。極めて症状の軽い人を無症状とみなしているなら混乱を煽るのが目的としか思えない。インフルエンザでも感染したら軽微でも体調の異変はある。定義に則って話をしてくれないといつまで経っても人々は合理的な行動をとれずパンデミックを長引かせる。
テレビに出る専門家もクリアに分かっている人はいなさそうだ。情報が意図的に操作されているようでPCRの陽性率や感染者の国籍は明らかにされない。むしろ感染した芸能人の体験談の方が役に立つ。倦怠感が凄いらしいし、呼吸困難を発症したらこのまま死ぬのかと絶望するそうだ。治っても肺や血管、嗅覚や味覚に障害が残る。そんな病気には極力罹りたくない、Liberioのみならず世間全般そうだろう。それと富岳のシミュレーションには恐怖心を感じる。大声を出さずに穏やかに会話していても飛散する微粒子、会食でテーブルに落ちている赤い粒は視認出来る唾液塊だし、空中を漂う無数の青い霧はvirusを含む飛沫で目には見えないけど相当離れたところまで飛んでいく。スーパーコンピューターの印籠を見せつけられると無条件で恐れ入ってしまうのは国民性だろう。
有効性の程度は分からなくてもFail safeの発想で対処するのが良識で、Liberioもマスク常時着用とアルコール消毒を含む手洗いを励行していた。それが習慣になると逆に今まで随分と感染症に対して無防備だったことに気付く。昔のドラマで顔をくっつけて大声で話しているシーンなど超危険行為にしか見えない。スーパーのレジやエスカレーターで背後に人が近付いてくると離れてよと視線を送るし、レストランや電車の中で大声を出して会話している人を見ると頭がおかしいのかと思ってしまう。パンデミックが終わってもマスク手洗い消毒は止められないだろう。会食やイベントに参加する時は体温測定を受けて風邪症状があれば入場禁止が当たり前になる。そういえばパンデミックになってからインフルエンザやノロウイルスの流行を聞かない。新しい習慣は多くの感染症を予防する効果がある。風邪や胃腸炎が減ったら病院や製薬会社は困らないのだろうか。
人付き合いの一環として当たり前のようにしていた会食(仕事 プライベートを問わず)が制限されて時間もお金も消化管の負担も節約出来るようになった。今となれば強迫観念に急かされてしていたように感じる。会議や講演会が軒並みリモートになって社交嫌いのLiberioには却って好都合だった。新しい生活(new normal)が永遠に定着して欲しいくらいだ
Liberioはパンデミックが人々にもたらすのは距離感の変化だと予測していた。そんな曖昧な変化ではなくて、はっきりした二極化or 分断が発生している。群れたい騒ぎたい人と人間関係は原則リモートの人、必要不可欠なものと不要不急のもの、富める人と貧しき人。誰もが大事なのは各々の実入りの確保だけ、そうなると利害を同一にする身内しか信じられない。本当に助け合えるのは血の繋がった者だけとなり世界は狩猟採集時代に逆戻りした。再就職は出来たが非常勤の身分で仕事量 収入とも半減した。ローンや扶養家族を抱えていなかったのでLiberioは財布の紐を締めるだけで済んでいる。本当に幸運な部類だと自覚している。増えた時間は読書に向けられた。文春新書『コロナ後の世界』をリモートで学生の姿が消えた大学内の書店で見つけた。海外の知識人6人へのインタビュー取材を大野和基氏が編集した本で、馴染みのジャレドダイアモンドが含まれていた。他にスコットギャロウェイ、マックステグマークに共感し紹介されている著書を読み始めた。それとバンド仲間のテツヤが貸してくれた本があった。読んだ順に案内していこう。
『金持ち父さん、貧乏父さん』テツヤは20年近く前に読んでいたく感銘を受けたそうだ。Liberioも当時ベストセラーになっていることを知っていたが、タイトルが下品な感じがして読まなかった。内容は今やこの国でも当たり前になっているが、出た当初は斬新だったと分かる。アメリカは10年以上先を行っているというやつだ。お金を産むのが資産、お金を取っていくのが負債と割り切る。収入には配当 利子 家賃収入 印税 特許使用料があり、資産は株 債権 手形 不動産 知的財産など。持ち家は負債になる。Financial intelligenceを持ちファイナンシャルリテラシーを鍛え貸借対照表や損益計算書を読めるようになりなさい。自分のビジネスを持つ。会社を作って節税する。税金に関する法律に詳しくなる。著者は内国税法第1031条 不動産を売ったお金でより高い不動産を買うと元のキャピタルゲインに対する税金を払わなくて済む を利用して不動産の転売をしている。マクドナルドはハンバーガー屋ではなく不動産業で、フランチャイズ権=店舗のある土地を買うための代金、だから交差点のある一等地に建っているそうだ。Financial intelligenceとして、より多くの選択肢を持つこと、収入は先ず自分に支払う(貯蓄か投資に)、弁護士や会計士 不動産ブローカー 株式ブローカーにはたっぷり支払いなさいと書いてあった。
