第18話

人魚の世界にも王様はいるのだろうか。


魔王はそんなことを思ったが、まぁ村長的な人魚はいるらしい。

目の前にいる。下半身は魚で顔はひげ面。上は正装っぽいよれよれな服。

もともとはパリッとした正装だったのだろうが、彼らはこれを着て水の中を行き来する。濡れて生地がダメになった結果がこれだろう。


「これはこれははるばる遠いところにおいでいただきまして」


高名な魔法使いとなれば礼儀を尽くすのが筋というわけで、無駄に長い挨拶。


「いえいえ」


その割に彼も王様の顔を知らない。

まぁど田舎の村長が一国の王様の顔を知ってるなんてのもおかしな話か。

新聞も週に数回しか届かないらしいし。というか届くのか。人魚も新聞を読むのか。


「しっかりとしたおもてなしするのが筋ですが、今日は少々立て込んでおりまして」

「何かあるのですか?」

「陛下の勅令を持った使者がおいでなさるのです」


人魚たちと対談してるのは変わった建物だ。

集会場のように屋根があるが、人間が座る椅子や机があるのが半分。あとの半分は池だ。川から水を引き込んでいるので人魚が出入りできる。

国からの伝令や勅使、人間の接待なんかはここでやるのだとか。


「勅使?勅令など出ていないかと思いますが」

「はぁ、私もこれから詳しく聞くのですがなんでも領地の改定やら整理やらで、自治領ではなくなるとか」


魔法使いは王様を見る。


「僕は聞いたことがないな」


ここ最近領地改定の勅令など出した覚えはない。


「さようですか?前から似たような話はたびたびでておりますので、おそらくその関係かと」

「自治権を失うって大きな事かと思うのですが、ずいぶんと軽いのですね」

「えぇまぁ、自治領と言いましても我々は川の中に住むばかりで。法律や郵便など陸の方は隣村の領主様に委託しているようなものですので、失ったところで生活に大した影響はありません。ならば陛下のご意思に従うのが道義だと」


この国の役人である魔法使いとその上司である王様ならともかく、よそ者の魔王がそんな会話を聞いていても仕方ない。

と村長人魚と魔法使いと王様の会話を背中で聞きながらその場から集会場からふらっと消えた。

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