第28話
ではなぜ王様、というより城の人間がこの隠し通路を知らないのかという話だ。
隠し通路が作られたあとの長い歴史の中で、人魚に対しての報酬が金銭になり、支払いもなるべく極秘理にするため城ではなく自治領近くの役場で、なおかつ
「王室保有の河川の維持管理を手伝っている人魚に対する報酬」
という形で支払われるようになった。
人魚に支払いを行う田舎の役場の人間は
「王の為に働くとは人魚ながら立派なことだ」
と特に疑わず、むしろ書類を読み聞かせたり代筆したりと親切にしたうえで、報酬の支払いを一時的に立て替えて上の部署に請求をする。
その部署は各地から集められる膨大な請求書を整理し、問題があるものは監査に回すなどしてまた上の部署へ。
その部署は書類をまとめ王室予算から支払うものは王室に回したり、適切な予算名目から支払いを行うなど適切な処理を行う。
その部署から請求書が回ってきた王室(実質的には役人が回しているが一応行政とは別物)の者達は、王室がもつ資産の管理費などを確認し行政が代理で支払うように手続きを行ったり王室自ら支払ったりする。
時代とともに人は移り変わるがしっかりとしたマニュアルと指針に従って行動するので大きなミスはめったに起きない。起きたらその都度対処して指針を変える。
そんな世界では各地から回ってくる大量の予算関係の書類の中に埋もれている
「王室所有の河川の管理に関わった人魚に支払われる人件費」
など注目されないのだ。そこを狙った存在の隠し方である。
しかしだ。隠し通路の出番はつい先程、王様一行が間違って落ちるまでなかった。なので城ではいつのまにか設備の保守点検すらなあなあで取りやめになってしまった。
あのブザーが鳴り響こうが聞くものはいない。
そうなると。そのうちみんな存在を忘れてしまい、関連するマニュアルや書類も城に保管される誰も見直さない大量の書類の中に埋もれてしまうことになる。
そうなると王室所有の河川の管理に関わって田舎の人魚に支払われる金貨一枚の本当の意味も失われてしまうわけだ。
城の役人たちが何かのきっかけでその請求書を見ても
「王室の河川を整備するのに人魚を雇ってるのか。もう何年も同じ仕事を続けている。真面目な人魚だ。私も見習わなければ」
でまたしまい込んで終わり。
しかし人魚は王から授かった名誉ある仕事なので代々律儀に働き、毎月律儀に請求しつづけた。
そして本質は失われたまま請求書は王室に届き続け金貨は払われ続け、支払ったあとの請求書はファイルにまとめられ倉庫に保管されていった。
なんとも奇妙な話だが、この話がなければ三人はあの地下で迷って骨になってたかもしれないし、人魚の自治領は貴族に奪われただろうし、不正は成功し正義は果たされていなかっただろう。
なのでここであえて言わせてもらう。
お役所仕事バンザイ!!
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