第22話

二人が川から上がったころ、城から来たという勅令を持った使者二人とそれに合わせて付いて来た貴族、そして従者の三名の男は困惑していた。


「高名なあなたがなぜ」

「事情を聴いていないか?」


自治領の人魚たちが集まっている集会場。

さわぐと困る年齢の子供とその子守りをする人魚以外はみなそろっている。村民(村魚?)もある程度納得しているとは言えこの自治領についての一大事だ。

その場所でこの国の人間ならだれでも知っている魔法使いが従者を連れて人魚たちに出された茶を飲んでいるのだ。

この茶と茶道具もたまにくるお客様用にと行商から買ったもの。そういう時代。


「いえ、その、城の方からは時間がかかりますので」

「まぁ良い。仕事をしなさい。終わったら事情を話すから」


彼は城の魔法使いのトップである。つまり勅令を田舎まで伝えるような下っ端に少々無礼な口をきいても許される立場。


「は、はぁではお伝えしますが、陛下の勅令に基づきこの土地の自治領の権限を外し、こちらの(貴族の名前が読み上げられるがここではそこまで重要ではない)殿の土地に編入することをここに宣言する」

「ははぁ」


持っていた書類を読み上げる使者。

集会所に集まっていた人魚たちと貴族は敬意を示し平伏する。

大昔にこの土地を自治領として認めた王室に対する尊敬はあるのだ。

その割にみんな今の王様の顔を知らない。

正確には


1 2つ隣の街の新聞に書かれていた

2 都の新聞にかかれていた似顔絵を田舎の絵心がない画家が写したという下手な似顔絵を

3 隣町の新聞が真似て書いたもの


でしか知らない。

まぁ権威は人につくわけじゃないし王室という人がいるわけじゃない。


「見せないのか」

「は」

「勅令を読み上げるときは読み上げた後に勅令の書状を見せるのが決まりだろう」


魔法使いの従者は言った。


「そ、そうですね、失礼、緊張してしまって」


そう言って使者は勅令の書状を見せた。

勅令を告知する際の書式に従って書かれ、最後に王のサインがあるもの。

ただし


「それは君、数年前に廃止された古い書式だぞ」


魔法使いの従者は言った。


「あとサインが違う。ニセ勅令発行は重罪だ。覚悟してのことか」

「なんと、あなたいくら王の勅令を偽物扱いとは不敬にもほどがありますよ!」


となりにいた貴族は叫ぶ。

そこで彼はその従者の顔をどこかで見たことがあると気づく。

あれは、この地域の貴族で集まり城に登城した時だったか。


「不敬と言われてもな」

「この村の人魚が誰一人王の顔を知らぬ、というのは新聞に乗せる笑い話にもなろうが王に仕える貴族である貴君が知らぬというのはいくら末席とは言え笑えぬ話だぞ」


王様は自嘲するように笑い、魔法使いは真面目に怒る。

彼も彼なりに敬意があるのだ。

その言葉に困惑したのは人魚たち。


どういう意味だ?まさか本物だったの?王様ってもっと鼻が高くてももじゃもじゃあたまじゃないか?新聞でしか見たことねぇから知らねぇよ?

そんな感じ。


「え、えっと」


勅令を持った使者二人は意味が分からず困惑。

そこに入ってくる二人の男。

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