第16話 人魚自治領編
「埃の中を泳いだみたいだ」
王様は魔法使いの腰を離してそういった。
ほかの三人もそれには同意。とにかく埃臭い。
何十年も動かしてないのだから当然といえば当然。途中で止まらなかっただけまし。
「あなた達、見ない顔ですがどちらさんですか」
「お父さん」
出てきたのは、人の家の前である。
正確に言えば、人の家ではないし家でもない。
山間の大きな川の川岸に玄関の扉だけが立っている奇妙な光景。
そしてその横からひょっこりと顔を出した人魚の男。
「あらやだ。お仕事はどうしたの」
その隣からもう一人、中年の人魚が顔を出す。
人魚は川に飛び込み、元の姿へ。
「ご両親かな」
「はい。お母さん、この方は」
と魔法使いの紹介。こういうのは一番偉い人を紹介するのが相場。
「あらやだ。そんな高名な方をお出迎えする用意なんてできていないわ」
「いや、押しかけるように来たので」
「それよりも一つお伺いしたいのですが、ここはどこですか?どこかの貴族の土地ですか」
年寄と中年二人の会話は長引くだろう。と無礼を承知で割り込む王様。
貴族の名前を聞けば大体の土地がわかるのが王様という職業で見についたスキル。
「ここはわたし達人魚の自治領でございます。西の方に2時間も泳げば都につくでしょう」
王様は頭の中で地図を開く。
都の近くにあり泳いで数時間の場所の人魚の自治領。となれば記憶の奥底のあたりに思い当たる土地が一つある。
いくつかの貴族の土地に挟まれた、小さな土地だ。
「妙なところに出てきたな。陸路なら城から半日以上かかる場所だ」
「彼らの言い分と随分と差があるんですね」
「山を超える必要があるんだよ」
大きな山の間に挟まれて大きな川があるという難所。
大きな川を泳いで城下町まで来ることができる人魚と違って、人間は山超える必要がある。なので城下町からは距離とくらべて時間がかかる。
王様という商売の関係で地図をよく見るし、人魚の自治領は珍しい。というわけで記憶の片隅にあった。
「まぁ筋は通ります。あの隠し通路を使う時は敵から逃げるときなわけですから、敵に見つかりにくい場所にいく方がいい。こういう山間の人がめったに来ないような場所はまさにうってつけですから、ここまで飛ばす魔法が仕掛けられていたということでしょう」
魔王の意見に王様も賛同。
問題は
「どうやって帰るかだよなぁ」
財布というものもない。
王であると証明する手段もない。
自分より顔を知られている老人と、隣の魔王だけだ。
「手札としては最強なんだが、役に立たない札ばかりだ」
呆れたように笑う王様。
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