第7話 サクラさんとヨモギの葉

「それにしても、見つかりませんね。」


「そうですねー。雑草くらいしかないですよ。これ全てがヨモギの葉だったら良かったのにー……」


「ふふっ、僕もそう思います。」


 今はもう薬草採取で薬草を探し始めてから一時間くらいは経過したんじゃないだろうか?


 場所も2回ほど変えて探しているのだけどさっぱり見つからなくて、もう諦めかけていた。それでも、諦めないのはサクラさんがいるからだろう。


「……もう、町の方へ帰りますか?空も暗くなってきましたし。」


「……そうですね、しょうがないですけど諦めますか。」


「……はい。」


 そして、僕たちは帰ることにした。依頼の達成ができなかったからか僕とサクラさんの足取りは重い。


「初の依頼……失敗してしまいましたね。」


「そうですね、まさか薬草採取を失敗してしまうとは思いもよりませんでした。」


「そうで……ひゃっ!?」


 突然、サクラさんが転んだ。何に躓いたのかはわからないけど、それよりも怪我していないのか心配だったので確認するためしゃがんだ。


「大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫て…………あっ!!」


「なんですか?」


「これ……これ見てください!」


「あっ、ヨモギの葉……!!」


 これは、運命なんだろう。神様がサクラさんを転ばせたんだろうか。サクラが転んだその道の先にヨモギの葉は咲いていた。


「ここにあるのは……2輪ですか。それなら、1つずつ持っていきますか?」


「いいんですか?見つけたのはサクラさんの方なのに。」


「いいですよ。」


「それでは、お言葉に甘えて。ありがとうございます。それにしても、探すのはこんなにも難しかったのに、見つかるのはこんなにあっけないんですね。」


「そうですね、見つけた時間を返せって言いたいです。」


「「ふふっ」」


「「ははははっ」」


 初心者の森の中、夜になって暗くなった道の上で僕とサクラさんは楽しく笑っていた。


 そして、1輪ではあるけど、依頼は持ってきただけその分のお金をもらえるということで、数指定はなかったから依頼達成することとなった。


 まぁ、だからたった1輪ではあるからお金は1ゴールドしかもらえなくて小さいパンでさえも買えないけれど、買えなくていい、そう思う。


 だって、この1ゴールドは記念に残すからだ。初めての依頼だから、そしてサクラさんと初めての共同依頼だからだ。


 たった1ゴールドぽっちであってもすごい嬉しかった。







 そして、僕は冒険者ギルドを出た。


「……ふぅ。じゃあ、今日は終わりにしようかな。 《メニュー》」


 →『ログアウト』


 そして、VR機器を外す。


「疲れたー。それにしても、初めてゲームをしてみたけど、ゲームってこんなに面白いんだ…!」


 ゲームって、現実世界では何も変わらないし、っていうか寧ろ目が悪くなる最悪なものだっていう印象だったけど、みんながしようとするのも納得できる。


 明日、学校から早めに帰ろう……っと。


「ん…?学校……?明日学校だったな。」


 あっ、宿題やってないー……


 今何時?……って、もう10時じゃん!そんなに経ってたんだ!楽しい時はすぐに過ぎていくと聞いていたけど、本当にその通りじゃん!


「……徹夜だね。」


 僕は、覚悟を決めた。ちなみに、宿題がすべてすんだのはもう11時を過ぎた頃だった。


 正直きつかったけど、このファンタスティックワールドオンライン……略してFAOのゲームは楽しかったから、この日は最高な一日だったと思う。


 学校の勉強なんていいじゃないかって、そう思うくらいに、僕はゲームにのめり込んでいた。


 そして、いつかサクラさんとも現実世界で会ってゲームの話をできないかなー、なんて考えながら、眠気に逆らわず眠ることにしたのだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『サクラさん目線』


「はぁー……。楽しかったー。」


 私は、FAOの世界からログアウトをしてこっちの現実へ戻ってきていた。


「始めてから3日くらい経つけど、まだワクワクが止まらない……!」


 それに、優しかったな、ハルさん。こういう人が周りにいてくれたら、私も教室に馴染めていたのかなー……


 そういえば、現実世界の地味な私にも優しくしてくれる人がいたよね?確か、同じ図書委員のー……遥斗くんだっけ?……はると?……いや、まさかね。


 こんな近くになんて偶然、あるわけないわよね。でも、もしそうだったらいいな。そうすれば、もっと遥斗くんと仲良くなれる……!


 なんて……そんなことあるわけないのにね。

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