第7話

執務室でお茶を飲んでいた三人の足元に穴が開いた。


比喩ではない。物理的な大穴だ。

城が攻められたとき、緊急時、隙を見て逃げ出すという目的で作られた隠し通路。

この城ができた当時からあったものだ。


王子が使ったからくりはもっと後の時代。王家の安定期となり外敵よりも内部の反乱が問題視されたときに増設されたものだ。

内部の者が王を人質に取り執務室にたてこもった際、壁を破壊して攻め込む荒業。

むやみやたらと知られるべきではない、と一部の選ばれた王族にのみ伝えられている。


この二つは全く目的が違う。

なので同時にからくりが動く。ということはあり得ない。

あり得ないはずだがなぜか同時に動いてしまった。



そもそもこの隠し通路。王族ですら

「話は聞いたことがあるがどうしたら穴が開くのかわからない。というか実在するの?」

レベルの存在。

一子相伝口外無用の隠し技術は往々にして忘れられるが、この穴もそういう類の物だ。

この城ができた当時から、運よくだが、執務室に籠城するような事態は起こっていない。

それに存在を知っているのは王家の人間。つまりからくりや技術の素人。設計図などは外部にもれないためにすべて焼き払われている。

なのでどこがどういうからくりで動いているのかもよくわからない。あるらしいとは聞いているが、王様は忙しい。調べる暇などない。


このからくりの存在を知ってる。というか見たことがあるものがいる。

壁を破壊するからくりを作った技術者たちだ。

王家から極秘の命令ということで工事をしている最中に、何かよくわからないからくりを発見した。

発見したものを上に報告するのが正しいやり方だが、彼らはこの城の役人ほどマニュアル脳に侵されていない。


というかその時点で契約の工期は超えていたのだ。そうなると経費もオーバー。報告で調査も入るとなると確実に赤字。


というわけで

「よくわからないが、まぁ見て見ぬふりしよう」

という発想になった。


ただ当初の設計図通りとはいかず現場で適当に書き換えてからくりを作ることになった。


この二つの条件がうまく合わさった結果起きた事故がこれである。


つまりだ。抜け道の存在など知らず、そのうえでお茶を飲めるようなテーブルなんかを置いていたという普段の状況。

よくわからないからくりを放置し、自分たちの設計図を現場で適当に改変するというずさんな工事。


その結果として

「ずさんな工事の結果、外の壁を破壊するからくりを動かした瞬間隠し通路の穴も出てきてしまうようになっていた。偶然その上に人がいたので穴に落ちた」

という事故である。


ここまで長々と書いたが、そんなのはこの話の中の人々は知らない。

数か月後くらいに検証委員会なるものが政府内で開かれ、その検証と調査の結果、さらに半年後くらいに知ることになる。


「お」

「なんですか」

「うわぁぁ」


この国で一番偉大なる魔法使いと、この闇の国を事実上統治する魔王の息子、そしてこの国で敬愛される王様は三人そろって穴に落ちた。


そして外の衛兵が突入する前に、穴はふさがりその存在を隠す。

魔法とからくりをミックスしたすごい技術。

でも突入した人間たちはそんなの知らない。

わかるのは


「魔王が王の執務室に立てこもった」

「突入したが魔王も王もいない」


の二つだ。

そうなると


「陛下が連れ去られたぞ」


リーダー格の男が叫んだ通りの結論にならざるえないわけだ。

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