第21話
教師は改めて魔王の方を見た。
「あなたは勅使様のお供ですか?」
「いや違う。事情は面倒だから省くが、まぁ望まないままここまで流れてきた感じですね」
「はぁ」
困惑の表情。
それに対して魔王は問う。
「勅使の話になにか不満があるみたいですね」
「陛下のご命令に不満があるわけではないのですが」
陛下の顔も知らない人魚たちと違って城下町で生まれ育った男だ。
王にたいする不遜な物言いは常識が許さない。
問題は目の前の男にそれは通用しないという事。
魔王である。
「不満ではないとなると、疑問ですか、それとも嫌疑?」
「はぁ」
こう改めてみると見ると不思議な魅力がある青年。
人の雰囲気ではない。なんだろう。
少しくらいなら話していいか、という気持ちにさせる。
人間は人魚より鼻が利かないのだ。
「自治領の特権解除で陛下の勅令が出される、はわかるんですが、なぜこんな土地で自治領の特権を解除するのかと言う点が疑問で」
「自治領から外してどうするとか聞いているんですか?」
「いや詳しくは。ただ自治権を解除して山向こう」
そう言って山を指さす。
「の貴族様の土地に編入するという話とは村長に聞きました」
「陸の方は貴族に管理してもらってるとか聞きましたが、ならいっそのこと正式に管理してもらうって話になってもおかしくないのでしょう。領地というよりも村くらい規模だし」
「いえ、陸地の管理をしている貴族様は」
そう言って先ほどとは反対側の山を指さす。
「向こうの山の向こうに城を構えている方です。そこも疑問なんです。いま管理しなさってる貴族様を差し置いてどうして別の貴族に土地を渡すのかと」
「なるほど」
誰が管理を請け負っているか、ということが領地の改定や整理に影響がでるなんてことはない。領土を取り上げたり与えたりするのは王の特権だからだ。
ただそれは建前上の話。貴族として土地を管理する以上、地縁があるなどで土地の事情を知っている貴族の方が優先されることが多い。
そんな事を外国人の魔王は知らないが、言いたいことはわかる。彼も統治者の側。
「ここにあるのは川と山と魚と人魚だけです。人魚でも新聞なんかを読んで世情を理解している者は
自分たちが稼ぎ始めたから自治領の特権を取り上げて人間と同じように税金を払わせたいんじゃないか
と言って、これはこれである程度賛同を得てます。だけど、それなら徴税に関する法令であって、自治権を云々なんて話にならないはずです。彼らは人間社会に慣れ始めてますが、人間社会の便利な上っ面を浚うだけでそういう細かな部分はわかってない。貴族にしたって、こんな土地、得られる税金より管理する方が金がかかるでしょう」
疑うべきはそこか。
「不満でも疑問でも嫌疑でもなく、わからないんですよ。何がなんなのか」
「不安ですか」
魔王はそう言って川から上がり
「そろそろ連れの所に戻ろうかと思うんですが、あなたも来てください。役に立つ」
といってよくわかってない教師を連れて集会場に向かっていった。
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