周りの人達が不労所得に血道を上げている社会とはどんなに嫌らしいだろうとLiberioは思った。
『モンテクリスト伯』 テツヤが今まで読んだ中で一番面白かった小説だと貸してくれた。7巻まである長編で展開が面白いところと退屈なところが混ざっていて読むスピードが上がったり下がったりした。暫く他の本を読んでいると、ただでさえ覚えにくい洋名を忘れる。いくつも名前を持っている登場人物もいて混乱した。人物相関図を載せて欲しいところだ。内容要約はせずに、名前だけ一行に一人で羅列したい。
エドモンダンテス またの名を ウィルモア卿 船乗りのシンドバット ブゾーニ司祭
ダングラール
モレル
ガドルッス 元の名はガスパール
フェルナン 後にモルセール伯爵
アルベール ド モルセール(フェルナンの息子)
フランツ デピネー
ルイジ ヴァンパ
ペピーノ
リュシアン ドプレー 大臣秘書官
ボーシャン 新聞記者
ド・シャトー・ルノー
ベルツッチオ
ベネデット 別名アンドレア カヴァルカンティ
本を返して時間が経つと何ものだったかあやふやになっている。
『人間の性はなぜ奇妙に変化したのか』 ジャレドダイアモンド
Liberioお気に入りのジャレドダイアモンドである。ジャレドダイアモンド教の信者といってもいいくらいだ。論理が明快で説得力があり何度も繰り返して書いてくれるので記憶に残る。性の進化の方向性を決める3要素が論説の柱になっている。
① オスとメスのどちらが受精卵により多くの投資をしたか。体内受精は卵の孵化や出産までにより多くの投資が必要で、放棄できないため子育てをする。親の投資義務の大きさに性差が生じる。
② 遺伝的利益は後世に自分の遺伝子をどれだけ残せるかにかかっている。子育てをすることは繁殖機会のチャンスを失う。メスが産める子供の数には限りがある。オスには別の繁殖機会がいくつもある。
③ それが本当に自分の子供かどうか。
興味深い生物学用語が出てくる
MRS (Mixed Reproductive Strategy) 混合繁殖戦略 配偶者のいるヒタキのオスが別のオスの配偶者とこっそり交尾
EPC (Extra-Pair Copulation) ペア外交尾 男性は既婚の女性と婚外性交しその夫が他人の子とは知らずに生まれた子供を育ててくれた場合に最も大きな利益を得る
人の排卵が隠蔽されるように進化した理由は、多くの男たちに性的恩恵を分け与え、生まれた子がどの男の種か分からないようにして子殺しを防ぐためだったが、進化過程の途上で、優秀な男を家に留まらせ子供の保護や世話をさせるために目的が変化したと書いている。
人の出産は胎児が大きく産道が狭いのでリスクが大きく、高齢になるほど周産期の死亡率が高まるので、短期間に少なく産んで、後は子供や孫の子育てに投資できるように閉経するように進化したとしている。
男にとって最高の状況は、妻が浮気しないように管理して子育てに専念させ、自分はW不倫をして出来た子供をばれないように不倫相手の旦那さんに育ててもらうことなんだとLiberioは理解した。この本を読むと、浮気や不倫なんて騒ぐほどのものではないと思ってしまう。
『第三のチンパンジー』 ジャレドダイアモンド
1991年に出版された『人間はどこまでチンパンジーか?』をアップデートしたもので、その後の著作のベースになっている。
分子時計という概念があって、遺伝子の1パーセントの違いは進化の分岐から500万年の経過に相当する。ヒトとコモンチンパンジーやボノボは1.6パーセント違い700万年前に分岐したと推定される。二足歩行が確認されるのは400万年前、2種類の猿人 アウストラロピテクス ロフストウスとアウストラロピテクス アフリカヌスが現れ、後者がホモハビリス、ホモエレクトスを経てホモサピエンスに進化した。10万年前には中期旧石器時代アフリカ人、東アジア人、ネアンデルタール人が存在した。アフリカ人がクロマニヨン人から現代人になった。ネアンデルタール人とクロマニヨン人の混血はわずかで遺伝子全体の1パーセントに残っているに過ぎない。クロマニヨン人はネアンデルタール人を滅ぼしてしまった。
ヒトの性行動 ヒトは幼い頃、近くにいる自分と遺伝子の半分を共有する人たち(兄弟姉妹や親)の影響を強く受けて美しさの基準や将来の配偶者のイメージを作るので、知能や性格、身体的特徴(目 皮膚 髪の色や鼻の形など)が似ている人を選択する。
加齢 修理や部品交換をしながら長く生きるのと、早く繁殖を済まして死ぬのとどちらがその種にとってコスト的に見合うかによって加齢速度が決まる。
特別な人間らしさ タバコや酒 ドラッグをするのは異性に身体の強靭さを誇示するため。
一人ぼっちの宇宙 宇宙人がいるならば地球人の生命や資源を奪いに来るだろう。それが起こっていないのは宇宙人がいないからだ。
