第27話


さぁそこからは上へ下への大騒ぎといった具合。

王様と魔法使いである。これはしっかりと歓待しなければ、と言ってもだ。


「君らの負担になることはやめてもらいたい」

「王がこう言っているのですから従いなさい」


二人ともむやみやたらと威張るために周りに無意味に負担をかけさせるのは好きではない。

しかしこう言われると対応に困るのが迎える側。

面子、礼儀、そういったものがあるので接待しないのというわけにもいかない。


「あの二人が言ってるのは特別扱いはやめろってことだ。ここいらにだって役人なり貴族なりが来るんだろう。そのときと同じように茶と接待相手を用意したらいいんだ。それならあの二人も文句は言わないし、あなた方も礼儀知らずとは言われない」


長の困り顔をみた魔王はそう入れ知恵。

長はその助言に従い、いつもどおり集会場に茶と茶菓子を用意させた。



「陛下様」


あまり集まっても失礼、というわけで人魚の長とその嫁が3人を接待していたところ、白いひげの人魚と三人と一緒に来た若い娘の人魚がザブザブと集会場に泳いできた。


「二重敬語だ」


魔王はなんとくそういい、王の前で固くなり気が回せない長に目線で紹介するよう指示。


「こちら、我が村の住人でして、えぇ、殿下を連れきたそこの娘の祖父にあたるものです」


変な紹介ではあるがなんとなくわかった。


「お初にお目にかかります。本来であれば私が行うべき職務でありますが、歳と病には勝てず無断で孫娘に任せておりました」

「陛下の言葉を信頼せず申し訳ございませんでした」


と言っておじいちゃん人魚と小娘は謝罪。病をおして出てきたのは謝罪したかったから。

しかし二人にしてみると


「あぁ、うん」

「面を上げなさい。私は気にしないしそういった事情であり、代理の者を立てていたのであれば罪などに問われることもないだろう。そっちの娘については、まぁ、私は身分証というものがないからな。鵜呑みにせず疑うのはむしろ聡明なこと。聡明で美しいとはよい孫を持ったな」


そもそもあの通路の存在を知らなかったのだ。

そんな真面目に謝られても困るってものだし、娘についても今更とやかくいうほど野暮な連中でもない。


「一つ聞きたいのだが」

「なんなりとお聞きください」

「貴殿はなぜあの仕事を?」

「元々は私の子供の頃、近くに住んでいた一家が代々受け継いおりました。そこの子どもたちはみな死んでしまい、その家族と付き合いがあった私が変わりに受け継いだ次第でございます」


なるほど。家で受け継がれる仕事や技術を何かしらの理由で近所の人間に渡すのはないことではない。

そう思って魔法使いは追加で質問。


「その家の者がなぜその仕事を行っているかは聞いたか?」

「は、遠い昔、あの城ができた頃、王のための隠し通路を作りを手伝った者の末裔だと聞いております」


彼の説明はちょっと不十分だが、正確な資料がでてきて経緯がわかるのはここから50年はあとの話だ。

歴史の話など授業でもないのにしたくないのでさっくりと説明してしまうが、この自治領に住む人魚の何割かの祖先はあの隠し通路を作るために招集された人魚たちである。


その報酬として山間の無価値な土地を与えたのだ。

人間にとっては険しく開発もできない土地だが、人魚にしたら大きな川があるという素晴らしい土地。

そのあと、出稼ぎ労働などで自治領の話を聞いて移住した人魚がいたりでこの村にはいろいろな血が混じってる。それに人魚は人間ほど歴史にこだわらない。

なので今残っているのはぼんやりとした王への敬意と隠し通路の整備という仕事だけ。


「なるほど。そうか」

「一つ聞きたいんですが、娘さんから報酬は金貨でもらってるって聞いたんです。どこでどうもらってるんですか」


王の言葉に魔王は横から口を挟む。

礼儀知らずではあるが、なんだか許されてる雰囲気。腕も立つし、闇の国の貴族様だろうかとは長の印象。


「山向こうの貴族様の領土にある役場で頂いて。毎月一回行きますと役場の者が代わりによくわからぬ書類を読み聞かせ、私の代わりに代筆してくれます。恥ずかしながら私は学もなく字が読めぬ物で、内容はわかりません」

「私は自分で書きます。王室所有の河川点検に対する請求書とかいう書類です」

「請求名目が違いませんか」


なんでそんなことを聞くんだろうか、というおじいちゃんと、なんでそこまで気になるんだろうという小娘の顔色。

そんな二人の話に対して魔法使いの素朴な疑問。


「そりゃ王様の隠し通路の保守点検にたいする報酬なんて口実で払ったら隠し通路の存在がばれるでしょ。適当な名目で隠さなきゃ」


それに対して魔王のツッコミ。

魔法使いは中間管理職だが、こういう書類周りの話は未だに苦手。


「なるほどな。あいわかった。王室に対する長年の」


その点王様は顔色一つ変えずなるべく威厳があり、なおかつ目の前の庶民にわかりやすそうな言い回しで二人が行ってきた王室に対する献身的な長年の働きを讃えた。


当たり前だ。自分のために隠し通路を維持管理してた者達に対して「隠し通路のことを実は忘れてたんだ」とか言えない。

というか娘に対してはもう似たようなことを言ってしまったんだよ。だからここは威厳たっぷりなムーブと王室の権威で誤魔化そうという戦法。

それは非常に効果的で、二人は王直々の言葉に大変喜び深々と平伏して、感動した。

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