第11話

王が王であることを証明するにはどうしたらよいか。


これは中々難題である。

まず身分証の類を王は持たない。

その身分証を発行する役所、行政は王の物である以上、王の持ち物が王の身分を証明するということはできないからだ。

では何かしらの技能、魔王が先程見せた翼のようなもの、があるかといえばそんなものはない。王はただの人間である。


「何か王家か王の象徴的なものは持っていないのですか」


魔王は言った。

象徴、つまりこれを持つ者が王であるという印。

確かにこの国には三つの王の象徴がある。


王冠

剣。


「あるけど金庫においてある」

「持ち歩きなさいよ。一つくらい」


国民の統治を象徴する王冠。これはいろいろな色の宝石がきらきらひかる美しいものなのだが、普段使いするようなものでは無い。

なくしても困るのでイベントのときだけ持ち出す。というかイベントの時すらつけないことがある。

この言い回しのように無駄にキラキラしてるのだ。あと重たい。頭に載せとくだけでもだるい。


そして杖。魔法使いを象徴するものである。魔法使いの伝統的カラーである薄い青と魔法に対してあるモンスターの素材が使われた一品。装飾は派手ながら実用性も重視して作ってあり、魔法が使えた先代などは腰によく刺していた。

しかしこの王は魔法を使えない。よって持ち歩くことはこれまたイベント程度。


最後の剣。この国の軍事を象徴するもの。

王と共に数々の戦乱をくぐり抜けてきたと言われる名品。拵えに大きな傷が2つある。これは昔の王が見を守った証。

しかしだ。この王様は文民。官僚タイプ。剣など振らない。なのでこれまたイベントで持ち出す程度。


長々と書いたが、端的に行ってしまえば今この場で

「おじさんの冗談にしても笑えませんよ」

という人魚の小娘に反論する方法がないのだ。この国で一番偉い王様なのに。


「王様なのになぁ」


魔王はそう言って呆れてしまった。



この数カ月後、王の象徴に準ずるもの、つまりは王の身分証として王家の紋章が掘られた指輪が作られ議会に承認された。

王はその指輪を「人魚の指輪」と呼んだとか呼ばなかったとか、後の世にはそんなことが伝えられている。

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