ジェノサイド 集団殺戮はヒトだけでなく様々な動物で見られる。ハーレムの雌を巡り雄同士が争い、負けた雄ばかりではなく、その子まで殺してしまうゴリラの子殺しはよく知られている。彼我の区別がジェノサイドを生み、全ての人間の中に宿っている本性、衝動とも言える。ジェノサイドは消えてなくならないし、目をそむけてはいけないとジャレドダイアモンドは言う。だから気分が悪くなるような白人のオーストラリア人によるタスマニア人の集団殺戮の描写を淡々と書けるのだろうとLiberioは思った。
第二の雲 環境破壊の危険(第一の雲はキノコ雲) 森林破壊によって生息できなくなりプエブロという巨大構造物を残して去ったアナサジと呼ばれた人々、アメリカインディアンによる大型哺乳類の絶滅、ポリネシア人による鳥類の絶滅の事実を書いてある。動物は気候変動で絶滅したのではなく人類到来による。原因は乱獲、外来種の侵入、生息地の破壊。これを読むと温室効果ガス排出抑制が環境保護のためではなく、誰かの利益のためだと分かる。生息地を復元し動植物種を繁殖させることが真の環境保護だとLiberioは感じた。その為には人口の削減と人類活動の縮小が必要だろう。誰も自分が間引きの対象になりたくないから、思っていても言わない。
『 the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコットギャロウェイ
Liberioはこの本を読んでGoogleを除くAFA+テスラの創業者の名前を記憶した。
アマゾン ジェフ・ペゾス ヘッジファンドのアナリスト
アマゾンは単なるeコマースではない。リスクのない本から始めた。ブックレビューが宣伝の代わりになった。仕分けと流通に専念することが出来た。アマゾンマーケットプレイスは在庫無しで多彩なものを扱える。資本を食う店舗を持たず倉庫の自動化に投資した。新たな展開として、レジの無いコンビニエンスストア アマゾン・ゴー、AI搭載のディスプレイ アマゾン・エコーは何も触れずに買い物が出来る。アマゾン・プライムはケーブルテレビ離れを促すだろう。
アップル スティーブジョブズ
主要都市の目抜き通りに直営店を持つなどして高級ブランドとしてのイメージを確立した。
フェイスブック ザッカーバーグ ネット広告の売り手
ユーザーの個人データを収集している。150回のいいねで丸裸にされるそうだ。電話を盗聴していると問題になった。個人は広告のターゲットにされる。個人情報を分析し振り分けアルゴリズムが記事を送ってくる。それが社会の分断(リベラルvs 保守派など)を招く。デジタルに強い優秀な人材を雇っている。
グーグル
科学知識を授ける神(宗教)である。質問=告白であり人々の望み、夢、不安を盗み聞きして金を稼ぐ。人々が何をしたいかを知っている。
AIの力とビッグデータの活用スキルを駆使して個人の信条、趣味嗜好、交友、資産、健康状態、行動パターンを把握するのがGAFAやそれに続く企業の特徴である。
テスラ イーロンマスク
顧客との近さが従来のディーラーとは異なる。
ウーバー カラニック
出前屋さんではない。配車サービスで巨大なドライバーのネットワークでもある。著者はカラニックをゲス野郎と呼んでいる。
リンクトイン
職探し
エアビーアンドビー
宿泊
第10章 GAFA「以後」の世界で生きるための武器
Liberioは著者に共感しこの本(章)を読んで得をした気分になった。
今後の社会は超優秀な人材にとって最高、平凡な人にとっては最悪の社会になる。例えばウーバーにおける正社員とドライバーのように少数の領主と大多数の農奴で構成された封建社会の復活だ。大学を卒業した方が有利だし出来れば上位20パーセントのブランド大学が望ましい。資格の取得も有利だ。大会優勝など何かを成し遂げた経験が評価される。好きなことではなく、得意なことでキャリアを築きなさい。組織ではなく人に誠実であれ。理不尽なことがあっても職場は穏やかに辞めなさい。その方が後の評価が高くなります。
Liberioは読書感想文が誰かの興味を引くことは少ないと分かってきた。SNSに慣れた若い人は相手に同情したり幅広い価値観を認めたりが苦手だ。YouTubeだって好きそうなものばかり並べてくる。人の感性や思考は偏り、全般的に攻撃的になる。異にする者に対して誹謗中傷が先行する。
自粛が始まってから頻りに目にするようになった、おうち時間 おうちごはん などの言葉が気持ち悪い。自粛に関わらず従来から一定時間を家で過ごしていたのに、ことさら何か特別な振る舞いのように持ち上げるマスコミの感性に嫌らしさを感じる。漢字の誤字が増えているのと同じく、感性の問題というより知的な劣化だろう。いや、自分はつまらないことを感じ過ぎるとLiberioは反省した。
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