第20話

子供達は先生と魔王の指導の元書き取りをしたあと、復習をするように言われて解散。


「助かりました。子供たちは飲み込みが早くて私も追いつけないことがあるんです」

「いいことじゃないですか」


先生は、魔王に川のなかの机の回収を手伝ってもらいながら言った。

そこで魔王は聞く。


「あなたは人間でしょう。それが人魚の先生ですか」

「えぇ、私は城下町生まれの人間です」


先生は苦笑いしながら答える。

よく聞かれるのだろう。


「城下町で教師の資格を取ったんですが雇い口がなくて、こっちで雇いの口があったんでよく調べず流れてきたんです。あれは王様の就任パレードがおわった翌日だったから、考えてみると長く働いてるな」

「ならびっくりしたでしょう。教える相手には足がないなんて」

「まぁ最初はびっくりしましたよ。人魚なんて物語でしか知らない世間知らずでしたから」


別に人魚が珍しいというわけではないが、基本や川や海に住む。

城下町のような都市部や山の民なら彼のような人も珍しいわけではない。


「しかし人魚たちも読み書きを習う必要があるんですか」

「別に必要はありませんよ。でもその方が便利がよくて金が稼げる」


教師はそう答える。


「川岸に立つ玄関の扉はみましたか」

「えぇ、郵便に使うとか」

「郵便だけじゃありません。人魚の中には新聞を取って世間の話題に追いつくものもいます。最近じゃ新聞を真似て自治領で広報を作ろうなんて話もあるそうですよ」

「なんだかロマンがないですね」


魔王の感想。

それに対して教師は何かを思うように答える。


「川岸に座りハープを、なんて時代は終わった。と言うより終わらざる得ないんでしょう。人間との付き合いをするためにみんな水着だったり上着を着てますけど、あれだって近所の村で裁縫を習った人魚が作ってる。いまじゃ手間賃と生地代を貰って商売として成り立ってるくらいだ。男たちは川岸だったり水上の工事があるとなるとどこにでも出稼ぎに行き、金を稼いで水着だ食料だといろいろ買います。そういった男たちは近状を知らせるのにへたくそな手紙を書いて郵便を使いますし、女たちも返事を書いて送るんです。だから近くの村の郵便屋は週に数回郵便を配るついでに手紙を集めに来る。金を持ってるとなると行商も来て野菜なんかを売りますし、逆に魚を取って行商に売って稼ぐ人魚もいる。そんな中で読み書きができればもっと稼げるって気づいて私を金で雇った。優雅に魚を取って暮らしたまに人をたぶらかす、なんてのは私たち人間から見たロマンと回顧主義でしかない」


「そうなんでしょうが、なんだかね。俗な部分を見ちゃうとしらけるというか。でもそれは物語的なロマンだけを楽しむ側の都合でしかないか」

「そうですよ。彼らにも私たちと同じく便利を享受する権利があるんです」

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